対となる存在で・・・・
「遅くなって悪かったな、色々準備をしていたら遅くなってしまった」
「別にいいんだけどよ~、どこに行ってたんだ?」
「そう言えばお前、堕天使の正体に気づいたらしいじゃないか」
「なんで知ってるんだ?あの時は、族長にしか聞こえないようにしてたつもりだけど・・・・」
「ある人物に聞いた」
「ある人物?」
「うん、神羅はもうわかってるんだろ?なら、どうせ隠そうとしたって無駄なことだからな」
そう言って、聖夜が手招きをすると、今までドアの影で見えなかった人影が動いて、俺達の前に現れた。
目の前に立っているのは、水斗の怪盗時に来ている服とほぼ同じ服を着た亜稀だった。
俺は、堕天使の正体が知り合いだったことに驚いたが、神羅はそれがわかっていたようで、何だか嬉しそうな表情を浮かべながらうなずいている。
「水斗の兄である亜稀が、堕天使の正体だ」
「やっぱり、俺の思ったとおりだぜ」
「そうなのか?」
「ああ。堕天使に逃げられた時に感じたにおいが亜稀とそっくりだったんだ」
「においって・・・・まさか、それだけでわかったのか?」
驚いたように問うて来る亜稀に、神羅が自慢げにうなずくと、亜稀は顔を伏せた。
「ここで一つ、お前たちにお願いがある」
「なんだよ、場合によっては断るからな」
「・・・・いや、僕は、修を信じるぞ。そんな冷たいことをしない人だって・・・・」
聖夜の思ってもない反応に、思わず顔をしかめる。こいつがこんなことを言うってことは、よほど、バレてはいけないことらしい。普段ならつっかかって来るはずなのに、こんな風に戦法を変えて来るなんて、それしかない。
「そんなに言って欲しくないんだな」
「うん。修に、僕の熱意が十分伝わったみたいでよかった。それじゃあ、お願いを話すぞ」
「ああ」
「お願いと言うのは、堕天使の正体を誰にも言わないで欲しいってことなんだ」
「それは・・・・」
「これにはちゃんと理由がある!それは、水斗のことだ」
「水斗のこと?」
「そう。水斗は、亜稀が堕天使だってことを知らないんだ。と言うか、水斗に、堕天使が亜稀だって伝わらないように、堕天使の正体を話さないで欲しいと言ったんだ」
「なるほどな・・・・だいぶ話が読めて来たぞ」
「うん。多分、修が思ってることと、これから僕が話すことは大体似てると思うけど、一応説明しておくぞ。亜稀は、水斗がエンジェルだって知ってる。なら、なぜ、自らの弟を邪魔するような真似をするのか。それは、水斗と亜稀の師匠である人物、源五郎さんに頼まれてのことなんだ。減五郎さんの目的は、堕天使と言うエンジェルの敵を作ることで、水斗のやる気を出させること。そうすることで、修行にも力が入り、成長が図れると言うことだ。特に、水人は、ああ見えて、意外と負けず嫌いだからな。十分な成長を見せた」
「やっぱりな。そう言うようなことだと思った。でも、水斗の口からは、亜稀が怪盗になることを拒んだから自分がやってるって聞いたが・・・・」
俺が言うと、今までずっと黙っていた亜稀が口を開いた。
「それは、師匠が作った口実だ。俺は、怪盗になることを拒みはしなかった。だから、日々怪盗の修行を積んでいた。しかし、師匠が、俺よりも水斗の方が怪盗に適していると判断し、俺は、怪盗ではなく、普通の人生を選ぶことになった。しかし、俺は、怪盗になりたかった。だが、師匠が教えてくれなければ、俺は修行すらも出来ない。だから、普通の人間になる道を選ばざる終えなかった。それは、突然告げられたことで、俺が落ち込んでいると、突然師匠が、堕天使の話を持ち込んだんだ。それで俺は、水斗の成長を助ける為に、悪質な盗みなどを働くことにした。最初は、盗んだら盗んだままにしていたのだが、もともとは、俺もエンジェルになる予定だったからかわからないけれど、良心と言うものがうずいて、師匠に言ったんだ。『俺が盗んで来たものを、水斗に返させて下さい』って。それで、今のような状態になっている」
「ほぉ~、なるほどなぁ・・・・確かに、堕天使の正体が自分の兄だってわかったら、やる気なくしちゃいそうだもんな」
「うん。だから、水斗が一人前の怪盗になるまで、堕天使が亜稀だってバレてはいけないんだ。そう言うことだから、協力してくれるか?」
「・・・・まぁ、いいだろう」
「俺も、族長と同じで」
「うむ。それならよかった。二人が、話のわかる人物でよかったと心底思うぞ」
そう言って笑う聖夜を見て、俺は、そのまま話しを流しそうになったが、何とかギリギリのところで、大事なことを思い出す。俺が、堕天使を必死になって探した理由・・・・それは、堕天使を焼く為だ。だから・・・・。
俺がそう思って立ち上がった時、俺の目を見て何かを察したのか、神羅が立ち上がって、俺を羽交い絞めにする。
「離せ!俺は、こいつを焼く為に堕天使を探し回ったんだ!」
「そんなこと言っても、こいつは水斗の兄貴で、俺達の知り合いなんだぜ?」
「そんなことはいい!あんなことをやっていた態度がムカつくんだ!」
「もし、それも演技だとしたらどうするんだよ?」
「え?」
「もし、そのムカつく態度すらも演技で、族長を怒らせる為にやっていたことだったらどうする?」
そう神羅に問われ、頭に上った血が一端引いて行く。そして、ゆっくりと聖夜達の方向を向くと、うなずいた。それを見て、俺は、こいつらの手の上で転がされていたことがわかり、何だか恥ずかしくなる。
「なっ、なんなんだ!全く!!」
「怒らないで下さいよ、族長」
「これが怒らずにいられるか!って言うか、聖夜、お前も共犯だったんだな!」
俺がそう言うと、聖夜が珍しく慌てた表情をして、首を振った。
「たっ、確かに、いろいろと亜稀の手助けをしたけど、助ける順番までは指示してない!それはどう言うことだ!!」
「え?」
「聞こえない振りしても無駄だ!あれには、さすがの僕も驚いたぞ!」
「いや・・・・特に意味はないけど、何だか、そんな風にくっついたらいいのかなと・・・・」
そう言いきる亜稀に、俺と聖夜は声を合わせて言った。
「よくない!」
「おおっ、息ぴったり!やっぱり、似てるな、二人とも」
「うるさい!」
「そうだぞ、うるさいぞ!」
「えっ・・・・」
「とにかく、もう二度とあんな余計なことはするなよ!」
「俺のおかげで、みんなそれぞれ仲が進展したんじゃないか?」
「別に、僕は、進展なんかしたくない!それはともかく、これからは、絶対に勝手な行動をするなよ!」
あまりにも聖夜が必死に言う為、今まで少しも表情を変えなかった亜稀が少しだけ表情を変える。
「わかった。俺が勝手なことをして、水斗に正体がバレでもしたら大変だからな」
「そうだぞ。わかったなら、もう二度とやるなよ!」
「わかった」
亜稀がこっくりとうなずくと、聖夜はようやく満足したようで、大きく息を吐くと、俺達の前に座った。