魔界の国宝 冥道編 覚醒
「わかったわ。あなたの気持ちはよ~~~くわかった。あなたは合格!」
「・・・・え?」
「あなたは無事に天国に行くことが保障されたわ」
「でも、僕は、沢山の人を殺してきちゃいました。それで天国に行ったら・・・・」
「ええ。あなたが今までやってきた事は、決して許されることじゃない。でも、人間界を助ける為に、自らの命を投げ出す人を地獄になんか落とせないわ。それに、今は心に闇がないもの。真っ白で、闇の面影のない心。それがあるから、あなたは天国に行くの」
そう魔光霊命様に言われた途端、自分の中の何かが膨れ上がったと思ったら、パチンと弾けた。体が急に熱が出た時みたいに熱くなっていくのがわかる。
自分でもおかしくなっちゃったのかと思ったけど、何とかおかしくはなっていないようだった。でも、自分の目はおかしくなってしまったようだった。
「なっ、何これ!?と言うか、犬神の面影が全くなくなっちゃった。耳もないし・・・・」
「あら、あなたは犬神でもあり、エンジェルでもあったのね。どうりで心が真っ白だと思ったわ」
「そんなことより、説明して下さい!僕の目がおかしくなっちゃったんですか?それとも頭ですか!?」
自分の着ている洋服に戸惑い、目の前にいる魔光霊命様の正体を忘れて、思い切り肩を揺する。
僕の来ているものと言ったら、天使、エンジェルだった。真っ白のワンピース(?)に、白いサンダル。背中には自分の体よりも大きい純白の羽がついてる。そして、手には・・・・。
「天華乱爪!!」
僕が持っていたのは、大抵の天使が持っている弓(あれ?弓を持ってるのはキューピッドだけだったかな?)ではなく、子供と戦った時に真っ二つに折れたはずの天華乱爪だった。
天華乱爪の刃は折れていなくて、鋭く光っている。はっきり言って、折れる前よりも、綺麗になってる。
《やっと覚醒を果たしたか、犬神よ。覚醒しないと、我がいくら魔界の国宝と言われていても、役にたたないのだ。やっと役に立てるぞ》
「は?かくせい?」
僕は訳がわからず、思い切り肩を揺さぶり過ぎて、目を回している魔光霊命様の方を振り返った。
「あの、すみませんでした。魔光霊命様。よろしければ、覚醒の件をお話していただけないでしょうか?」
「ええ、いいですよ。妖怪は、元から三回まで覚醒することが出来るのです。しかし、覚醒と言っても、そう簡単に出来るものではないので、大体の妖怪はしないのですが・・・・。でも、あなたは犬神から、エンジェルに覚醒したのです」
「一ついいですか?」
「なんですか?」
「エンジェルに覚醒してしまったら、もう、犬神の姿には戻れないんですか?同じように、人間の姿にも」
「いいえ、戻ることは出来ます。安心して下さい。それより、早く行ったほうがいいと思いますよ?では、私は他にもやらなくてはいけないことがあるので、これで失礼します」
魔光霊命様はそう言い残すと、あっと言う間に消えてしまった。まだ聞きたいことがあるのに・・・・。
《犬神よ、さっさと行くぞ》
「はいはい。わかってるよ・・・・って言っても、どこから出ればいいのさ?」
《さっそく我の出番だな。我を頭上に掲げて、天井を引き裂くように動かすのだ》
何だかよくわからないけど、とにかく天華乱爪を頭上に持ち上げて、天井を引き裂くように動かすと、上の方から冥道の道が見えた。
「よっし。今度は負けないぞ!と言うか、僕って死んでるの?それとも生きてるの?」
《見ての通り、生きておるだろう。魔光霊命様が、貴様を助けてくれたのだ。感謝しろ》
「ねぇ、あのさ、貴様って言い方やめてくれない?何だかバカにされてるようで嫌なんだけど」
《何を言う。貴様とは敬語だぞ。みな勘違いをして使っているようだが、漢字を見ると、貴族の貴に、王様の様ではないか》
「そうなんだ。初めて知ったよ」
驚きながらも、引き裂いた穴に手をかけて、自分の体を持ち上げる。そして、冥道の道に手をかけてよじ登る。
何か、不思議なことに、随分深く落ちた気がしていたのに、そんなに深いところにはいなかったようだ。それに、今は落ちたところが固まっていると言うか、乗ることが出来る。何だか不思議だよ、冥道って。
「貴様!なぜここにいる!!?」
明らかに驚いた様子の子供に、僕はおかしくなって笑ってしまった。その顔は、本当に子供と言う色で染まっていた。今までは、子供だけど子供じゃないと言うような顔をしていたのに、今は子供としか思えない。
「死の世界から、また冥道に戻って来ちゃった。っと、時間がないんだった。続きをしようよ」
僕の言葉に、やっと自分の立場を思い出したように、子供は構える。でも、戸惑いが隠せない様子でいる。
《犬神よ、我の力を示す時が来た。我を使って空を切るのだ!》
「何それ?どう言う意味?」
《とにかくやってみるのが一番なのだ》
「わかったよ」
取りあえず、普通に何もないところを切る。すると、何か白いものが無数に子供の方に飛んで行った。僕はしばらくの間、目をぱちくりさせていたけど、この天華乱爪の凄いところはこれだけじゃないらしい。
《今のは真っ直ぐしか飛ばないが、斜めに切れば、ブーメランのように回ったりもするぞ。まぁ、戻っては来ないがな》
言われた通りに斜めに切ると、さっきの白いものが斜めに飛んで行った。あの白いものはなんだろうか?
