幼馴染の特権です
私は、負けない。絶対に。それだけを心に決めるんだ。
私が急いで首を振って決意を固めた時、突然、亜修羅が目を覚ましたのだ。それがあまりにも突然だったから、私は、少しだけうろたえた。でも、それがいけなかったんだ。だって、うろたえていたせいで、部屋から出て行こうする前に、亜修羅に気づかれてしまったんだもん。
私は、何だか情けない気持ちになってうなだれる。
・・・・うーん、怒られてもしかたないよね・・・・。人の寝顔を観察するなんてさ、悪いことだろうし・・・・。
私がそう思いながら意を決していても、亜修羅は一向に話し出さないから、私から話しかけてみることにする。
「あっ、あの・・・・おはよう」
「・・・・ああ」
おずおずと亜修羅の方を向くと、まだ眠いみたいで、目が半分しか開いてない。何とか起き上がったみたいだけど、寝ぼけてるみたいだ。
「おはよう」
「・・・・ん」
亜修羅はこっくりとうなずくと、そのまま寝そうになった為、私は何とか立ち上がって、そのまま寝てしまいそうになるのを止める。
「なんだよ、邪魔するな」
「えっ、えっとさ・・・・約束したんだけど・・・・」
私は、亜修羅の隣に座りながら聞いてみる。今、私と亜修羅の距離は、ほぼゼロに近い。こんなに近付いたことがないから、私は凄くドキドキしてたけど、これは、寝ぼけてるから出来ることだなと思って、今を噛み締めることにする。
寝ぼけているせいか、いつもよりも無防備で、今なら、頭を撫でることも出来るかもしれない。
・・・・ううん!そうじゃなくて、えっと・・・・いつもはね、私が近付いても、ある一定の距離を保とうとするんだよね。それが、凄く傷つく。嫌われてるように感じるんだ。だけど、本人に聞いても嫌いじゃないって言われるし・・・・。本当のところはどっちなんだろう?
「約束?」
「うん。昨日の夜、私のことを鈴香の家まで送り届けてくれた時、明日の九時に竜さんの家でって・・・・」
私がそう言うと、約束のことを思い出したのか、今まで半開きで今直ぐにでも寝てしまいそうな目が開き、意識も戻って来たみたいで、慌てて立ち上がった。
「今、何時だ?」
「えっ、えっと・・・・十時二十分・・・・」
「一時間二十分オーバーか。そんなに時間を過ぎたら、起こしに来るだろうな・・・・。俺から言ったのに、悪いことをしたな。ごめん」
そう言って珍しく謝って来る亜修羅の姿がなんだか可愛く見えて、私は許すことにする。もともと怒ってなかったんだけど、むしろ、得をしたんだけど、「怒ってない」って答えても、余計に気を使わせちゃうだけだから、私は、許すって言うことにしたんだ。
「いいよ。得したし」
「得?」
「考え事です!」
「・・・・?」
私は、つい本音が漏れて、慌てて、辻褄の合わない言い訳をしてしまった。どうしようかと思うけど、亜修羅はそのまま不思議そうに首をかしげて何も言わない為、上手く誤魔化せたかなと思った。
亜修羅って、用心深いようだけど、結構ぬけてるところがあるんだよね。そう言うところが無性に可愛く思える。・・・・まぁ、滅多な人にしか見せないから、またそこがいいんだけど。
亜修羅がそんな風にぬけてる部分を見せるのは、相手を心の底から信頼してる証拠だって思う。私が見てるぶんだと、凛達は、既にその段階まで来てると思う。話を聞いてると、そう言う部分が垣間見えるから。
でもね、これ、本人は無自覚みたいだから面白いよね。ある意味、無自覚だから、正確な資料となるんだろうけど。
「そう言えばお前、ずっとそこにいたのか?」
「・・・・え?」
「そんなことはないよな。鍵を閉めたはずだしな」
「・・・・うっ、うん!そうだよ!ありえないよ!」
「そうだ。でも、栞奈は鍵を閉めてるはずの部屋にいるんだ。どう言うことだ?」
「えーっとね、鍵、閉まってなかったんだよ」
私がそう言うと、亜修羅はびっくりした顔を見せた後、なぜか、がっくりとうな垂れてしまった。私はどうしたらいいのかわからなくて、オロオロしながらも、何とかそんな風にうなだれた理由を聞いてみることにする。
「どうしてそんなに落ち込んでるの?」
「いくら眠かったとは言え、部屋に鍵をかけないで寝た自分が嫌なんだ。もし、誰かが入ってきでもしたら、大変なことになる・・・・」
「たっ、大変なこと?」
「もし、俺がそいつの正体に気づかないで襲われた場合、俺は眠ったまま死ぬことになるからな」
「そっ、そうだけど・・・・」
「で、お前はずっとこの部屋にいたのか?それで、何してたんだよ?」
「ずっとなんていないよ!」
私がそう言うと、珍しく亜修羅が笑ったかと思ったら、恐ろしいことを告げられた。
「隠しても、バレてることってあるんだぞ」
「え?」
「神羅は、なぜか、その場に起こったことじゃなくても知ってるんだ。あいつに聞けば、栞奈が本当のことを言ってるのか違うのかってわかるんだぞ」
「・・・・」
私は、あまりの恐ろしさに、顔から血の気が引いていくのを感じた。って言うことは、私がずっとこの部屋にいたこともバレちゃうかもしれない・・・・。
「今のうちに言ったら許す」
「・・・・ごめんなさい」
「やっぱり」
「え?」
「なんか、人の気配を感じてたんだ。ただ、それがお前だったから、起きるまでに至らなかったんだろう。全く、さっさと起こせばいいのに、俺が寝てる間、何やってたんだよ?」
そう聞かれて、こればっかりは応えられないなと思って、適当に理由をつけることにした。
「じっ、実はさ、私も眠くなっちゃって、寝ちゃってたんだよね・・・・」
自分でも凄く下手な嘘だってわかってる。絶対嘘だってバレるだろうってわかってる。でも、僅かな奇跡に頼ることにした。
「・・・・そうなのか。確かに、眠そうだもんな。それならいい」
「え?」
「別に、部屋にいること自体はいい。・・・・そう言えば、映画を見るんだったな。今仕度をするから、下で待っててくれ」
「うっ、うん。それじゃあ、待ってる」
私は、あんなバレバレな嘘が通ったことに驚きを隠せないけれど、とりあえず、一階のリビングで亜修羅を待つことにした。