魔界と人間界の子育て事情
「なんでお前がそんなに話したがるのかわからないが、仕方ない、付き合ってやるから、もうそんなにしつこく言うな!」
「族長が早く妥協してれば、俺もしつこく言わないぜ」
「うるさい。で、何だよ、話そうって言ったからには、何か話題があるんだろうな?」
近くにあった椅子に座りながら聞くと、一瞬だけ困ったような顔をしたが、直ぐに何かを閃いたようで、口を開いた。
「族長のお袋さんって、どんな人なんだ?親父さんの話はいっつも聞くんだけどよ、お袋さんの話は一度も聞いたことないからな。もし、話すのが嫌なら、断ってもらって結構ですから」
「お袋には、一度も会ったことがない。俺が、お袋のことを話さないのは、話すのが嫌と言うよりは、親父からあまり聞いたことがないから、お袋のことを知らないってだけだ」
「そうなんですか・・・・」
「お袋の写真があるが、見るか?」
「持ち歩いてるんですか?あるなら、見て見たいですけど・・・・」
「写真って言ったら写真だが、これは、もともとお袋がつけてたものだから、なんとも言えないな」
俺はそう言いながら、首にかけてあるネックレスを外す。そのネックレスの飾りは金色のハートで、とても俺の趣味じゃないのだが、お袋の形見と言うことで、常に持ち歩いているのだ。
「首にかけてたんですか!?」
「ああ」
「ハート型・・・・」
「俺に似合わないって言うんだろ?俺だってそう思う。だが、お袋の形見だからって自身に言い聞かせてるんだ」
「あっ、すみません。でも、写真なんてどこに・・・・」
「ハートを横にスライドさせると、その中に写真が入ってる。左が若い頃の親父で、右がお袋だ」
「ほぉ~。凄いですね、このネックレス。それに、お袋さん美人だな、族長とはあんまり似てないけど」
「うるさい。男なのに、女に似てどうするんだ」
「まぁ、そうですよね~。へぇ~、なんだか、不思議な感じですね」
「は?」
「いえ、なんでもありません。わざわざお袋さんの形見を見せてくれて、ありがとうございました。きっと、族長のことだから、中々人には見せないんでしょ?」
神羅の言葉は当たっていた。今まで出会った人物の中で、お袋の形見を見せたのは、栞奈とあいつ、そして、魔界にいる知り合いと、神羅だけだ。
しかし、神羅の言葉に素直にうなずきたくなかった。神羅の言葉が合っていたとしても、うなずきたくなかった。
「違う」
「わかってますよ!全部筒抜けですから、わかってますって!」
「・・・・嘘つくな」
「それじゃあ、嘘じゃないって証拠に、族長の心の声を言ってみせましょうか?」
「言わなくていい。そう言うお前の両親はどうなんだよ?」
俺が聞くと、今まで笑顔だった神羅の顔から笑みが消え、そのまま黙り込む。その表情の変化を見て、何かあるのかと思って、俺も、真剣な顔になる。
「うーん、俺、あんまり両親のこと覚えてないんだよな」
「そうなのか?」
「ああ。親父が医者で、お袋も、その手伝いみたいなのでしょっちゅう家空けてたから、記憶にないんだろうな、きっと」
「医者なのか!?」
「なっ、なんでそんなに驚くんだよ?」
「お前が、医者の血筋を引いてるようには見えなかったからだ」
「別にいいじゃんかよ。見えなくたって、医者の血引いてんだぜ?」
「まあいい。そうか。まぁ、そんなものだよな、親って言うのは」
「そうそう。だからよ、人間界の子供が羨ましいなって思ったぜ」
「俺は思わん」
「族長の言葉は、一つで二つの意味を持ってるんですもんね」
「・・・・・なんだよ、それ」
「『思わない』と言う言葉には、『思わない』と言う意味と、『思う』って言う意味があるってことですよ」
「勝手に解釈をするな!」
「まあまあ。ほら、人間達はさ、俺達妖怪みたいに子供をずっとほったらかしになんかしないだろ?それが凄く羨ましくてよ、人間に生まれたら・・・・って考えたことあったぜ」
「それ、いつの話だよ?」
「ここ最近」
「・・・・ふーん」
「なんか、その態度は気に食わないけど、まぁ、いいか。・・・・って、聖夜遅いな、何やってんだろ?」
「まぁ、気長に待てばいい。あいつは、結構人を待たせる奴だからな」
「おおっ・・・・族長にしては珍しいな。やっぱり、族長でも、子供・・・・そして、自分に性格が似た奴だと、優しくなるんだな」
「優しくはなってない。ただ、二日近くずっと一緒にいたから、そのことに気づいただけだ」
「へぇ~」
神羅の気の抜けたような返事が聞こえた時、今まで開けられることのなかったドアが開き、ようやく、聖夜が顔を出した。
「遅くなって悪かったな、色々準備をしていたら遅くなってしまった」
「別にいいんだけどよ~、どこに行ってたんだ?」
「そう言えばお前、堕天使の正体に気づいたらしいじゃないか」
「なんで知ってるんだ?あの時は、族長にしか聞こえないようにしてたつもりだけど・・・・」
「ある人物に聞いた」
「ある人物?」
「うん、神羅はもうわかってるんだろ?なら、どうせ隠そうとしたって無駄なことだからな」
そう言って、聖夜が手招きをすると、今までドアの影で見えなかった人影が動いて、俺達の前に現れた。