シンデレラになりたい、ダンスのド下手な女の子
「あのさ、さっきの話しなんだけど・・・・」
「・・・・嘘だよ」
「え?何が?」
「だから、さっきの、魔界のシンデレラのことだ。魔界には、シンデレラと言う話自体ない」
「そっ、そうなの?」
「ああ」
「でも、なんで嘘ついたの?」
「・・・・いいだろ、別に」
伊織君はそう言うとそっぽを向いてしまった為、私は、必死に足元を見る。何とか足を踏まないように努力する。・・・・って言うか、伊織君、ダンスが踊れないって言ってたのに・・・・凄くスムーズに動いてる・・・・。
「ダンス、踊れないんじゃなかったの?」
「嘘だ」
「え?」
「踊れる。でも、あそこじゃ踊りたくなかったから、踊れないって嘘をついた」
「そっ、そうだったんだ・・・・」
私は、何だか騙されてばっかりだなと思いながらも、こうやって伊織君と踊ってるんだし、これ以上幸せなことはないだろうなって思って、この幸せな瞬間を噛み締める。
それに、よく考えてみれば、私、今、伊織君と手繋いでるんだ・・・・。そう考えた途端、急に集中力がなくなり、私は、伊織君の足を踏んでしまった。
「ごっ、ごめんね!」
「・・・・よくあることだ」
「そっ、そうなんだ・・・・」
伊織君の言葉に、少しだけがっかりする。確かに、伊織君はこんなにかっこいいんだから、私以外にも、沢山の子と踊ってるんだろうなって思った。だけど、そうは思っても、やっぱり、がっかりしちゃうのは変わらない。
「まぁ、三人目だけどな」
「?」
「一緒に踊った奴のことだ。お前で三人目」
そう言われて、がっかりしていた気持ちが急上昇する。まさか、三人目に選ばれるなんて・・・・。っと、そう喜んでいると、またまた、伊織君の足を踏んでしまった。
「おい、そんなに踏むな」
「ごっ、ごめん・・・・」
「次に踏んだら、記録を更新するぞ」
「え?」
「魔界のやつらは、みんなダンスが出来るんだ。でも、俺の幼馴染にダンスがド下手な奴がいてな、そいつが俺の足を踏みまくったんだ」
「・・・・どれぐらい?」
「・・・・二十七回」
伊織君の言葉に、私はさすがに絶句した。そんなに足を踏んでしまうなんて・・・・よっぽどダンスが下手な人なんだろうなって思う。
「・・・・もしかして、その幼馴染って、栞奈さんのこと?」
「栞奈のこと、知ってるのか?」
「あっ、うん。神羅さんから聞いて・・・・」
私が言うと、伊織君は少しだけ顔をしかめて舌打ちしたけど、直ぐに真顔に戻った。
「栞奈のことじゃない。あいつもそんなに上手じゃないが、あいつに比べれば可愛いもんだ」
「そうなんだ・・・・でっ、でも、私、二十七回も踏まないよ!」
私はそう言った直後、再び伊織君の足を踏んでしまった。私は、どうしようとオロオロするけれど、伊織君はため息をついただけで怒ってないみたいなので、かなりホッとする。
「言ってるそばから踏んでるぞ」
「う・・・・」
「普通はそんなもんだ」
「許してくれる?」
「ダンスがド下手ってことはなんとなく想像がついてて、それでいて約束をしたんだからな。それなりの覚悟は出来てる」
「でっ、出来るだけ足は踏まないようにするからさ」
私はそれだけ言うと、下を向いて足元を見る。伊織君の足を踏まないように、踏まないように・・・・。
「・・・・不器用な奴だな」
「・・・・そうなの?」
「知らん」
伊織君はそれだけ言うと、またまたそっぽを向いてしまった。私は、機嫌を損ねちゃったかなと思いながら、何とか足を踏まないように気をつける。
・・・・しばらくの沈黙が流れる。と言っても、音楽は流れてるから、完全に、音がない状態じゃないんだけど、私達の会話は途絶える。
「・・・・なんだか、変な気分だ」
「大丈夫?」
「ああ。体調が悪い訳じゃない。ただ、変な気分なんだ」
「・・・・」
私は、自分といるから変な気分になっちゃったのかなと思って、どうにかしてこの場の空気を明るくしようとする。
「あっ、あのさ、伊織君は、シンデレラって嫌い?」
「なんだよ、急に」
「すっ、好きかな~って思って・・・・」
「お前は好きなのか?」
「うっ、うん・・・・一度でもいいから、シンデレラになってみたいなって思ったことはあったよ」
「その夢はかなったのか?」
「ううん。あっ、でも、気にしないで。昔のことだからさ」
「そうか・・・・」
伊織君はそこで黙ってしまって、私はどうしようと思う。確かに、男の子相手にシンデレラの話はないかなって思ったけど、とっさに、シンデレラの話が出て来てしまったんだ。