彼にとっては、鯉も恋も同じようです
「ここが、僕の家だ」
「うわぁ・・・・広いね」
「多分な。僕は、あまり人の家にいかないから、自分の家が大きいとか小さいとかよくわからないけど、ここに招く人ほとんどにそう言われる」
「だっ、だって・・・・物凄く広いもん」
私は、何十メートルも先にありそうな天井を見上げながら、そう呟いた。縦も大きければ、横も物凄く広い。とにかく、物凄く大きかった。家とは思えないぐらいに・・・・。
「そんなに広いか?」
「うん、凄く広いと思うよ。家だとは思えないもん」
「そうか。まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。それより、地下に行くぞ」
「地下室もあるの?!」
「ああ。地下室は研究所になってるんだけど、そこで研究をしてたんだ。その時にお前が家を訪れたから、白衣を着たままだったと言うことだ」
「けっ、研究所!?話が全くわからないんだけど・・・・」
私がおろおろしていると、聖夜君は、ある話をしてくれた。それは、自身がスパイだってこと。最初に聞いた時は、信じがたくて、頭が物凄く混乱したけど、言われてみれば、私達みたいな普通の小学四年生には見えないなと思って、何とかうなずく。
「意外と物分りがいいな。あっ、でも、このことは、誰にも秘密だぞ」
「うっ、うん・・・・」
「守れるか?」
「うん!」
私は、何だか嬉しかった。聖夜君と二人だけの秘密が出来たような気がして、物凄く嬉しかった。
「このことを知ってるのは、お前以外には少人数だ。だから、それ以上の人に僕の秘密がばれないように、十分注意をしてくれ」
「うっ、うん・・・・」
私は、少しだけ落ち込む。聖夜君の秘密を知っているのは、私だけじゃないってわかってる。だけど、やっぱり、少しがっかりした。わがままだなぁ~、私。聖夜君の重大な秘密を知れただけでも幸せだって思わなくちゃいけないのに・・・・。
「それじゃあ、これ」
そう言いながら、聖夜君は小指を立てた手をこちらに向けてくる。私は最初、指きりかと思って手を出そうとしたけど、もし違ったら恥ずかしいなと思って、手を後ろに引っ込めてしまった。
すると、聖夜君がムッとした顔をしたかと思ったら、私の手を取って小指を立てると、指切りをした。
私は、自分が聖夜君と指きりをしてると思って顔が赤くなるのを感じた。まさか、自分の思っていたことが現実になるなんて思ってもいなかった。いつも、私の思考は外れてばかりだったから、尚更嬉しかったんだ。
「どうして顔を赤くするんだよ」
「えっ!?あっ、あの・・・・」
「ああ、そうか。お前は確か、僕のことを好きだって言ってたな。だからか」
聖夜君の言葉に、私は余計に顔を伏せる。顔が真っ赤で熱い。いや、もう、顔だけでは納まりきらなくなって、体全体が熱くなっていた。
「熱でもあるのか?指まで熱いのを感じるぞ」
「ねっ、熱はない・・・・よ」
「嘘だろ、熱い」
「あっ、熱いけど、熱がある訳じゃないの。熱いだけで・・・・」
私の言葉に、聖夜君は不思議そうに首をかしげるけれど、直ぐにポンと手を叩いて、うなずいた。
「鯉の病か」
「・・・・え?」
「お前、家に鯉を飼ってないか?」
「え??」
私は、唐突に変なことを聞かれて、ドキドキしていた鼓動が収まって来る。鯉の病・・・・?
私はそこまで考えた時、聖夜君がある勘違いをしていることに気づいた。鯉じゃなくて、恋だ!
でも、私はそのことについての訂正が出来ない。だって、もう、私が聖夜君のことが好きだってバレちゃってるけど、やっぱり恥ずかしいんだもん・・・・。
「鯉だよ、鯉。あの、近所の公園の池にいる鯉だ」
「かっ、飼ってないけど・・・・」
「それじゃあ、ここ最近、鯉に触ったか?」
「ううん」
「そうか・・・・。いやっ、そうじゃない。興味深い現象だ。僕は、今まで鯉の病におかされた奴を見たことがない。とりあえず、こっちに来てくれ」
「えっ、ええっ!?」
私は、訳もわからないまま聖夜君に連れられて、地下へと向かった。