心の扉が開いた時・・・・・
「・・・・あれ?」
「あっ、起きた?」
そう声をかけられ、声のした方向を向くと、眠そうな顔をした栞奈ちゃんが上から覗き込んでいた。
「僕、どれぐらい寝てたの?」
「五分ぐらいだよ」
「そっか・・・・。栞奈ちゃん、眠いでしょ?」
「うん・・・・でも、大丈夫だよ。私のせいで状態を悪くさせちゃったんだし。私が見てるから、凛は寝ててもいいよ」
栞奈ちゃんはそう言ってくれるけど、見られてるって思うと、眠ってなんかいられない。だけど、それを言ったら栞奈ちゃんの好意を断っているみたいで、僕は、何も言えなかった。
「でも・・・・。栞奈ちゃんは大丈夫なの?」
「うん。あっ、そうだ。これ、お腹空いてたら、食べる?」
そう言って栞奈ちゃんが差し出して来たのは、あったかいおかゆで、僕は思い切り首を縦に振ろうとしたけど、頭がもうろうとしていて、凄くローペースで首を縦に振ることしか出来なかった。でも、一応、僕の気持ちは伝わったみたいで、栞奈ちゃんはうなずくと、僕が起き上がるのを手伝ってくれた。そして、なぜか、おかゆを食べさせてくれる。
「あっ、あの・・・・」
「ん?どうしたの?はい、口開けて」
「あっ、ああ、うん」
僕は、何だか恥ずかしくなりながらも、口を開ける。何だか、子供に戻ってしまったみたいだ。・・・・まぁ、小さい頃から、こんなことしてもらった覚えはないけど。
風邪で熱が出ようが何になろうが、こうやって、誰かに食べさせてもらったような記憶がない。いつも、一人で布団で寝てることしかなかった。だから、今年のクリスマス、こうやって風邪をひいても、みんなが心配してくれることがとても嬉しかった。これが、今年のプレゼントのようにすら思えるほどに。
「・・・・ありがとう」
「何が?」
「こんな風に心配されたこととか、今までなかったからさ」
「そうなの?」
「うん・・・・。風邪とかひいて、どんなに高い熱出しても、誰も看病なんかしてくれなくてさ、いっつも一人で布団被って泣いてることが多かったから。だから、こうやって、誰かにご飯食べさせてもらえることもなくって・・・・。だから、ありがとうって。僕のことを心配して、看病してくれてさ」
なぜか、目の前が霞んで見える。おかしいなと思って首を振ると、視界がクリアになった。と思ったら、頬を何かが伝った。そして、尚更おかしいなって思う。どうして僕、泣いてるんだろう・・・・。
僕が泣いてるのを見てか、今まで笑顔だった栞奈ちゃんの顔が曇る。それを見て、僕は慌てて笑顔を作った。
「ごめんね、そんな気持ちにさせちゃって・・・・。僕・・・・」
「謝らないで。ただ、何だか凄く悲しくなっちゃって・・・・。普通、看病してもらえることは当たり前のことなのに・・・・」
「悲しくならないで!僕は、今、こうやって栞奈ちゃんに看病してもらえるだけで最高な気分だから!」
熱であんまり力が入らないものの、精一杯声を張って言う。でも、いつもの十分の一の勢いも出なかった。
「・・・・優しいんだね、凛って」
「そっ、そうかな?」
「うん。そうだよ。でもね、あんまり無理しなくたっていいんだよ?」
「え?無理?無理なんかしてないよぉ~」
何だか核心を突かれそうで、僕は、わざとおちゃらけた感じで言ってみる。だけど、内心、凄くドキドキしていた。僕は、心の核心を突かれた時、一体どうなるんだろうって。今まで体験したことがなかったから、凄く怖かった。
「ほら、そうやって無理に元気に振舞って・・・・。どんなに自分が辛くても、相手のことを考えて、気丈なふりをしてるんでしょ?本当は凄く辛いのに。だけど、相手を嫌な気持ちにさせないように、無理に笑顔を作って・・・・。誰も見ていないところで泣いてるんでしょ?」
「・・・・」
栞奈ちゃんの言葉は、僕の予想よりも、とても簡単に僕の心の扉を開いた。想像では、もっと鋭く尖ったもののはずなのに、栞奈ちゃんの言葉は、すんなりと僕の心の中に入って来た。その途端、何かが崩れそうになった。でも何とかそれを高速で修復すると、涙を止める。
多分、今の崩れそうになったものは、今まで我慢してた涙のダムだろう。それが崩れちゃうと、栞奈ちゃんに心配をかける可能性があるから、僕は、何とか必死にそれを止めたのだ。
「心配してくれてありがとう。でも、僕は大丈夫だよ?」
「・・・・でも」
「いいの!僕はね、勝手に自分で自分の首を絞めてるんだからさ。むしろ、栞奈ちゃんがそんな顔をしてたら、僕、元気になれないよ・・・・」
少々強制手段に出てみる。こう言えば、大体の人は、無理にでも笑顔を作ろうとするからだ。僕は、人が笑顔でないと不安になってしまうところがあるんだ。だから、シリアスな場面とか、人が不機嫌そうな顔をしてたりすると、無理に笑わそうとしてしまうんだ。
「それじゃあ、笑うね」
「僕の役目はね、人を笑顔にすることなのさ!」
「・・・・どっ、どうしたの?急に」
「うーん、なんか、いつの間にかしゃべってたよ?」
「そっ、そうなの?」
「なっ、なんか、恥ずかしいなぁ・・・・」
熱が出てるせいかわからないけど、自分でも言っている言葉の意味がわからない。今、僕の役目は人を笑顔にすることって言ってたような・・・・。何だかちょっと、恥ずかしいなぁ・・・・。
「そんなことないよ。凄く素晴らしい役目だと思うよ?」
「あっ、あははは。うわ言だと思って聞いてくれればいいよ」
「凛がそれを望むなら、そうするね」
そう言って微笑む栞奈ちゃんが、光りの加減のせいか、女神様のように見える。凄く綺麗で優しくて・・・・本物の女神様みたいだ・・・・。
僕はそう思った途端、何だか体の力が抜けて来る。そして、そのまま目を瞑る。
「だっ、大丈夫!?」
「・・・・大丈夫。ちょっと、力が抜けちゃっただけだから」
「でっ、でも・・・・」
「大丈夫だよ、これぐらいで根をあげるほど柔じゃないからね」
何とか笑顔を作って栞奈ちゃんの方を見上げると、少々心配そうな顔をしていながらも、栞奈ちゃんは笑ってくれた。
それを見た途端、なんとも言えない安堵に包まれる。お母さんでも、こんな風に感じたことなかったのに・・・・なんでだろうなぁ・・・・。
そう疑問に思いながらも、安堵と同時に襲って来た凄い眠気に負けて、僕はそのまま眠りに落ちた。