仕方のないことなのだろうけど、彼女の言い分が最もです
「それで、今日はどこに行くつもりなのよ?」
「え?」
「だから、今日はどこに行くのって聞いてるの!」
「いや、そう言われてもさ、どこに行くのか決めてないって言うかなんてゆーか」
瑞人の言葉に、私は驚いた。だって、こいつのことだから、きっとどこどこに行きたいと言う何かがあって、私を誘ったと思ったんだ。いつもそうだったんだ。例えば、自分の見たい映画を見る時、二人組みだと割引されるからとか、そう言う理由で付き合わされたことが多いから、びっくりしたんだ。
でも、それと同時に物凄く嬉しい。顔には出さないけど、物凄く嬉しい。だって、理由もなく誘ってくれるって、何だか嬉しいじゃない。
「で、今回は、花恋に決めてもらおうと思って」
「え?」
「これから行きたい場所!いつも俺に付き合わせてるからさ、今日は、花恋に決めてもらおうと思って!」
そう言いながら笑顔でこちらを向く瑞人から、私は目を逸らす。その笑顔を直接見ちゃうと、鼓動が早くなって、苦しくなっちゃう。それに、顔まで赤くなって来て、怪しまれることになっちゃう。それだけは嫌だから、仕方なく目を逸らしてるんだ。
本当はずっと見てたいけど、それが出来るほど私は大人じゃない。じっと顔を見ても平静でいられるほど、大人じゃないんだ!
「・・・・何考えてんだよ?」
「え?なっ、何!?」
「いや、なんか、ブツブツ言ってるような言ってないような・・・・大丈夫か?」
「ちょっ、ちょっと!近付かないでよ!!」
心配そうな顔をしながら瑞人が近寄って来るから、私はついそう口走ってしまった。そして、物凄く後悔する。だって、今の言葉は酷いなって思ったんだ。どんなに馬鹿なこいつでも、絶対に傷ついたと思う。
私はそう思いながらも、怖くて瑞人の顔が見られなかった。元々顔を見ることはあんまり出来ないけど、今は、それ以上に顔を見られないよ・・・・。
私がそう思いながらうつむいていると、急に頭を叩かれて、私はついカッとなって瑞人の方を向く。
「何よ!」
「いや、何もしてねーけど?」
「叩いたじゃない!」
「いや、なんでそんなに落ち込んでるのかな~って思ってよ」
「は?」
私は、瑞人の言っている意味がわからなくて、つい、間の抜けた声を出してしまった。今、私が落ち込んでる理由がわからないって・・・・。もしかして、傷ついてないってこと?
「どうしたんだよ、そんな顔して?」
「・・・・どうもこうも、あんた、傷ついたりしなかったの?」
私がそう言うと、ようやくわかったようで、瑞人はポンと手を叩きながらうなずいた。しかし、直ぐにその手を下ろすと、首を振った。
「別に、あのぐらいじゃ、傷つかないって。聖夜に散々言われてるしな。あっ、でも、ちょっと傷ついたかも」
「・・・・やっぱり」
「でも、大丈夫だ!俺は、それぐらい小さなことじゃ、花恋を嫌いになったりはしねぇ!料理に毒を盛られたら嫌いになるかもだけどな!」
「そんなことするはずないじゃない!」
「まぁ、そうだよな。所謂、物の例えって奴よ!それぐらい酷いことをされなくちゃ、俺はお前を嫌いにならねぇ。だから、安心してツンっぷりを発揮していいぞ!」
そう言って笑顔を見せる瑞人から、慌てて視線を逸らす。最後の言葉の意味はよくわからないけど、そうやって言ってくれることは凄く嬉しいことだった。
私は今まで結構酷いことを言って来た。それでも、嫌いだと思わないでくれていた。それがわかるだけでも、物凄く嬉しい。
「・・・・って言うことで、ちょっと行きたいところがあるんだけど・・・・」
「プールは行かないわよ」
「・・・・いっ、いやっ!別に、プール行きたいって言ってないだろ!まっ、全く・・・・勘違いしてもらっちゃ困るなぁ~」
そう言う瑞人に視線はあさっての方向を向いていて、私と視線を合わせようともしない。と言うことは、やっぱり、プールに行きたがってた訳だ。絶対に行かないけど。
「どうせ、女の子の水着が見たいとかそう言う下心でしょ?」
