足をくじいた姫と、何だかおかしな王子様
「あっ、あのさ、伊織君は、シンデレラって嫌い?」
「なんだよ、急に」
「すっ、好きかな~って思って・・・・」
「お前は好きなのか?」
「うっ、うん・・・・一度でもいいから、シンデレラになってみたいなって思ったことはあったよ」
「その夢は叶ったのか?」
「ううん。あっ、でも、気にしないで。昔のことだからさ」
「そうか・・・・」
伊織君はそこで黙ってしまって、私はどうしようと思う。確かに、男の子相手にシンデレラの話はないかなって思ったけど、とっさに、シンデレラの話が出て来てしまったんだ。
それに、シンデレラに憧れてるってことは、今でも変わらない。子供っぽいって思われるから、誰にも言ってないけど、シンデレラみたいになりたいなって思ったことは、少なくない。今でも、たまに思ってしまう。
「あっ、あのさ、さっき話してたダンスが苦手な人って・・・・」
「似てる」
「え?」
「あいつに、お前は似てる。まぁ、落ち着きがないのは似てないけどな」
「え・・・・」
私は、どう反応したらいいのかわからずに、それだけ言って、うつむいてしまう。確かに、伊織君みたいな人から見れば、私は落ち着いてない人かもしれない・・・・。
「あっ、あのさ、伊織君は、落ち着きのない女の子って、嫌い?」
私は、最初の間は恥ずかしくてずっと下を向いていたけど、伊織君が一向に話し出そうとしない為、おずおずと顔を上にあげた。その途端、伊織君と目が合って、私は慌てて下を向く。しかし、それがいけなかったみたいで、慣れないヒールを履いていた足を捻って、私はバランスを崩した。
そして、その時、伊織君と手を繋いでるような状態だから、伊織君も巻き添えになって・・・・。
「あっ、あの・・・・ごめんね!大丈夫?」
「まあ・・・・何とかな」
伊織君はため息混じりにそう言うと、立ち上がった。その表情は怒ってる様子がないけど、伊織君は結構なポーカーフェイスだと思うから、もしかしたら怒ってるかもしれない。
「ほっ、本当にごめんね・・・・」
「別にいい。それより、お前の方は大丈夫なのか?」
「うっ、うん・・・・。ちょっと、足をくじいちゃっただけだから・・・・」
「仕方ない。ダンスはここまでだ」
そう言う伊織君の表情が何だか少し悲しそうに見えて、もしかしたら、もう少し踊りたかったのかなと思って、私は慌てて首を振った。
「大丈夫だよ!だから、もう少しだけ踊ろうよ?」
「・・・・無理はダメだ。俺のせいで怪我をさせたのに、これ以上無理はさせられない」
「大丈夫!本当に大丈夫だから!私、もう少し伊織君と踊りたいんだ。・・・・足を踏まれまくって、これ以上踊りたくないって言うなら諦めるけど・・・・」
これが本心だった。こんな機会、この先ないかもしれない。だから、今、この瞬間を、少しでも長く過ごしたかった。だから・・・・。
「・・・・足を踏まれるぐらいは大した問題じゃない。ただ、無理して踊って、もし酷くなったらどうするつもりだ?」
「・・・・」
「俺は、お前に痛い思いをさせたくない。だから、今日はもう踊るのはやめよう。踊りたいって言ってくれて嬉しかったけど」
「・・・・嬉しかったの?」
まさかの発言に、私は思わず聞き返す。そんなことを言ってもらえるとは思わなかったのだ。
「・・・・知らん」
「え?」
「知らない!俺は何も言ってないからな」
「え??」
「・・・・とりあえず、もう帰ろう」
伊織君はそう言うと、さっさと歩いて行ってしまう為、私はそれを慌てて追いかけようとするけれど、足をくじいていたことを忘れて走ってしまい、派手に転んだ。その拍子にヒールが脱げて、伊織君の方に飛んで行ったかと思ったら、ぶつかった。
それを見た時、どうしようかと思った。だって、伊織君は後ろを向いてるから、表情が読めなかったんだ。だから、伊織君がどんな表情をしているのかが、とても気になったのだ。
そんな私の思いが伝わったかのように、私の靴を持ったまま、伊織君が振り返る。その表情は怒っている様子がなくて、私は物凄くホッとした。
「大丈夫か?」
「うっ、うん・・・・伊織君の方は?」
「俺は大丈夫だ。・・・・どうして転んだんだよ?」
「伊織君が先に行っちゃうから、置いて行かれると思って・・・・」
私がうつむきながらそう言うと、伊織君は無言で私に近寄って来たかと思ったら、私の前にヒールを置いて立ち上がると、私の手を取って立ち上がらせる。
「姫、どうぞ私に摑まって下さい」
「えっ、え??」
「私に捕まれば、バランスを崩すことはないでしょう」
私は、そう返して来る伊織君に、「そう言う意味じゃなくて!」と内心ツッコミを入れた。私が問い返したのは、どうして急にそんな口調で言ったのかってことなのに・・・・。
そうは思うけれど、私は、つい、伊織君の言葉に甘える。だって、ヒールが脱げた方の足は、くじいていない方の足だったんだもん。
「あっ、ありがとうございます、王子様」
私がそう言うと、伊織君は少し意外そうな表情をしたけれど、小さくうなずいた。
「それでは参りましょう、姫」
「はっ、はい」
私は何とかそう言うと、伊織君の腕に摑まって歩き出す。さっき転んだせいで、余計酷くなってしまって、本当は歩くのも辛かったんだ。だけど、これ以上伊織君には心配をかけられないから、何とか歩く。
「残念ながら、私は馬を持っておりません。しかし、姫の為なら、我が身を馬に変えることすら惜しくない」
「そっ、そんな・・・・あっ、あの・・・・私は・・・・」
自然と、私も、台本に書かれたお姫様のような言葉遣いになってしまう。それにしても、どうして伊織君は、急にこんなことを言い出したんだろう・・・・。
「どうぞ、私にお乗り下さい。白馬を乗っていない私にはこれぐらいのことしか出来ませんので」
伊織君はそう言いながら膝をつく為、私はどうしようかとオロオロしていたけれど、素直にその好意に甘えることにする。
「・・・・と言うことで、こんな感じでどうだ?」
「え??」
「シンデレラ気分は味わえたのか?」
伊織君に聞かれて、私は慌ててうなずいた。そして、凄く驚く。もしかして、私がシンデレラに憧れてることがわかってあんなことを・・・・?
「もしかして、私の気持ちがわかったの?」
「・・・・自分で、シンデレラになってみたいって言ってただろ?」
「うっ、うん・・・・」
「だからだ」
「どっ、どうして?」
「・・・・詫びだ。怪我をさせてしまったことの」
「そっ、そうだったんだ・・・・」
「とりあえず、もう帰ろう。いい加減、帰らないと両親が心配するだろうからな」
「もっ、もう寝ちゃってると思うけど・・・・」
「・・・・シンデレラの魔法が解けたら嫌だからな。俺は、魔法が解ける前に、お前を家に連れて行く」
伊織君の言葉に、私は少しだけ微笑んだけれど、直ぐに首を振って笑みを消す。伊織君に見られたら、怒られちゃうかもしれないからだ。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「ああ」
伊織君はそううなずくと、私を背負ったままダンスホールを出て、そのまま廊下を歩き出した。