過去に辛い経験があるからこそ、今が幸せに思える
「あっ、族長、こっちです!」
「そう言えばお前、今までどこにいたんだよ?」
「俺は、族長達と別れた後、とりあえずは家に帰ったんですよ。でも、急に、聖夜から家に来て欲しいって連絡が入ったから、ここに来たって訳だ」
「・・・・そうか」
「そう言えば、なんか、凛が熱出したみたいだぜ?」
「そうなのか?」
「ああ。なんかよ、着ぐるみの仕事を手伝って、汗かいたまま外にいたからとか・・・・。まぁ、要は、会いに行ってあげたらどうですかってことです。竜から、族長を捜してたって聞いたんで」
「なんで、俺なんか捜すんだよ?」
「保護者だからじゃないですか?」
「・・・・まぁ、聖夜の話が終わったら、様子でも見に行くか」
保護者だからと言う理由だけで捜してると言うのは何だか変な感じだが、様子だけは見に行ってやることにする。あいつは、ちょっとぐらいの熱じゃダウンしないはずだから、相当な高熱と思ったのだ。
「なんか、その言い方だと、高熱じゃなかったら様子を見に行かないみたいですね」
「当たり前だ。少しぐらいの熱でわざわざ様子を見に行く必要もないだろ?竜がいるんだ。安心だろう」
「冷たいですねぇ、族長」
そう言う神羅の表情がなんだかわからないがイラついた為、神羅のことを蹴る。時々、こいつも凛みたいにムカつくような態度をとるのだ。許しがたいことだ。
「ってて・・・・。どうして蹴るんですか!」
「お前が馬鹿なことを言ったからだ。俺のどこが冷たい?無慈悲だって言うんだ?」
「普通なら、熱が高くなくてもお見舞いに行くものですよ」
「・・・・」
神羅に言われて何も言えなくなる。確かに、神羅の言葉も最もだ。しかし、俺は、認めたくなかった。
「別に、俺の勝手じゃないか」
「誰でも、弱ってる時は、頼りになる人・・・・。一般的に言うと、保護者の人に付き添っていてもらいたいものですよ」
「・・・・はぁ」
「ん?どうしたんですか、族長。急にため息なんかついて・・・・」
神羅に問われ、力なく首を振ると、再びため息をついた。俺は、そんな気持ちになったことがないから、一般的にはそう言う風になる人が多いのかと思って驚いたのだ。・・・・まぁ、俺の場合は、そう思っていても、親父は常に家にいなかったから、余計悲しい思いをするだけだろうな。
「俺は、そう言う気持ちはよくわからない。俺が熱を出した時も、親父は仕事をしていた。だから、凛のところに行っても、何を話したらいいのかわからない」
「・・・・そうだったんですか・・・・。なんか、すいません」
「別にいい。・・・・お前はどうなんだ?」
「俺ですか?えーっと、俺は・・・・」
そこで言葉を切り、何秒間か神羅は考え込んだが、無言で首を振った。
「俺も、族長と一緒です。親が忙しかったから、いつも家に一人でいた記憶しかありません」
「・・・・そうか」
「でもまぁ、俺は、それでも満足してるんで。あの時は寂しい思いをしてたけど、今は、常に誰かと一緒にいる。それを幸せと感じられるのは、あの時・・・・寂しい思いをしたからこそだと思いますから、俺は、あの時に感謝をしてます。で、毎日、こうやって誰かと交流をし、生きていられることにも感謝してます」
俺は、神羅の言葉にただただうなずくことしか出来なかった。まさか、こいつが、人と交流出来ること。そして、生きていられることに日々感謝をしているなんて思ってもいなかったからだ。・・・・こいつも、意外と凄い奴なんだな。
「・・・・族長、最後の一言いらないんじゃないですか?」
「もう、めんどくさいから注意をしないぞ」
「おっ、なんだ。てっきり、『俺の心を読むんじゃない!』って言われるのかと思いましたよ」
「お前な・・・・何度も同じことを注意する俺の身にもなってみろ。地獄だぞ?」
「まあまあ。楽しいんだからいいじゃないですか」
「それは、お前だけだ!」
「族長は楽しくないんですか?」
「・・・・何がだ?」
「こうやって誰かと話してるってこと」
神羅に言われ、今まで、体が熱くなるほど興奮して怒っていたのに、水をかけられたように熱が引いて行った。
俺は、親父が傍にいない変わりに、栞奈やあいつがいつも傍にいた。だから、あまり寂しい思いをしなかったから、こうやって人と話せることに感謝をしていないのかもしれない。
「・・・・まあまあだ」
「曖昧な答えですね~。でも、それが、族長にとって最高の言葉と思ってますので、楽しいんでしょ?」
「・・・・もういい!なんで俺に話しを振るんだ!大体、聖夜はどこだ!一体あいつはどこにいる!」
「ああ、話を逸らそうとしてもダメですよ。でも、一応答えておくと、聖夜は、この部屋で待ってろって言ってどこかに行っちゃったぜ?」
「・・・・話を逸らそうとなんかしてない」
「って言うかよ、こうやって族長と面と向かって話すことも中々ない訳だし、聖夜が来るまでの間、色々話そうぜ」
「・・・・断る」
「なんでだよ!」
「意味はない」
「じゃあ、いいじゃんかよ」
「嫌だ」
「なんで!!」
「わかった!なんでお前がそんなに話したがるのかわからないが、仕方ない、付き合ってやるから、もうそんなにしつこく言うな!」
「族長が早く妥協してれば、俺もしつこく言わないぜ」
「うるさい。で、何だよ、話そうって言ったからには、何か話題があるんだろうな?」
近くにあった椅子に座りながら聞くと、一瞬だけ困ったような顔をしたが、直ぐに何かを閃いたようで、口を開いた。