故意と偶然の確率は・・・・
「ここが、聖夜の家だ」
「うわぁ・・・・大きいね」
「だろ?俺も初めて来た時はびっくりしてさ、腰抜かしたもんだぜ」
さすがに、腰を抜かすほど驚くって言うのは大袈裟なんじゃないかなと思いながらも、私は、聖夜君の家に連れて来てくれたお兄ちゃん、それから、楽しみにしてたデートの時間を割いてまで付き合ってくれたお姉ちゃんにお礼を言うことにする。
「あの、本当にありがとう!」
「いやいや、いいって、いいって。な?花恋」
「そうね。いいわね」
「おいおい、まだ怒ってるのか?」
「怒ってないわ。普通よ」
「そうか?」
私は、また、言い合いを始めそうな雰囲気の二人の間に割って入り、喧嘩が起きる前に二人をなだめる。
「あっ、あのさ、ありがとう。ほんと、付き合ってくれて。私はもう大丈夫だから、二人で出かけてきてよ!」
「まぁ、玲菜がそう言うならいいけど、俺達がいなくなったら、直ぐに聖夜の家に入るんだぞ」
「うっ、うん・・・・」
そんなことが出来るのかどうかはわからないけど、心配をかけさせない為に苦笑いでうなずく。すると、お兄ちゃんは素直にうなずくと、いつも通りに戻ったお姉ちゃんと一緒に歩いて行ってしまった。
私はそれを確認すると、二、三度大きく深呼吸をしてから、インターホンを押す。でも、五分ぐらい待っても誰も現れない。もしかしたら、もう、海外に行っちゃった後なのかな・・・・と思って、不安な気持ちになっていた時、ふと、大きな門の横に張ってある紙を見つけた。
そこには、「用のある方は裏口へ」と書いてあった。
何だか不思議に思いながらも、私は、聖夜君の家の裏側へ向かうことにする。この張り紙があるってことは、少なくとも、引越しはしてない・・・・のかな?もしかしたら、引越しの準備をしてて、裏口に来て下さいって言ってるのかもしれないし・・・・。
そうネガティブに考えてしまう自分に首を振ると、裏口に向かって走り出す。きっと、さっきの大きな門の丁度裏側に、裏口があると思う。とにかく、気持ちでいろいろ考えるよりも、目で確かめた方が早いんだ!
そう思って、私は聖夜君の家の裏側に回った。すると、さっきの大きな門とは対照的に、こじんまりとした門が見えて、私はそこまで走って行く。しかし、そこにはインターホンがなくて、私がどうしようと迷ってる時だった。
急に、門の先にある屋敷の扉が開いたかと思ったら、なぜか、白衣を着ている聖夜君が出て来て、私の方に近づいて来る。
「どうした」
「あっ、あの・・・・ごめんね、急に来ちゃって・・・・昨日、転校するみたいなことを言ってたから・・・・」
「ああ。あれは、嘘だ」
「えっ!?」
まさかの言葉に、私は一気に力が抜けるのを感じた。だって、まさか、嘘だったなんて・・・・ううん、嬉しいけど、ジョークにしては度が過ぎてると思う。酷い域じゃないかな?
そうは思っても、聖夜君を怒れない私は、苦笑いを浮かべながらため息をついた。
「なんだ、本気にして焦ってここまで来たのか?」
「え?知ってるの?」
「防犯カメラでずっと見てたからな。お前が走ってくるところ」
「・・・・」
まさか、あの姿を見られているとは思いもよらなくて、私は、今度こそ、本気でため息をついた。こればっかりは許して欲しい。だって、聖夜君が酷いんだもん。
「もしかして、『用がある方は裏口へ』って言うのは、私を走らせる為だったの?」
「うむ。お前の気持ちがどこまで強いのか見てみたかったからな」
「・・・・酷い」
私はそうボソッとつぶやいて、ため息をついた。なんだか、聖夜君に騙されたのかと思うと、力が抜けて、そのまま倒れてしまいそうになる。
・・・・かなり、本気で走ったのにな・・・・。
「でも、転校しなくてよかったと、お前を見て思った」
「え?嘘じゃなかったの?転校」
「嘘じゃなかった。あの時は。ただ、今となっては転校しなかったから、嘘と言っただけだ」
随分と紛らわしい言葉を使うなと思って、私は首をかしげる。もしかして、これも、私を混乱させたりする為にわざと言った言葉なのかな?
「それも、わざと言ったの?」
「・・・・は?」
聖夜君のその反応で、今の言葉は、故意にやったことじゃないとわかって、少しだけ気持ちが楽になる。
・・・・ん?そう言えば、私、いつの間にか、こうやって普通に聖夜君と話せるようになってる・・・・。それに、聖夜君も私のことをからかうようなことをしてくれてる。前では絶対にありえないことだ。
そう考えると、これも、仲がよくなった証拠なのかなと思って、私は、騙されたことすらも嬉しく感じた。
「お前が何を考えてるのかわからないが、お前を見て、転校をしないでよかったと思ったのは本当だ」
「そっ、そうなの?」
「ああ。そこまで必死になると言うことは、それだけ、僕が転校すると言うことに危機感を持ってくれたと言うことだ。だから、僕は、転校しないでよかったと思う」
「そっ、そっか・・・・」
それを聞いて、一生懸命走った甲斐があったなと思う。その言葉を聞けただけで、救われたような気がした。
私は、門の向こう側にいる聖夜君を見る。真っ白な白衣を着ていて、何だか、とても大人っぽく見える。あれ・・・・そう言えば、どうして白衣なんて着てるんだろうな・・・・。
私がそう思って、そのことについて聞こうとした時、聖夜君が先に口を開いた。
「ところで、今日は暇か?」
「きょっ、今日?」
「うん。もし暇なら、付き合って欲しい」
「えっ!?」
私は、一瞬「付き合って欲しい」と言う言葉の意味を間違えてとって、とても驚いた。だけど、後で、そうじゃないと気づいて、何だか悲しくなる。
「どうした?一人で百面相なんかして。見てるのは楽しいが、やってるのは楽しくないだろ?」
「えっ、えっと、なんでもないの!えっと・・・・暇!暇だよ!!」
「そうか。なら、僕について来てくれ」
そう言って、聖夜君はスタスタと家の方に歩いて行ってしまうけれど、私は、門の中に入れてもらっていないから、どうしようとオロオロする。
鍵を開けてくれなくちゃ、ついてこいって言われても、ついていけないよ・・・・。
「鍵なら開いてるぞ」
「えっ!?」
驚いて、目の前にある門を押してみる。すると、聖夜君の言った通り、すんなりと門が開いて、私は慌てる。聖夜君は、ずっと、白衣のポケットに手を入れてたはずなのに、いつの間にあけてたんだろうと不思議に思う。
だけど、私がそう思って立ち止まっている間にも、聖夜君はスタスタと歩いて行ってしまうから、私は慌ててその後を追いかけることにした。