要因は、迎えに来なかったこと
「玲菜、どこに行くの?」
「ちょっと、お兄ちゃんのところ!」
「何しに行くのよ?」
「大丈夫!お姉ちゃんのデートを邪魔するつもりはないから!」
「そっ、そうじゃないわよ!」
そう言っているお姉ちゃんの言葉を聞きながら、急いで靴を履いて、走って隣の家へと向かう。隣の家なんだから、わざわざ走る必要もなかったんだけど、一刻も早くお兄ちゃんのところに行きたかったんだ。
インターホンを押してしばらく待つと、家の中でガタガタッと言う音が聞こえたかと思ったら、眠そうな亜稀さんが顔を出した。
「水斗に用か?」
「はい。お兄ちゃん、忙しいですか?」
私が聞くと、亜稀さんはため息をついてから、眠そうにあくびをした。
「忙しいって言うか、寝てる」
「そうなんですか?」
「ああ、昨日、遅くまでゲームをやってたらしくて、部屋で熟睡してる」
「そっ、そうなんですか・・・・」
私は苦笑いで答えながら、どうしようかと内心迷う。出来れば、お兄ちゃんが寝てるところを起こしてでも聞きたい。でも、お兄ちゃんが、絶対聖夜君の家を知ってるとも言い切れないし・・・・。
私がそう思って戸惑っている間、亜稀さんはうとうとしていて、亜稀さんも、そんなに寝てないように見える。
「亜稀さんも、あんまり寝てないんですか?」
「ああ、まぁ。冬休みだし、遅くまで起きてたんだ」
「そっ、そうなんですか・・・・」
「水斗のこと、起こして来ようか?」
「いっ、いえ!あの・・・・眠いところ起こしちゃって、すみませんでした」
「いいんだ。俺が出なかったら、誰も出ないし」
「お兄ちゃんとかは出ないんですか?」
「ああ。気づかないからね、熟睡すると」
「へっ、へぇ・・・・あっ、あの、それじゃあ!」
私は何とかそれだけ言うと、家に戻ろうとした。しかし、そこを亜稀さんに止められる。
「そう言えば今日、あいつ、約束してなかったか?」
「え?」
「あんまりよく知らないけど、誰かと出かける約束」
亜稀さんがそう言った時、私の家からお姉ちゃんが出て来て、こっちに歩いて来る。
「あいつはどうしたの?」
「お兄ちゃんはね、昨日遅くまでゲームしてたから、まだ起きてないんだって」
私が言うと、お姉ちゃんが怒ったのがわかった。だって、表情が変わったんだもん。・・・・って、お姉ちゃんを怒らせる原因を作ったのって、私・・・・だよね?
私はそう思って、慌ててお姉ちゃんの怒りを抑えようとするけど、お姉ちゃんは怒っちゃって、何をしたかと言うと、亜稀さんの横を通り抜けて、そのままお兄ちゃんの部屋に一直線に向かったかと思ったら、お兄ちゃんを起こし始めたんだ。
私は、どうしようかとオロオロしていたけれど、お姉ちゃんがお兄ちゃんを起こした後に謝ろうと思って、とりあえずは様子を見ることにする。亜稀さんも、お姉ちゃんが怒ったことで目が覚めたのか、面白そうな顔でお兄ちゃんの部屋を覗いている。
「起きなさい、水斗!」
「・・・・ん?あれ?なんで花恋が俺の部屋に・・・・」
そう言って寝ぼけているお兄ちゃんを、お姉ちゃんは物凄く怒る。その際に筒抜けになった情報をもとにして考えると、お姉ちゃんが怒ってる理由って言うのは、ゲームをして夜更かししたって言うのもそうだけど、迎えに行くって言った朝に起きていなかったから怒っていたことが大きいらしい。
そんな風に説明をされたお兄ちゃんは、ようやく思い出したようで、慌てて起き上がる。その際、二段ベットの天井に頭をぶつけている。
実は、お兄ちゃん、二段ベットの下の段で寝てるんだ。と言っても、亜稀さんは、二段ベットの上段を使ってない。自分の部屋にある普通のベットを使って寝てるんだ。それなら、どうしてお兄ちゃんだけ二段ベットで寝てるかって言うと、昔は、お兄ちゃんの使ってる二段ベットで、二人とも寝てたらしいんだけど、二人とも大きくなって二段ベットが狭くなったから、ベットを買おうって話になったんだけど、その時ベットを買いに行ったお店には、ベットが一個しか売ってなくて・・・・。
普通なら、ここで買って、また違う店でベットを買うでしょ?だけど、お兄ちゃんのおじいちゃんは普通じゃなかった。だって、二人にその場でジャンケンをさせて、勝った方にベットをあげるって言ったんだ。その結果、お兄ちゃんが負けちゃったって訳で。
だから、お兄ちゃんの寝てるベットは小さい。なんてったって、子供用だから。だけど、おじいちゃんが言うには、それも、怪盗になる為の修行だって言って、新しいベット買ってあげないんだよね・・・・。お兄ちゃんはさ、エンジェルに憧れてるから、それに素直に従ってるし・・・・何だか、可哀相だよね。
「そっ、そんなに怒るなって!俺にも色々事情が・・・・」
「事情って、ゲームのこと!?」
そう言って怒るお姉ちゃんを見て、お兄ちゃんが亜稀さんのことを睨む。すると、亜稀さんは面白そうな顔をして肩を竦めた。
「ごっ、誤解だって!俺は、昨日夜遅くまで勉強してたから、寝坊したんだよ!」
「じゃあ、どこをやったか見せて」
「そっ、それは出来ないぜ。だっ、だってよ、俺と馬鹿にしか見えないペンで書いたんだもん」
「ふざけないで!裸の王様じゃないんだから!本当にやったのなら見せなさい!嘘なら素直に謝りなさい!謝ったら許してあげるから」
「・・・・ごめんなさい」
「もう!」
お姉ちゃんはそう言うと、そのまま部屋から出て行ってしまうから、お兄ちゃんは慌てて追いかける。
「謝ったら許してくれるって言ったじゃんかよ!」
「直ぐに許すとは言ってないわ」
「でもさ、俺、素直に謝ったじゃん!な?許して!」
お兄ちゃんはそう言うと、お姉ちゃんの前に回りこんで、謝り続ける。私は、内心、ごめんねと何回も繰り返すものの、少しだけ面白いなって思ってしまう。
それは亜稀さんも同じみたいで、珍しく笑っている。普段から、不機嫌って訳ではないんだけど、あんまり表情を変えない人だから、多分、笑った顔を見るのは、今日が初めてかもしれない。
「・・・・わかったわよ!しょうがないわね。もう許してあげるから、早く仕度をして迎えに来てよね!」
「わかった!ありがとう!」
お兄ちゃんの必死の謝りで、ようやくお姉ちゃんの機嫌は直ったようだ。そして、なぜか、そのまま家に帰ってしまった。