鈍感二人と、なぜか、知ってる人
「そう言えばお前、ここのうちの持ち主と同じ苗字なんだな」
「あれ?言ってなかったっけか。俺、水樹の兄ちゃんなんだぜ?」
「そうなのか?」
「ああ。て言っても、物心ついた頃から、師匠・・・・あっ、えーっと、じいちゃんのことな?の家にいたから、俺はてっきりじいちゃんの孫だと思ってたんだけど、実は、本当のうちがあるらしいってことでここを紹介されて。・・・・どうして、俺が師匠のところに預けられることになったのかは、あんまりよくわからないんだよな。聞いても話してくれないし。だけどまぁ、とりあえず、俺は、水樹の兄貴だってことは確かだぜ?」
「・・・・と言うことは、亜稀も、あいつの兄ちゃんか?」
「そうそう。なぜか、俺と兄貴だけ、師匠のところに預けられちゃったんだよね。一番上の兄貴は、普通にここで暮らしてるのによ」
「そうか。いろいろ大変そうな事情を抱えてるな」
「あっ、でも、このことは、水樹と一番上の兄貴には言うなよ?自分たち以外に兄弟がいるって知らないからな」
「まぁ、わざわざ言う必要もないからな。でも、どうして竜には言ったんだよ?」
「修、忘れてないか?竜さんが、心を読めるってこと」
「そうなのか。何だかあまり納得出来ないが、まぁ、それもいいだろう」
「んじゃよ、次、俺からの質問に答えてくれよ」
そう口を出して来たのは、今までずっと黙って俺達の会話を聞いていた神羅で、やっと口を挟めると思って安堵したのか、さっきと比べて穏やかな表情に見える。
「別にいいけど・・・・そんなに変なことじゃないよな?」
「ああ。全然」
「じゃ、どうぞ」
「お前さ、さっき、花恋とデートする約束しただろ?それって、花恋の気持ちに気づいてとった行動なのか?」
そう平然と言い切る神羅に不意を突かれたのか、水斗が思い切りむせている。
「なっ、なんで知ってるんだよ!?」
「そうだぞ。俺は、そんなこと知らないぞ」
「まあまあ、心の目ってやつよ」
「お前も心が読めるのか!?」
今度は俺が驚く。まさか、こいつまで心が読めるなんて、初耳だった。と言うことは、俺も、今まで何度か心を読まれて来たってことか?そう思うと、何だか不気味に思えて来て、神羅から離れるように椅子を引く。
「別に、心は読めないぜ?でも、なんでかわかるんだよ。だから、水斗と同時期に、族長が何をやってたのかとか、そう言うこと全部わかってるんだよなぁ~」
「恐ろしい奴だな・・・・」
「そうだな。神羅の言ってること、合ってるし」
「んで、俺の質問に答えてくれよ?」
「えーっと、なんだっけ?確か、『花恋の気持ちに気づいて、デートに誘ったのか?』って言ってたけど、花恋の気持ちってなんだ?俺、そんなの知らないけど」
そう言いきる水斗に、神羅は驚きを隠せないようで、しばらくの間動きが止まってしまった。それにしても、俺は、二人の会話についていけない。まず不思議なのは、どうして神羅は俺達のことがわかるのに、俺には二人のことがわからないのかって言うことだ。それが気になる。と言うか、気に食わない。どうして、俺はわからないんだ・・・・。
「えっ、じゃっ、じゃあよ、どうしてデートなんか誘ったんだ?」
「うーん、デートってつもりじゃなかったんだけどよ、花恋が好きな奴がいるって言うから、なんていうか、こう・・・・遊びたくなった」
「お前、まさか、気づいてないのか?」
「ん?何を??」
「花恋が好きな奴が誰かって」
「気づく訳ないだろ?花恋の性格わかってるじゃないか。あんな性格だからさ、絶対に教えてなんかくれないし。昔はさ、もっと素直な子だったんだけどね・・・・一体どうしちゃったんだか」
「そっ、そうかのか・・・・」
「そうそう。昔はさ、『私の将来の夢は、みーくんのお嫁さんになる!』って言ってたのにさぁ~。ねぇ、もう、本当にさ。あの頃は本当に素直な子だったよ」
