仲のいい兄弟と、罪悪感に苛まれる彼女
「起きなさい、水斗!」
「・・・・ん?あれ?なんで花恋が俺の部屋に・・・・って、そっ、そんなに怒るなって!俺にも色々事情が・・・・」
「事情って、ゲームのこと!?」
「ごっ、誤解だって!俺は、昨日夜遅くまで勉強してたから、寝坊したんだよ!」
「じゃあ、どこをやったか見せて」
「そっ、それは出来ないぜ。だっ、だってよ、俺と馬鹿にしか見えないペンで書いたんだもん」
「ふざけないで!裸の王様じゃないんだから!本当にやったのなら見せなさい!嘘なら素直に謝りなさい!謝ったら許してあげるから」
「・・・・ごめんなさい」
「もう!」
お姉ちゃんはそう言うと、そのまま部屋から出て行ってしまうから、お兄ちゃんは慌てて追いかける。
「謝ったら許してくれるって言ったじゃんかよ!」
「直ぐに許すとは言ってないわ」
「でもさ、俺、素直に謝ったじゃん!な?許して!」
「・・・・わかったわよ!しょうがないわね、もう許してあげるから、早く仕度をして迎えに来てよね!」
「わかった!ありがとう!」
ようやくお姉ちゃんの機嫌は直ったようで、なぜか、そのまま家に帰ってしまった。私は、どうしてわざわざ家に帰ったのかわからないけど、とりあえず、急いで仕度をしようとするお兄ちゃんに謝る。
「ごめんね、お兄ちゃん。ゲームのこと、私がお姉ちゃんに言っちゃったの」
「そうなの!?」
「・・・・うん。ごめんね、お兄ちゃん」
「そんなに謝らなくても、怒ってないよ。兄貴のせいだって知ってるから」
「え?本当にゲームをやってたんじゃないの?」
「昨日は、ずっと、調べ物をしてたんだ。その最中、兄貴は俺のところに何回か来たから、俺が調べ物をしてたって知ってるはずなのに、ゲームをやってたって嘘ついたんだ。だから、全部兄貴が悪い!」
そう言ってお兄ちゃんは亜稀さんのことを睨みつけるけど、亜稀さんは、それに全く動じずに口を開く。
「それよりも、さっさと仕度をしなくていいのか?また、あの子に怒られるぞ」
「げっ・・・・それは勘弁・・・・」
そう言って、お兄ちゃんは一端自分の部屋に入ったかと思ったら、三秒もしないうちにパジャマから私服に着替えて出て来た。その速さには、私も驚いて唖然としていたけれど、自分がどうしてここに来たのかと言う理由を思い出して、お兄ちゃんに聖夜君の家のことを聞く。
「あのね、お兄ちゃんって、聖夜君と仲がいいでしょ?」
「仲がいいって言うか、一方的に馬鹿にされてるって感じだけどな。でも、あいつがどうしたんだよ?」
「実はね、昨日、聖夜君から転校しちゃうって聞いて・・・・じゃなくて。えっと、聖夜君の住所って、知ってる?」
「ああ、知ってるぞ。あっ、でも、あそこ滅茶苦茶迷い易いからな~。よしっ、連れてってやろう!」
「えっ!?」
まさかの申し出に、驚きの声しかあげられなかったけど、これって、結構まずい事言っちゃったかな?私。
「でっ、でも、お姉ちゃんと遊びに行くんでしょ?」
「ああ。まあそうだけど、その前に、聖夜の家に寄っても、花恋は怒らないだろ?」
「そっ、それは悪いよ!だって、ほら・・・・あの、久しぶりに遊ぶんだし、二人で楽しんで来てよ、ね?」
「でもよ、心配なんだよな。あそこの辺り、不審者が出るって言うし。だから、な!遠慮すんな!」
笑顔で、お兄ちゃんは私の肩を叩いてくるけど、私は笑顔を返せる余力が残っていない。だって、これって、お姉ちゃんのデートを邪魔してるようにしか感じられない。お姉ちゃんはきっと怒らないと思うけど、私の中の罪悪感は凄かった。でも、出来れば早く、聖夜君の家に行きたい。だから・・・・。
「んじゃ、早速行こうぜ!」
「あっ、うん・・・・」
私は、お姉ちゃんに何回も謝りながら、お兄ちゃんの優しさに甘えることにした。