「あの白いのは何?」
《剣圧だ。刀の圧力が強くて目に見えるようになることがある現象だ。我は軽いが、剣圧を強くすることは出来る。ちなみに、剣圧は当ったら大変だからな。気をつけるのだぞ》
「おい、俺を無視するな!」
「してないけどさ、使い方がイマイチよくわからなくてさ」
「それは、凄い剣なのか?」
「そうじゃないかな?本人がそう言ってるんだし」
「そうか。なら、どちらが強いか一本勝負と行こうじゃないか」
「へ?」
「そんなマヌケな声を出しても無駄だ。行くぞ!」
その子は、勝手に話を進めると、刀に意識を集中しだした。その刀がドンドンどす黒い色になって行くのがわかる。僕も何かしないと・・・・。
《あの子を救うんじゃなかったのか?それとも、腕ずくで止めるのか?》
「そんなこと言ったって・・・・。あの子、とんでもないことしそうだし・・・・・」
明らかにまずい状況に陥っているのは誰でもわかるはずだ。この状況でそんなことを言われても・・・・。
「僕だってあの子を救いたいけどさ。どうやったら・・・・」
《取りあえず、この冥道から引き離してやれ。天国にも地獄にもいけない。その狭間と言うものは、一番寂しいものだ》
僕は、そう言われて、どのように動けとも教えてもらってないのに、自然と体が動いた。
何だか、心が安らかになって行く。
ふと下を見上げると、僕の足は地面から遠く離れた空中にいた。いつもなら驚くところだろうけど、なぜか驚かない。
子供は、僕に向かって刀を振った。すると、こっちにどす黒い剣圧が飛んで来た。僕はと言うと、動かない。と言うか、動けない。体をどう動かそうとしても無理だった。
後少しでやられるって時に、急にその剣圧をすり抜けて、子供の前に立った。これにはびっくり。自分でもびっくりしたけど、表情は驚きもせずに、次の段階に入っている。
「私が、これから、裁判の間に貴様を送る。後は、自分で道を決めろ」
「待て!」
「救う話なら無理だ。自分のことは、自分でしか救うことが出来ない。ああは言ったが、人に救ってもらうようじゃ、貴様もまだまだ子供だ。自分のことは、自分で救え」
子供の言葉を切り捨てるように遮ると、子供の頭上に自分の手を掲げた。僕は、本当はそんな切り捨てるような言葉は言いたくなかった。でも、何だか言ってしまったんだ。
人生は一つの物語。その展開を変えていけるのは自分だけ。だから、自分で救えって言ったのかな?でも、もう少しマシな言い方があると思うんだけどな。
そんなことを思っていると、その子が、段々と光の中に消えて行くのに気がついた。本当に、裁判の間とやらにこの子を連れて行けるのか不安だった。でも、僕は止めない。
「おい、お前はそれで幸せなのか?」
急にそう聞かれた。僕はうなずく。その子は少し穏やかな顔になったと思ったら、消えてしまった。
「あのさ、最後の方、自分の意思じゃなかったけど、あれでよかったのかな?」
《ああ、あの子供も満足そうな顔だっただろう。さぁ、次はとうとう冥道霊閃との対面だ。気合を入れていけよ》
「わかってるって」
天華乱爪に言われて、僕は、最後に、子供の消えた方を見て微笑してから最後の門をくぐった。