「へっ、へぇ~」
「なんか、昔のことを思い出したら、ちょっと悔しくなっちゃってさ、遊びに行こうって思って」
「嫉妬?」
「うーん、わかんね。でもまぁ、花恋の好きな奴のことを聞いたら、花恋と遊びたくなったってだけかもな」
そんな水斗の発言に、神羅がボソッと言った言葉を、俺は聞き逃さなかった。と言うのも、単に水斗の悪口だけを言うなら、俺は聞き逃していたかもしれない。しかし、違ったのだ。俺は、何も悪いことをしていないのに、悪口を言われたのだ。しかも・・・・。
「おい、神羅。今、小声で『鈍感二人』って言っただろ?」
「えっ!?そっ、そんなぁ~。言ってないですよ、そんなこと・・・・」
「嘘付け!目が泳いでるぞ」
「なっ、なんで族長が怒るんですか!俺は、『二人』とは言ったけど、その一人が族長とは言ってないですぜ?」
最もな言葉に、一気に体温が下がる。確かに、こいつは、「鈍感二人」とは言ったが、直接俺のことを鈍感だとは言っていない。と言うことは、その一人に当たる奴が水斗だとしても、もう一人は俺じゃない可能性もあるわけだ。
「そうか・・・・。確かに、言われてみればそうだな。勝手に勘違いして怒って悪かった」
「いっ、いや、全然いいんですよ!」
「ちょいちょい、修はいいかもしれないけど、俺は、満足しないぞ。どうして、俺は鈍感なんだよ?」
「だって、そうじゃないか」
「そうって、何がそうなんだよ」
「いっ、いや、なんでもねぇ・・・・そう言えば、さっきからずっと手に持ってるその封筒、なんだ?」
神羅がそう聞いたのは、多分、俺達が入って来る頃からずっと右手に持っていた茶色の封筒のことだろう。俺は大して気にならないし、神羅もそこまで人の物に興味を示すような人間でもないから、きっと、話を逸らす為に聞いたんだろう。
「ああ、これ?これは、花恋に渡す分の金だよ」
「なっ、なんでそんなことしてるんだ?」
「いや~さ、ほら、親がいないから、花恋が家事やバイトとか全部やってるんだけど、やっぱり金が足りないようでさ。でも、俺が素直に渡しても絶対に受け取ってくれないだろうから、花恋がずっといた施設の名前を借りて、毎月渡してるって訳だ」
「お前は大丈夫なのかよ?」
「ああ、俺は大丈夫。怪盗をやってるとは言え、一応バイトはしてるんだけど、それは、世間を知る為のものみたいで、金に困って働いてる訳じゃないからよ」
「ふーん」
俺は、水斗の言葉を不思議な気持ちで聞いていた。別に、それを否定するつもりはないが、まるで、夫婦みたいだなと思っただけだ。
「ん?どうした?」
「いや、なんでもない。ただ、変なことをするなって思っただけだ」
「な~んか、褒められてる気はしないって言うかなんて言うかだけど、まぁ、とりあえず、ありがとう」
「・・・・やっぱり、変な奴だな」
「・・・・え?」
「いや、いい。そう言えばお前、家に帰らなくていいのか?一時過ぎてるんだぞ?じいちゃんや兄貴が心配するんじゃないか?」
俺がそう言うと、水斗が慌てた表情を浮かべ、慌てて、残っていた紅茶を飲み干すと、椅子にかけてあった上着をとって立ち上がる。
「やばいやばい!門限二時までだから、気づかせてもらってよかったぜ」
「門限二時!?」
「まぁな。普通の子じゃないから。それじゃ、竜さん、ありがとうございました!それから、二人も、今日はいろいろ巻き込んで悪かったな。許してくれとは言わないけど、もしその気があったら、許してくれると嬉しいぜ。じゃな」
水斗はそう言うと、どこからか取り出した自分の靴を持って、リビングからベランダに出る窓を開けたかと思ったら、そこからそのまま出て行ってしまった。
「まるで、妖怪みたいな帰り方だな」
「ああ、そうだな」
神羅の言葉にうなずくと、冷気が入って来ないうちに、さっさと窓を閉めることにした。