簡単なこと
「次に、もう一つ話したいことがある」
「・・・・そうだな。なんとなく、話すことは想像出来る」
「そうか。でもまぁ、ちゃんと説明するからな。まず、率直に言うと、僕の正体は、スパイだ」
聖夜は、事前に、「率直に言う」と言ったが、それにしても話がぶっ飛び過ぎている。思わず転びそうになったほどだ。
「すっ、スパイって、あの映画とかのやつか!?」
「まあな。昔はそうだったんだ」
「昔!?」
「うん。生まれた時から、スパイになる為の学校に通ってて、三歳から本格的な活動を開始した。それに加え、いろいろ発明もしてたぞ」
「うわぁっ・・・・そんな三歳児いたら怖っ・・・・」
「まあな。僕は天才って言われたからな。まぁ、それはおいといて、僕は、現在スパイ活動は休業中だ。生まれた時からずっと裏の世界で生きてたから、表の世界が見たくなって、日本に来たんだ。しかし、僕はスパイをやっているから、当然うらみも買うはずだ。その為、今日みたいな出来事が、今までに三回ぐらい起こったんだ。で、その度に僕は町を移動し、転校を繰り返した。だから、今回も例外なく引っ越そうと思った。・・・・でも、僕をこの町に留めておこうと言う変わり者が現れてな。そいつのせいで、転校しようと言う気持ちが揺らいだ。でも、転校はするつもりだ。僕のせいで、怪我をする人を増やしたくないしな」
そう言う聖夜は、何だか少し悲しそうで、俺は、何かを言ってやりたかったが、うまい言葉が見当たらない。
「じゃあよ、いっそのこと、金髪を黒髪に染めてみたらどうだ?」
「それはダメだ!僕は、金髪に誇りを持ってる。それは譲れない!」
「でもよ~」
「神羅、こいつは、妙にこだわりがある奴だ。ダメだと言うことは、何度言っても妥協しないぞ」
「そうなのか?」
「ああ」
「僕も、本当は転校したくない。あんなことを言ってくれる奴は初めてだったから。でも、そう言ってくれた奴を巻き込みたくないから・・・・」
「いたいなら、いればいいじゃないか」
「だから・・・・」
「自分のせいで関係のない奴を巻き込むのが嫌なら、巻き込まないように努力すればいい。怪我をさせるのが嫌だったら、聖夜が守ってやればいい。それだけのことだ」
俺の言葉に、最初は納得が行かないようだったが、最後の最後には大きくうなずくと、ため息をついた。
「わかった。僕はここに残る。その変わり、周りの人達に迷惑をかけない用に、最大限努力する。そして、みんなが怪我をしないように守る。修も手伝ってくれるか?」
「・・・・まぁ、あまり気乗りはしないが、いいだろう。神羅も手伝うんだぞ」
「えっ!?マジですか?」
「マジだ」
「そうか!二人が味方になってくれるのなら、凄く心強いぞ!と言うことで、よろしく頼んだぞ、修、神羅」
「おっ、おう!もう、ここまで来たら引き返せないしな、族長がそう言うなら、俺も従うぜ」
「・・・・いろいろ言いたいこともあるが・・・・まぁ、いいだろう。で、話は終わったか?」
「うん。長い間付き合ってくれてありがとう。家まで車を出そう」
「ああ、悪いな」
「それから、家が壊れちゃったらしいな。竜から聞いた。だから、全速力で直させる。普通の工事なんかよりもかなり早く終わるだろうから、楽しみにしててくれ」
「ありがとう」
「いいんだ。友達が困ってたら助けるのが当たり前。そう教科書に書いてあった」
「友達?」
俺が問い返すと、聖夜はなぜか慌てた後、顔を赤くして、後ろを向いてしまった。
「いっ、いいから、早く行け!僕はもう寝るんだ!部屋から出て右側の通路をまっすぐに行けば車があるから、それで送って行ってもらえ!いいな!!」
聖夜はそれだけ言うと、少し出遅れた俺達の背中を思い切り押して、部屋の外に連れ出した。そして、自分は、左側の通路を早足で歩いて行った。
「まさか、お前が友達って思っててくれたとは思ってもみなかったが、嬉しかったぞ!」
俺がそう言ってやると、聖夜は一瞬だけこちらを振り返ってうなずくと、また直ぐに前を向いて、走り出してしまった。よほど恥ずかしいのだろう。
「なんか、可愛らしいよな」
「まあな」
「おっ!族長が聖夜を可愛いって言った!」
「うるさい!そう言う意味じゃない!」
「それってどう言う意味だよ?」
「・・・・わからん。とりあえず、帰るぞ、竜のところに。凛が熱出してるんだろ?」
「おっ、おう!あっ、ちょっと待てって!」
俺は、後ろから慌ててついて来る神羅との間を引き離すように、早足で歩き出した。