見た目重視の人と、性格重視の人
「・・・・あれから、もう一時間も経っちゃったんだ・・・・」
「どうしたの?お姉ちゃん」
「ううん。なんでもないよ。ちょっとね」
「もしかして、さっき話してた、修さんって言う人じゃないですか?」
悠太君に言われて、私はどうしようかと戸惑ったけど、別に隠す必要もないだろうなと思って、素直にうなずくことにする。
「やっぱり・・・・」
「兄貴のこと、起こしてきましょうか?」
「ううん、大丈夫だよ!」
「でも、お姉ちゃんが来てから一時間経つけど、まだ起きて来ないんだよ?」
「うっ、うん・・・・」
「そうすると、せっかくの楽しい時間が短くなっちゃうんじゃない?」
瑠憂君の言葉に、私は力なくうなずく。確かに、この子達の言うとおりだ。それに、映画に行こうって言ってて、それの上映時間の問題もあるし・・・・。
「・・・・起こしてくる」
私がそう言って立ち上がると、一緒に座っていた瑠憂君と悠太君。それから、キッチンで何かをしていて、絶対に話は聞こえないであろう竜さんが拍手をした為、私と、それから、私以外にここにいた子供達が驚く。
「気にしないでくれ。こっちの話だ」
「そうです!栞奈さんのすばらしい決意に拍手を、と思っただけだから!」
「うん」
「そっ、そこまで素晴らしい決意ってほどでもないけど・・・・。でも、ありがとう」
「じゃっ、頑張ってね!」
瑠憂君に背中を押されて、私は苦笑いを浮かべながら、二階への階段を上る。その途端、さっきまでのガヤガヤが消えて、一瞬にして一人ぼっちに思えて来て、何だか心細くなる。
私はそう思う自分に首を振ると、竜さんに言われたとおり、階段を上って直ぐのところにある部屋のドアに手をかける。しかし、そこでバッと手を離す。
だって、普通、寝てるところを見られるって嫌だよね、うん。もしかしたら、鍵がかかってるかも・・・・。そう思って扉を押すと、ドアはびくりともしなくて、だから、鍵をかけてるんだなとわかった。
でも、それがわかったとしても・・・・だ。起こせないってことは、亜修羅が起きるまで待つしかないんだ。そうなった場合、何時間寝てるのかな・・・・。
そう思ったら、何だか気が遠くなって来て、どうしようかと思うけれど、鍵のかかった扉では、開けることが出来ない。仕方なく、私は一階に下りようと階段に近付いた。すると、階段を上って来る足音が聞こえたかと思ったら、その足音は、階段の途中で止まった。私は、なんだろうと思って更に階段に近付くと、階段の途中で立ってるのは竜さんだって気づいた。まるで、私の行く手を阻むかのように、立ちふさがっている。
「あの・・・・鍵がかかってて、開かなかったから・・・・」
「一応確認するけど、あの扉、引き戸なんだ。押さなかったか?」
「・・・・」
「まぁ、そう言うミスは誰でもあるさ!でも、もし、引いても開かなかったら、これ」
そう言って差し出されたのは、可愛らしいウサギのマスコットのついた鍵で、私は首をかしげる。
「これを使えば、部屋の鍵は解除出来る」
「外から鍵を開けられるんですか!?」
「まあな。この家の部屋、全部鍵がかかっててよ、まるで、家の鍵みたいに、外から開けられるようになってんだ」
「へっ、へぇ・・・・」
「じゃ、頑張れよ!俺は、『絶対に』起こさないからな!」
「えっ!?」
私は心を見透かされて、竜さんの特技を思い出す。竜さんは、心が読めるんだ。だから、あんなことを・・・・。
私が何を思ったのか。それは、もし、私の勇気が出なかった時、竜さんに起こしてもらおうと思ってたんだ。だけど、竜さんにそう思っていることがバレて、あんなことを先に言われてしまったってことだ。
唯一の頼りを失って、どうしようかなと思っていた時、ふと、神羅のことを思い出して、神羅に頼めばいいんだ!と思い、一階に行こうとするけれど、さっきから神羅の姿を見ないことを思い出す。
もしかして、昨日亜修羅と一緒にいて、同じぐらいの時間に寝てるのかなと思った。・・・・と言うことは、寝てる?
その結論に、私は思わずため息をついた。亜修羅を起こすことは嫌じゃない。ただ、ちょっと、恥ずかしいんだ。私は別に恥ずかしくないはずなのに、何だかドキドキするって言うか、緊張するって言うか・・・・。
そう考える自分に首を振って、勢いのままに起こしてしまおうと考えて、扉を引く。そこで、チラッとだけ、鍵が閉まってればいいのに・・・・って考えた。
もう!自分の意思がわからなくなって来た!出かけたいのか出かけたくないのか、どっちなの!?
自分の心に怒りながら、扉を勢いよく引く。すると、さっきまでは絶対に開かなかった扉が簡単に開いて、私は思わず唖然とする。
だって、あんなに用心深い亜修羅が、鍵もかけないで寝てるなんて・・・・。信じられないと思った。
私はしばらくの間、扉を全開にしたままボーッとしていたけれど、ハッと我に返って、ぎこちない動きで部屋の中に入る。部屋の中には窓があって、ある程度は明るいんだけど、カーテンが閉まってるのと、電気がないのとで、結構暗い。
部屋の中は綺麗に片付いていて、歩く途中でつまずくことはなかった。ある意味、つまずいて音を立てて起こすことほど気まずいこともないと思う。でも・・・・。
私は、ベットの前で正座をする。ベットでは、亜修羅が寝てる。
・・・・全然起こせない。声すらも、かけられない。
そんな自分に嫌気が差して、なんとか起こそうとしても、何だかお腹に力が入らなくて、全然声が出ないし、体も動かない。でも、こうしてる間にも時間は刻々と過ぎて行っちゃうし・・・・。
私がそう思って焦っている時、今まで向こうを向いていた亜修羅が寝返りを打ってこっちを向く。私はそれにびっくりして、二、三歩後ずさるけれど、何とか心を落ち着けるように深呼吸をして、近付いて行く。
自分がとても変な人に思えて来て恥ずかしかったりするけど、ジーッと亜修羅の顔を見る。寝顔は昔と全然変わってなくて、驚くぐらい。起きてる時はあんなに大人っぽいのに、どうして眠っちゃうと、こんなに子供っぽくなっちゃうんだろうな・・・・。
でも、だ。どちらにしても、顔が整ってるのは変わらない。そのせいで、勝手に好意を寄せられちゃうんだよなぁ・・・・。
そう思うと、もう少し整ってなくてもよかったかなって思う。私だって、かっこいい人の方がいいと思う。でも、そのせいで他の子にとられちゃうなら、かっこ悪くていい。私は、亜修羅の顔じゃなくて、性格が好きなんだもん。
そう思いながらため息をつく。人間界に来て、また一人、ライバルが増えた。しかも、他の子よりも粘り強くて面退くさそうな女。・・・・とは言ってるけど、実際に会ったことはないからどんな子か知らないけど、話に聞いた限り、きっとめんどくさい女なんだろうなって思う。
「・・・・なんで、みんな、亜修羅ばっかり・・・・」
そう呟いてため息が出る。確かに、亜修羅には、惹かれる要素が沢山あるはずだ。でも、もし、それのせいで誰かにとられてしまうなら・・・・。
そう思ってしまう自分が少しだけ怖くて、慌てて首を振る。ダメだ!とにかく、私は負けない。絶対に。それだけを心に決めるんだ。
私が急いで首を振って決意を固めた時、突然、亜修羅が目を覚ましたのだ。