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想造世界  作者: 玲音
第二章 三つの国宝
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魔界の国宝 冥道編 終戦

しばらくの沈黙が流れた。それから、急に女帝が笑い出した。


「ほっほっほっほっ。骸骨の幻影に引っかかるような奴が、私の幻影を見破れるとでも思っているの?」

「げっ、幻影?」


「そう。あなたは幻影を見させられていたの。本人の心の負担などが、幻影によって映されるの。あなたは、相当無理を感じてる。だけど、一人で背負い込むことしか出来ない。だから、相当うなされてたわ。そのまま本当に殺そうと思ったのに・・・・」


女帝がギロリとスクリーンの方向を睨む。恐ろしい睨みで、それを向けられたのは僕じゃないとわかっているのに、寒気がした。


「あいつが邪魔をした。許せない。まずはこいつ等を殺してから、あんたを殺してあげる」


今度は僕じゃなく、画面に映っているみんなが危険な状態になってしまった。今まで羽交い絞めにしていた骸骨が、女帝の合図で首を絞める。


「やめろ!僕を先に殺せ!!」


「あら嫌だ。そんなに本気にならなくてもいいんじゃないかしら。どうせ、妖怪や人間なんて、この世には沢山存在する。その中から代わりを見つければいいじゃない?でも、自分はただ一人。まさか、自分の命を犠牲にして、人の命を救おうとするなんて・・・・。救いようのないバカね」


「女帝、あんたは大切なものを失ったと言っていた。それは何だ?」


急に心が静かになり、やけに落ち着けた。体の中の力がドンドン大きくなって行く。意識をしないと、溢れ出しそうだ。


「あんたに関係ないわ。あんたにも、私と同じ気持ちにしてあげる」

「そうやって人のことを苦しめて、なんになる?人と自分を同じ気持ちにして何が楽しい?亡くなったあんたの大事な人が、それで喜ぶと思うのか?」


僕の言葉に、一瞬怯む女帝。力が弱まった隙を見て、みんなが骸骨を突き飛ばす。


「うるさい!だから、あんたに何が・・・・」


「わかるから言ってるんだ!僕だって、両親を殺された。あんたと同じ境遇だ。それに、人を陥れようとしたところも同じだ。でも、わかった。いくら最低な人でも、その人の変わりはいない。人を一人殺すのは大きな罪だ。それがわかった時にはもう何人も殺って来た後だった。女帝、あんたはもう何人も人を殺した。これ以上罪を重ねるな。全部を破壊しつくしてから、自分のやったことの恐ろしさに気づく。しかし、今更慰めてくれる奴なんかいないんだぞ?」


「いいのよ。私は一人でいるのがいいの。もう、誰とも関わりたくないの。その人を失った悲しみを、もう二度と味わいたくないの。だから壊すの。私と関わらないように、全部壊して、殺すの。冥道霊閃は、本当に全部の力を引き出せば、地球一個なんか簡単に壊せる。だから、もう邪魔しないで」


女帝の顔がゆがみ、鼻を啜る。僕は、何だかひとりでに口走っていたようで、あまり、言った言葉を覚えていない。


もう間に合わないかもしれないと思って焦る。地球が一個壊れてしまうなら、日本と言う小さな国なんかは、もうあっと言う間だ。それに、僕がダラダラしていたせいで、他の人が、何人犠牲になったのだろう。


冥道霊閃の妖気は、もうほとんど出尽くしていると言っていいだろう。これで、もう地球は壊れてしまうのか。本当に・・・・。


《犬神よ、あの女を説得するにはこれしか方法がない。我を使え》


天華乱爪が、僕の元に転がって来る。何だか嫌な予感がした。でも、やらないといけないと言う気がした。


「わかった。何をやればいいのかもわかった」

《そうか。なら、始めよ》


僕は、犬神の姿から、天使の姿になる。何て言うか、人間から犬神の姿に戻る時のような感覚でなれたから、もう、体が慣れてしまったのかもしれない。


「死海から蘇りし使者よ、己の体に、一時の生命をもたらす」


自然と頭に浮かんで来た文字を読み、持っていた天華乱爪を天に突き上げる。すると、何もしていないのに体が宙に浮き、宙に天華乱爪を刺し、グルリと円を描く。


すると、円を書いた線が白く光ったと思ったら、なくなった。そして、そこから何かが降って来た。よく見ると、男の人だ。何だか、勝手に動いていたけど、何が起こるのか全くわからないんだよね。


「プリウス!」


今まで、鼻を啜って泣いていた女帝が、勢いよく立ち上がって、男の人の名前を呼ぶ。


もしかして・・・・夫さんとか?だったら、正反対だ。太り過ぎと、痩せ過ぎと。


「アスラ!」


男の人が、走って女帝の元に近づく。女帝も立ち上がり、ゆっくりと歩く。そして、お互い嬉しそうに再会を果たした。


状況の飲み込めない僕達は、その光景を、ただ見ているしかなかった。男の人を連れて来た僕でさえ、意味がわからない。


「ずっと空から見ていたよ。でも、どうして地球を滅ぼそうとするんだい?君らしくないじゃないか」


「だって、もう嫌なのよ、こんな世界。人のことも考えないで、勝手に大切なものを奪って行くこの世界なんて、滅びればいいのよ」

「そんなことしちゃいけないよ、アスラ。私は、望んで死を選んだんだ。決して殺された訳じゃないよ」


「どうして・・・・」

「アスラを殺すと言われたんだよ。私は、必死に頼んだ。アスラを殺すなら、私を変わりに殺してくれって」

「なんで?」


女帝が泣きながら聞く。僕は、やっと、ここら辺で状況が飲み込めた。きっと、僕が、女帝の死んでしまった夫さんを連れて来たと言うことだ。


「人間と言うものは、人の為に命を投げ出す生き物なんだよ。私も、その気持ちがわかった。自分は死んでもいいから、大切な人だけは生きていてもらいたい。きっと、死んだばかりの頃は悲しむかもしれないけれど、それでも、私は、君に生きていてもらいたかったんだ」


