長年一緒にいないと、わからないことですね
「到着しましたよ」
「あっ、ありがとうございます」
私は、車の扉を開けてくれた運転手さんにお礼を言うと、目の前にある竜さんの家のインターホンを押す。
すると、中の方からバタバタッと言う足音が聞こえてきたかと思ったら、ドアが外れるんじゃないかと言う勢いでドアが開いた。
「あっ、お姉ちゃん、こんにちは!」
「あっ、うん。こんにちは。えーっと、君は確か・・・・」
「僕は、水沢瑠憂って言います!で、こっちの子が、黒川悠太君。あの、高徳中の副番長がお兄さんなんだって!」
「よろしくお願いします」
瑠憂君とは対照的に、悠太君は、随分と大人しい。って言うか、大人っぽいって言うべきかな?私なんかよりも大人に見える。多分、小学生ぐらいなんだけどね、随分としっかりしてる。
「えっと、私は、栞奈って言います。よろしくね」
「お姉ちゃんのことなら知ってます!兄貴から聞きました!」
「兄貴?」
「修さんのことです!かっこよくて頭がよくてスポーツも出来て。だから、僕が勝手に兄貴って呼んでるんです!本人は嫌がってますけど、気にしません!」
「そっ、そうなんだ・・・・」
確かに、亜修羅はそう言うの嫌いだと思う。私だって、姉御とか言われたら、ちょっと嫌だもんなぁ~。
「あっ、それで、何の御用ですか?」
「えっと、修に、九時になったらここに来て欲しいって言われたんだけど、修いるかな?」
「兄貴なら、まだ部屋の中から出て来てませんよ~。多分、まだ寝てるのかもしれません。起きるまで待ちますか?」
「あっ、うん、それじゃあ、上がらせてもらおうかな」
「あっ、でも、結構人がいるので、ワイワイしてますけど、いいですか?」
「ワイワイ?」
私が不思議に思っていると、瑠憂君が下を指差す。何かと思って自分の足元を見ると、沢山の数の靴があった。脱ぎ捨てられているのもあれば、きっちりそろえられてるものもある。その大きさもバラバラで、小学生低学年ぐらいの大きさの靴から、高校生ぐらいの靴まである。どうして、こんなに多くの人達が集ってるんだろう・・・・?
私は不思議に思いながらも、とりあえずは靴を脱いで家の中に上がる。その際、靴は入らなかったから、靴箱の下のスペースに置かしてもらった。
「どうしてこんなに人がいるの?」
「いつも、これぐらい人がいるんですよ」
「そうなの!?」
「うん。朝八時ぐらいから、夕方の六時ぐらいまで、沢山の子供達が来るんだ。中には、泊まっていく子とかもいるしね。泊まったり、ご飯とかが食べられる児童館みたいなものだと思うといいよ!」
「・・・・ジドウカン?」
「お姉ちゃん、児童館のこと知らないの?」
「うっ、うん・・・・」
瑠憂君の驚き方からして、よほど有名な言葉らしけど、魔界には、「ジドウカン」と言う言葉は存在しない。名前からして、子供の居場所みたいなものなのかな?
「児童館って言うのは、所謂、子供の遊び場みたいなものだよ。色んな遊具が揃ってるんだ」
「へぇ~、そうなんだ。面白そうだね」
「うん!面白いよ!でもね、竜さんの家の方が色々面白いから、みんなここに集るの。ほら!」
瑠憂君がそう言いながら開けた扉の先には、一昨日の夜以上の人が入っていて、ホームパーティーでもやってるんじゃないかって思えるほどだ。
私が呆然としながら部屋の中に入ると、左側から走って来た男の子にぶつかった。
「いったいなぁ~、お姉ちゃん、そんなに急に出て来ないでよね」
「ごっ、ごめん・・・・」
「コラッ、浩介、その言い方はないだろ。栞奈に謝りな」
「でも・・・・」
「謝らなきゃ、浩介の昼飯だけ半分だ」
「そっ、それは勘弁して下さい!」
「じゃ、謝れ」
竜さんに促されて、浩介と言う少年は、しぶしぶ私に謝って来る。私が笑顔で首を振ると、その子はフイッとそっぽを向いて、そのまま向こうのほうに走って行ってしまった。
「悪いな、栞奈。あいつ、反抗期でよ、中々謝ろうとしないんだ」
「ううん。いいんだけど・・・・これは?」
「ああ、ちょっとな。気になるんなら、二階に行ってていいぞ」
「あの・・・・修は?」
「ああ、あいつなら、二階に上った直ぐ近くの部屋にいるぜ。なんだ、約束でもしてたのか?」
「うっ、うん。一応・・・・。九時にここに来て欲しいって言われて・・・・」
「そっか・・・・いくら、夜遅くに寝たと言ったって、約束を守らないのは悪いな。よしっ、起こしてくるか」
そう言ってキッチンから出て来た竜さんを、私は慌てて止める。確か、私がベットに入ったのは二時過ぎだ。それから亜修羅は竜さんの家に帰ったんだから、もう少し眠たいと思うんだ。亜修羅、ああ見えて、結構朝が苦手だし、八時間から九時間寝ないとダメなタイプなんだよね。
「そう言ってもよ、お前はちゃんと約束を守って、眠いの我慢して早起きしたんだろ?」
「我慢ってことないですから。楽しみですし」
私が言うと、竜さんは何度か大きくうなずき、ため息をついた。
「まぁ・・・・栞奈がいいって言うなら、俺はあんまり無理強いはしないけど、しばらく待っても起きて来なかったら、自分で起こせよ?」
「うっ、うん」
「・・・・青春だなぁ」
「は?」
「いやいや、気にすんな。頑張れよ!」
私は、なぜか応援されて、肩を叩かれた。それがどう言う意味なのか、イマイチよくわからないまま、とりあえず、二階に行ってみる。亜修羅を起こすつもりはないけど、二階に上りたかったんだ。
二階に行くと、一階の騒ぎが嘘かのように静かになって、私は思わず怖くなる。朝だから、暗くないのがせめてもの救いだけど、もし、今が、夜だったとしたら・・・・。
そうやって想像するのが怖くて、私は、早々と一階に戻ることにした。