「いやいや、そうじゃないって!」
「嘘。目が泳いでる」
「泳いでない!俺の目はいつもこれだ!」
「じゃあ、いつも嘘をついてるのね」
「うっ・・・・」
私の言葉に太刀打ちできなくなったようで、瑞人が捨てられた子犬のような目で見て来る。いつもなら、この目をされると私は折れてしまうんだけど、プールだけは折れない。絶対。
だって、プールに行って水着になるのとか嫌だもの。それに、プールって水着の女の子とか沢山いるし、私が目を離した隙に何をするかわからない。そんなの嫌だもん。
「プールはダメ」
「別に、他の女の子のことは見ないよ」
「そんなこと言ったって、他の女の子がプールにいたら、見ちゃうんでしょ」
「そっ、それはまぁ・・・・」
「そう言うのを否定するつもりはないけど、わざわざ私とデートしてる時に、女の子を見に行かなくてもいいんじゃないの!?」
私はそう大きな声で言った後、物凄く恥ずかしかった。だって、つい、「デート」って言ってしまったんだもん。
もう、これだから、感情が高ぶってる時に話すのは嫌なんだ。思ってることが全て外に漏れてしまって、凄く恥ずかしい思いをすることになる。
私は、不思議な顔をして首をかしげている瑞人に背を向けると、ズンズンとどこへと向かう訳でもなく歩き出した。
「ちょっ、待って!」
「・・・・」
私は、下を向きながら立ち止まった。本当は、逃げてしまいたかった。瑞人の前から消えて、一人で落ち着きたかった。でも、せっかくのデートを・・・・しかも、初デートを壊したくないから、自然と足が止まってしまったんだ。
後ろから、スキップでもするかのように軽やかな足音が聞こえる。何が楽しいのかわからないけど、瑞人がその足音の主だってことはわかる。
「まさか、デートだと思っててくれたんだな!」
「・・・・そんなことない」
「でも、さっき、『私とデートしてる時に女の子を見に行かなくてもいいんじゃないの!?』って言ったのは、どちらさんでしたっけ?」
そう瑞人に問われ、私は更に下を向く。恥ずかしくて顔が熱い。と言うか、体全体が熱い。さっきまで物凄く寒かった薄着の服でも熱いぐらいだ。
「なあなあ、たまには素直になろ~ぜ!俺と出かけるの、デートだと思ってたんだろ?」
「・・・・」
私は、チラッと視線を上げて瑞人の顔を見てみる。その顔には満面の笑みがあって、絶対に、私の本音に気づいてるんだろうなと思った。
そして、ここまで来たのなら、もう言い訳も通用しないだろうなと思って、私は、少し・・・・ほんの少しだけ、とても小さく首を縦に振った。
その途端、瑞人が急に喜び出したから、私はびっくりして上を向く。まさか、こんなに喜ばれるとは思ってなかったんだ。
「なっ、なんでそんなに喜ぶのよ!」
私がそう聞くと、瑞人は喜ぶのをやめてこちらを振り返った。その表情は不思議そうで、私は思わずため息が漏れた。その顔だけで、次に発せられる言葉が手に取るようにわかるからだ。
「いや、そう言われてみれば、どうして喜んだんだろうな?正直、よくわかんねぇや」
「・・・・あっそ」
私は、予想通りの答えが返って来て、ため息をつく。別に、期待はしてなかった。こいつのことだから、きっと、こんな風な答えが返って来るだろうって思ってた。
・・・・でも、でもだよ。もしかしたら、奇跡的に、私が望んだ答えが帰って来るかもしれないと思ってしまったんだ。だけど、こいつに私の思いは届かない。って言うか、気づかないと思う。もう、本当に、人を振り回す奴だ。
「・・・・もう、知らない!」
「あっ、ちょっ、待って!どこ行くの!?」
「公園でも映画館でもプールでも、どこでもいいわよ!」
「ほんと!?」
「・・・・やっぱ、プールはダメ」
「ええ~っ、さっき、いいって言ったじゃんかよ~!」
「馬鹿!」
私はそう言うと、目的地もわからぬまま歩き出した。もちろん、瑞人とのデートをやめるつもりはないけど、瑞人の鈍感ぶりに嫌気が差しちゃったんだ。