紅茶よりコーヒー派な彼です
「到着しましたよ」
「ああ。ありがとな」
「いえ。聖夜様が認めた人達です。お気になさらないで下さい」
「わかった。そう言うなら気にしないことにする」
「えっ!?族長、それは・・・・」
「まあな。でもまぁ、気にするなって言われたら、気にしないことに越したことはないだろう」
「うーん、そんなものなんですかねぇ?」
「しつこいぞ。あんまり言うなら置いてくからな」
なぜだかわからないが、しつこく言って来る神羅を残して、止まった車の外に出る。車を下りた真正面には大きな家があって、表札には「新見」と書かれている。
それを見た時、俺はふと、何かを疑問に思った。しかし、何に対して疑問が浮かんだのかすらもわからない状態で、その気持ちは薄れて行った。何だか気持ち悪いなと思いながらも、思い出せないし、そもそも、何に対して疑問に思ったのかもわからないんだから、仕方ないだろうなと思って、新見家のインターホンを押す。
すると、丁度十秒後に竜が出て来た。
「おおっ、ようやくご帰宅か」
「ああ。いろいろあって、こんな時間になってしまった」
「まぁ、お疲れさん。神羅もな」
「ああ、ありがとな。そう言ってくれる人が全然いないからよ、凄く嬉しいぜ」
そう言う神羅の目が俺の方に向いている気がするが、俺は、それに気づかないふりをして目を逸らす。
「今、族長のことを言ったんですぜ?」
「わかってる。だから、目を逸らしたんだ」
「なんだって!?確信犯だったのか!!」
「そう怒鳴るな、うるさい。今日はもう疲れたんだ。これ以上疲れさせないでくれ」
「だっ、だってよ・・・・」
「まあまあ、そんなに喧嘩すんなよ。そう言えば、飯、食ったのか?」
「食べてないが、俺は要らない。出来れば、紅茶を出して欲しい」
「ん?修、紅茶よりも、コーヒーの方が好きじゃなかったか?」
「コーヒーを飲んだら眠れなくなるだろ?それは嫌なんだ」
俺の返しの何かが面白かったのか、二人が笑い出すから、睨みつけてやると、笑うのをやめた。全く、俺の周りは、訳のわからないような奴ばっかりか。
「まっ、とりあえず、先客と話でもしててくれよ。きっと、面白いだろうから」
「そう言えば、靴が多かったような気がするが・・・・こんな時間に来客って、そいつは、よっぽど非常識なんだな」
そう言いながら、廊下にかかっている時計を見る。時間は、夜の一時を回っていて、これは、非常識どころではないだろうなと思った。
「まあまあ。いろいろあるみたいだからよ、そんな風に言わないでやってくれって」
「・・・・知り合いなのか?」
「ああ。まだ、修達には紹介してなかったと思うけど・・・・」
そう言って竜がリビングのドアを開けた。その先にいたのは・・・・。
「お客さんか・・・・って、げっ!?修達じゃないか!」
「・・・・お前か」
「ん?知り合いだったのか?」
「知り合いも何も、今日は、こいつのせいでいろいろ振り回されて大変だったんだ」
「そっ、それって・・・・」
「か・・・・」
俺が「怪盗エンジェル」のことを言おうとすると、それにいち早く気づいた水斗が俺の口を塞ぐ。そして、竜には聞こえないぐらいの小さな声で言った。
「竜さんには、怪盗エンジェルのことは話してないんだ。だから、その話はしないでね」
「・・・・わかった」
「よしっ、ならいいよ」
水斗が生意気にそんなことを言った為、俺に背中を向けている時に、背中を蹴ってやった。
「痛いじゃんか!」
「お前が悪い」
「なんで俺なんだよ!」
「ちょいちょい、二人とも、一応知り合いなんだろ?なら、仲良くしようぜ?」
「こいつが生意気な口をきかなければ、俺だって怒らなかった。だから、こいつが悪い」
「なんでだよ!別に、生意気って思われるようなことは言ってないはずだぜ!?」
「まあまあ。ほらほら、紅茶用意してやるから、それ飲んで落ち着けって。神羅、この二人、リビングの椅子に座らせてくれないか?」
「了解!」
神羅はそう言った途端、にらみ合っていた俺と水斗の腕をつかんで引っ張って行く為、一瞬だけ怒りが冷める。
「おい、どこに連れて行く気だ!」
「どこって、リビングの椅子ですよ。話聞いてませんでした?」
「知らん!」
「えっ!?俺はちゃんと聞いてたぜ?」
「余計なこと言うなって、水斗」
「あっ!初めて神羅が俺を攻めた・・・・これで、味方はゼロか・・・・」
そう言って落ち込む演技を見せる水斗。俺は、絶対に演技だって思ったが、神羅は本気に思ったらしく、何だか慌てている。可哀想だな。
「いや、あの・・・・ほら!元気出そうぜ!」
「別に、落ち込んでねーし」
「いや、いじけてる」
「嘘付け!」
今度は、神羅と水斗との間にバトルが生まれ、俺は、いつの間にか傍観者になっていた。何だか不思議に思いながら、竜から渡された紅茶を飲んだ時、さっき、何を考えていたのかと言うことを思い出した。それは、水斗と新見水樹と言う子供の苗字が一緒だってことだ。