鈍感でツンデレで、告白に権利はいらないと思う人
「あの・・・・伊織君、私の家、ここなんだけど・・・・」
そう女に声をかけられて、慌てて足を止める。いつの間にか、こいつの家の前に来ていたようだ。
「ごっ、ごめんね・・・・送ってもらっちゃって」
「別にいい。送るって言ったのは俺だからな」
「うっ、うん・・・・。あっ、あのさ、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「まぁ、場合によっては断るけどな」
俺がそう言った途端、女の顔から血の気が引いていくのがわかって、どうしようかと思ったが、とりあえずは様子を見ておくことにする。
「で、その願いってなんだ?」
「あっ、あのさ、もしよかったら、番号、教えてくれないかな?」
「・・・・番号?家の電話番号か?それなら、連絡網が書かれた紙に書いてなかったか?」
「そっ、そうじゃなくて・・・・」
「・・・・?」
俺は、女が何を言いたいのかよくわからなくて首をかしげる。番号と言って思いつくのは、家の番号ぐらいだ。しかし、女は違うと言う。こいつは、何の数字を聞きたいって言うんだ?
「あっ、あの・・・・携帯の」
「・・・・何で?」
「え?あっ、あの・・・・訳はないんだけど・・・・」
「まあ・・・・別にいいか」
俺は、女から渡された紙とペンに凛達の番号を書くと、女に渡した。すると、とても嬉しそうに受け取った為、何だか不思議な気持ちになる。
「そんなに嬉しいか?」
「え?」
「俺の思い違いならそれでいいが・・・・」
「うっ、嬉しいよ!凄く!」
「そうか。まぁ、仲良くしてやってくれ。きっと、お前と相性がよさそうだ」
「え?」
「凛達のことだ」
「え?あっ、あの・・・・もしかして、伊織君の番号は書いてないの?」
「あいつらの番号を教えて欲しいんじゃないのか?」
「そっ、そうだけど・・・・伊織君のも聞きたいなって・・・・ダメかな?」
「別に、ダメじゃない。ただ、変な奴だな、お前」
「なっ、なんで?」
「携帯の番号を聞いてまで話したい相手とは思えないからな」
「うっ、うーん」
「これ」
「あっ、ありがとう」
女は、俺が差し出した紙をおずおずと受け取ると、ゆっくりとした足取りで歩き出した。
「あっ、あの・・・・それじゃあ、ありがとうございました!」
「ああ。早く寝ろよ」
俺はそれだけ言うと、聖夜の家に戻ろうと歩き出した時、家に入ったはずの女に声をかけられて、今度は何かと振り返る。
「あっ、あのさ、ちょっと話したいことがあるんだけど、もう少しだけいい?」
「ああ。出来れば早くして欲しいけどな」
「そっ、それじゃあ、出来るだけはやく終わらせられるように頑張るね。えっとさ、私、前に伊織君に告白して、あっさりフられちゃったでしょ?でもさ、どうしても諦めきれないんだ。だから聞くけど、私のこと、どう思う?はっきりと言ってもらっていいよ。嫌なら、もう関わろうとはしないから。諦めるからさ・・・・」
そう聞いて来る女の顔は、今まで見た中で一番真剣な表情で、話をはぐらかすのはいけないようなことだと思えた。
しかしだ。例え、俺がこいつのことが好きだったとしても、人間と妖怪は、深く関わりあってはいけないと言う決まりがある。だから、どうあがいても、無理なものは無理なのだ。しかし、妖怪とかそう言うことを言えないから、ある意味説明が難しい。
多分、こいつのことは嫌いじゃないと思う。最初はウザイぐらいに嫌だったが、今は、そこまで嫌とは感じなくなった。ただ、変な気持ちになるだけだ。しかし、これは、決して好きだと言う訳でもなさそうだ。
俺は、何だかわからなくなって来て、無言で首を振った。
「・・・・やっぱり、嫌いなんだ・・・・」
「わからない」
「えっ?」
「俺には、よくわからない。ただ、それだけなんだ」
自分でもはっきりと言えず、曖昧な答えだとはわかっていたが、そうとしか答えようがない。下手に変なことを言うと、またややこしい事になりそうだしな。
「・・・・そっか。じゃあ、嫌いじゃないんだね」
「・・・・」
「私に、チャンスをくれる?」
「・・・・は?」
「チャンスって言うか、権利。私が、伊織君に告白する権利」
思ってもみない発言をされて、俺は思わず何も言えなくなる。
・・・・告白に、権利は必要なのだろうか?そんな話は聞いたことがない。それに、前の時は権利も何もなかった。なら、権利なんて必要ないんじゃないのか?なのに、何で権利を求めて来るんだ?俺の周りには、不思議な奴らが多すぎる。何を考えているのかさっぱりわからない。
「権利なんて、必要なのか?」
「え?だって・・・・」
「そいつ本人が思う気持ちを言うのに、権利なんていらないと思う。それが俺の考えだが、お前がどう思うかは自分次第だ」
「わかった。ありがとう。変なこと聞いちゃって、ごめんね」
「話はそれだけか?」
「うん。それじゃあ、おやすみなさい」
女はそれだけ言うと、今度はしばらく待っても顔を出さない為、今度はちゃんと家の中に入ったのだなと確認して、改めて、聖夜の家に向かうことにした。