「そんな・・・・」


「だから、世界を恨んじゃダメだよ。世界が元からなかったら、私達はめぐり合うことが出来なかった。私達がめぐり合えたのは、この世界のおかげなんだ。その世界を恨んではダメだよ。これは、私のせいなんだ。悲しい思いをさせて悪かったね。アスラ」


女帝から、さっきまでの妖気と、むき出しの殺気は消えていた。やっと納得してもらえたようだ。


「やっと会えて私も嬉しいけど、もう少しで行かなくちゃならない。アスラ、もう二度とこんなことをしてはいけないよ」

「はい」


女帝は、僕の方に近づいて来るプリウスさんをずっと見ていた。心を決めて見送るんだと思う。


「アスラに会わせてくれてありがとう、天使君。これで、私の役目は果たせたよ。世界の人々は、無事助かるといいね」


「あっ、はい。ありがとうございました」


穴に入って行く前に、プリウスさんが僕に言った。僕は、一応答えはしたけど、かなりの人が命を失っていると思う。もう、取り返しのつかない程の人の命が。


プリウスさんが入って行くと、穴はひとりでに消えて、残ったのは沈黙だけだった。


僕は静かに下に下りると、犬神の姿に戻った。何だか、今までのことが何もなかったかのように、静けさが漂っている。


不意に、女帝が椅子に座り、結界を解いた。


「私のことを殺しなさい。そして、冥道霊閃を抜いてください。私のような罪人は、死を持って償うべきなのです。何人もの人を殺し、世界を壊そうとした。その罪は、計り知れないほど重いものでしょうから」


僕は、無言で女帝に近づく。ちゃんと、天華乱爪を持っている。


スクリーンは真っ暗闇になっていた。声も聞こえないし、何も見えない。きっと・・・・。


僕は、女帝めがけて天華乱爪を振り下ろした。女帝は、目をギュッとつぶっている。


「女帝、目を明けて下さい」


僕に言われて、そうっと目を開ける女帝。そして、僕の両手に何もないと見て、不思議そうな顔をする。


「さっきの剣は?」

「剣なら、振り下ろす際に床に投げました。僕は、もう人を殺さないと決めました。だから、貴方を殺すことはしません。その代わり、ちゃんと罪を償ってくださいね」

「はい」


素直にうなずく女帝に、僕は、あの子供にやった時のように、裁判の間と言うところに女帝を送った。変な気分はした。裁判の判定を下す女帝が裁判を受けるなんて。でも、どこに連れて行っていいのかわからなかったから・・・・。


やがて、冥道の奥にいるのは僕だけとなった。全てが静かになって、わずかな音さえも聞こえない。これが、完全に世界がなくなった音。もう直ぐ、この冥道もなくなるだろう。


ゆっくりと冥道霊閃に近づくと、力を出し切って、ただの刀に近い冥道霊閃を抜いた。その時、シュッと言う音が聞こえたけれど、それ以外は何の音も聞こえなかった。


僕は、不思議と、冥道霊閃を見て笑った。何を思って笑ったのかわからない。


絶望しきっていて笑ったのか。それとも、頭がおかしくなったのか。誰も答えを知る人はいないと思う。自分でだってわからないんだから。


ただ一つわかることは、その笑みは乾いた笑みだと言うことだけだ。


冥道霊閃を元の鞘にしまうと、今まで硬く閉ざされていた門が一斉に開き、僕の行く道を開けてくれた。


最終的に、誰が冥道霊閃を使って冥道に入って来たのかはわからなかった。きっと、僕から奪った人だろうとは思うけど、その人は途中で力尽きた。それを、女帝が拾ったのが始まりかもしれない。


何の物音もしない静かな冥道を歩く。行きの時に襲って来たゾンビの姿も見えない。あの時は焦っていて、とてもうざったらしいと思ったけど、ここまで静かだと、ある意味怖い。冥道の道を歩く音さえも聞こえない。


これが、完全なる無。音も、気配も、何も感じない。僕は、悔しいと言う気持ちすらなくなっていた。地球がなくなった。そう言う風に思うけど、何とも思えないで、そのまま心に残っている。心さえも失ったゴーレムのような気分だった。この冥道の先に待つものはなんなんだろうって、とても怖くて、このまま冥道に留まってしまおうかと言う気にさえなった。


しかし、足は、僕の気持ちを聞かずに歩き続ける。


行きは長く感じた道も、今ではとても早く感じた。もう、冥道の入り口の前に来てしまったんだ。向こう側は見えない。でも、地球以外のどこかの惑星だと思った。地球は滅びてしまった。僕が遅かったから。


中々一歩を踏み出せずにいたけれど、やがて、意を決して、一歩を踏み出した。ギュッと目をつぶり、一歩目を踏み出す。僕が出て行くと、冥道は消えた。それはわかった。でも、後のことは目をつぶっていてわからなかった。


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