一番の地雷を踏みました
「なぁ、花恋?」
「・・・・何よ」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどよ?」
俺が顔を覗きこむようにして聞くと、花恋は怒ったような、なんと言うか、そんな表情をした後、ため息をついた。
「何よ?」
「あのよ、お前が好きな奴のことなんだけど・・・・」
俺がそう言った途端、花恋の顔から怒りの表情が消えて、逆に、真っ赤になった。多分、さっきの行動で、俺に好きな人がバレてしまったんだろうと思ったから赤くなったんだな、うん、そうに違いない。
「とっ、突然何言い出すのよ!馬鹿!!」
「ばっ、馬鹿って・・・・。そいつの特徴を教えて欲しいんだ」
「とっ、特徴・・・・?」
「そうそう」
俺がそう言うと、花恋はしばらくの間色々と考えていたみたいだけど、最後の最後にはポンと手を叩いたかと思ったら、いつも通りの顔に戻って俺の方を向いた。
「わかった。教えてあげるわ」
「おおっ、じゃ、教えてくれよ!」
「かっこよくて、背が高くて、痩せてて、黒髪で、何よりも、頭がいいわ」
「ふんふん。なるほど・・・・」
俺は、言われた言葉を一つ一つ思い返しながら修のことを思い出す。修は、かっこいい。同性の俺から見てもそう思えるんだから、女の子から見ても、絶対そうだろうな。それに、背も高いし細身だし、黒髪だ。それに、頭がいい・・・・。
俺はそう思って、やはり、俺の考えは間違いではなかったと確信した。いつもは勘違いしてばっかりだったけど、今回は、ちゃんと正しかったみたいだ。
そう思うと何だか嬉しくて、体で喜びを表現しようとした時、後ろを歩いていた花恋が口を開いた。
「・・・・って言うか、あんた、どうして私が現在好きな人がいるって知ってるのよ?私、あんたに言った覚えは絶対にないんだけど」
花恋の言葉に思わず凍りつく。そうだ。確かに、花恋の言うとおりだ。あの時聞かされた俺は、有澤瑞人じゃなくて、怪盗エンジェルである、新見水斗。その二人を別人だと思っている花恋にとってはおかしなことだ。
俺は、何とか必死で考える。だってよ、花恋の好きな奴がいるってわかったから、それを応援したくてさ、つい、記憶が混ざっちゃったんだ。
いつもなら、そんな風にならないように上手く覚えてるはずなのに、今回ばかりは、どちらの時に聞いたのかと言うことを忘れてしまったんだ。
「あっ、えっと、その・・・・」
「それに、私、誰かにそう言うことを相談したこともないんだけど」
「そっ、そうか??俺、昔聞いた覚えがあってさ~」
「昔って何時よ?」
俺の考える言い訳一つ一つを真っ二つに切りながら歩み寄って来る花恋は、剣道有段者の人よりも怖く見えた。いや、そんなことはどうでもいいんだ。どうにかして言い訳を考えないと・・・・。
「もしかして・・・・」
そう花恋に言われて、俺はかなり慌てる。それに続く言葉がとても怖い。「あんたがエンジェルなの?」とか言われたら、俺はもうお仕舞いだ。
でも、俺は、上手い言い訳を考えることも出来ず、花恋が口を開いた。
「エンジェルに教えてもらったの?」
「・・・・え?」
「だから、あんたのところにもエンジェルが来たの?」
「・・・・」
花恋の言葉に、俺は思わず何も言えなくなる。俺が思ってるとおりのことを花恋が言わなくてよかったと思う。でも、いつもは鋭く突いて来る花恋の言葉が外れた為、俺は、なんとも言えない放心状態のようなものに陥っていたのだ。
「ちょっと、聞いてるの!!」
「あっ、わりぃ、そうそう!そうなんだよ!昨日の夜、俺のところにもエンジェルが来てさ!もう感謝感激万々歳!握手とサインしてもらってさ!」
「それはよかったわね。それよりも、私の質問に答えて。私、エンジェルにしか好きな人がいるってこと言ってないの。って言うことは、エンジェルからあなたにそのことが伝わったってこと?」
そう花恋に聞かれて、俺は選択肢を失ったことに気づいた。だって、違うと答えれば、「じゃあ、誰から聞いたのよ?」って言われることになるし、そうだって答えれば、花恋のエンジェルに対しての信頼が落ちる。
実を言うと、今日の夜も、花恋のところに行って、色々と聞こうと思ってたんだ。だから、その選択肢は好ましくない。と言うことは・・・・自分で選択肢を作るしかないってことか。
「えっとまぁ・・・・なんて言うかさ、実は俺、好きな人がいて・・・・それで、エンジェルが来てくれたって言うかなんて言うか・・・・」
俺は、照れた演技をしながら言う。これは嘘だ。だって俺、今のところ、好きだって思った子なんていないし、それに、現在だって、そう思ってる子はいない。だけど、これしか選択肢はなかったんだ。
俺は、しばらくの間そのまま下を向いていたけれど、花恋が一向に話し出さない為、どうしたのかと思って顔をあげる。すると、花恋は今までに見たこともないような表情をしていた。
「ん?どうしたんだよ??」
「・・・・ううん。なんでもない」
「いや、なんでもないってわりには、すんげー落ち込んでるように見えるけど?」
「落ち込んでない」
花恋は何回も言い切るが、絶対に落ち込んでると思う。いつものトゲのある口調じゃない。どんな時も、トゲのある口調を忘れない花恋がトゲのないバラだなんて、絶対におかしい。
「なぁ、どうしたんだよ?」
「・・・・どうもしないわ。ただ、何だか馬鹿らしくなっちゃって」
「・・・・ん?何が??」
「気づかないの?」
「気づかないの?・・・・って、何が?」
俺がそう聞くと、花恋はバッと後ろを向いたかと思ったら、突然走り出してしまった。
「あっ、ちょっ・・・・待てって!」
俺は慌ててそう呼びとめようとするけれど、花恋に「来ないで!」と言われてしまった為、今は追いかけるのをやめようと思った。
こう言う風に言われた時に追いかけると、よくなった試しが一度もないのだ。
本当は後を追いかけて、そんな風になってしまった原因を聞きたかった。もし俺が、気づかないうちに花恋を傷つけるようなことを言ってしまったんなら、ちゃんと謝りたかった。
でも、今は何を言っても聞いてもらえないだろうなと思って、仕方なく、家に帰ることにした。