追い込み漁のようです
「ん・・・・」
私は、何だか頭がボーッとしたまま目を明ける。すると、聖夜君の顔が近くにあって、びっくりして気絶するかと思った。
「起きたか」
聖夜君はそれだけ言うと、私を下ろしてくれる。と言うのも、私が目を覚ました時、多分、聖夜君にお姫様抱っこされてる状態だったんだと思う・・・・。
そう思うと物凄く恥ずかしくて、私は聖夜君から離れると、慌ててそっぽを向く。
「なっ、何やってんのよ!」
「何って、お前が気絶してたから、運んでやったんだ。本当は家まで送り届けてやろうと思ったが、気分が悪くなった。帰る」
後ろを向いててもわかるぐらい聖夜君の機嫌は悪くて、私はどうしようと思う。さっきは、お姉ちゃんみたいにツンツンした態度を取らずにいられたのに、今、この状況で、お姉ちゃんみたいになっちゃうなんて・・・・。
私がそんなことを思っている間も、聖夜君はスタスタと歩いて行ってしまう為、私は更に迷う。聖夜君は、きっと、私のことを嫌ってるはずだ。それなのに、わざわざ家まで送ってくれようとしてたのに、私があんな態度を取っちゃって・・・・。普通だったら怒っちゃうよね。
「あっ、あの・・・・待って!」
何とか呼び止める。すると、かなり・・・・いや、物凄く不機嫌そうに聖夜君が振り返る。でも、何だか、あまり怖くは感じない。前の時と、聖夜君の態度や顔つきは変わってないのに、あの時に比べて、今の方が怖いと感じなくなった。もしかしたら、あの時謝ってくれたからかもしれない。
「僕は忙しいんだ。これから、あいつらの為に準備をしなくちゃいけないからな。だから、お前のことを家まで送り届けてやることは出来ないぞ」
「・・・・うっ、うん。そっ、それでも、あの・・・・謝りたくて!」
「まぁ・・・・当たり前だろうな。で?」
何だか、問い詰められているような威圧感を感じるけれど、自分が悪いことをしたのは本当だから、謝らなくちゃいけないと思う。聖夜君がどんなに上から目線でも、私が悪いんだもん。
「あっ、あのね・・・・。あっ、あんなこと言ってごめんね」
「あんなこと?」
「聖夜君はさ、好意で私を運んでくれたのに、私は、あんな風に怒っちゃって・・・・。あんな態度を取ったら、誰でも怒っちゃうよね・・・・」
「まぁ・・・・今日で最後の別れだしな、別にいい」
聖夜君の言葉に、私は思わず上を向く。今まで、聖夜君の顔が見れなくて下を向いていたけど・・・・。その言葉が驚きで、顔を上げてしまったんだ。
「最後の別れって、どう言うこと?」
「明日からは、もう、ここにはいないってことだ」
「そっ、それって、この町を引っ越すってこと?」
「いや、海外へ行く」
その言葉が聞こえた途端、私はそれ以上何も言えなくなった。聖夜君はお金持ちの子だと聞いた。だから、明日直ぐ海外へ行く事も可能だろう。そうしたら、もう、二度と会えなくなっちゃうかもしれない・・・・。
そして、きっと、そんな風にさせたのは、私のせいだと思う。私が、聖夜君の機嫌を損ねちゃったから・・・・。
「海外に行くのは、お前のせいじゃない」
「え?」
「僕の正体がバレたからだ」
「正体?誰にバレたの??」
意味がわからなくて、首をかしげながら聞いてみると、聖夜君が無言で私を指差した。最初は、それの意味がはっきりとわからなかったけど、もしかして、私に聖夜君の正体がバレたから、海外へ行くってこと?
そう考えるけど、私は、とぼけていないで、聖夜君の正体って言うのがなんなのか全然わからない。普通の子じゃない風には思える。でも、それは、今日の体験で感じたことでもない。転校して来た時から、普通の子とは少し違うなって思ってたんだもん。
・・・・でも、だ。ここで、私が、バレてない。と言うか、とぼけていれば、聖夜君は海外に行かなくていいかもしれない。うん、そうだ!
「正体って何?私、何のことかさっぱりわからないんだけど・・・・」
「お前、演技下手だな」
聖夜君に言われて、私は思わず聖夜君から目を逸らす。本当に気づいてはいないんだけど、少しだけ、演技っぽさが出てしまったようだ。
「えっ、演技じゃないもん!本当だもん!」
「・・・・それじゃあ、お前は馬鹿なんだな」
「そっ、それ、どう言う意味?」
「そのままだ。あんな目に合わされても気づかない。もしくは、知らないふりをするなんて、賢い人間のすることじゃない。だから、お前は馬鹿だ」
どうして馬鹿って言われるのかわからない。いくら私だって、馬鹿って言われていい気はしない。でも、ここで怒っちゃったらダメだと何とか自分に言い聞かせて、更に言葉を続ける。
「馬鹿でもアホでもなんでもいい!私は、聖夜君に転校して欲しくないの!」
「なんで?」
そう聞かれて、思わず下を向く。どう答えたらいいのかわからない。素直に言うことなんて、絶対出来ないし、かと言って、嘘をついても聖夜君にはバレちゃうかもしれない・・・・。
「そっ、それは・・・・」
「あそこまで熱弁を振るうなら、それなりの理由があるんだろう?」
「・・・・えっ、えっと・・・・クラスメートが欠けて欲しくないから・・・・」
「それだけで止めてるのか?僕がこの町にいる以上、また、あいつらみたいな奴が襲ってくるかもしれない。そうした時、お前にも被害が出るかもしれないんだぞ?」
「それでもいい!私は、聖夜君に転校して欲しくないから・・・・」
「・・・・どうしてそこまで転校して欲しくないんだよ?僕には、お前の気持ちが全然わからないぞ。普通なら、あんな思い、二度と味わいたくないはずなのに、その元凶である僕をここに留めようとするなんて、よっぽどの何かがあるんじゃないのか?」
「えっ!?」
心を見透かされたように言われて、私は一気に動揺する。どっ、どうしよう・・・・。動揺して、変なこと言わないといいけど・・・。
「まあいい。僕は、この町を出る。でも、お前が、僕をここに留めておきたい理由を教えてくれたら、場合によっては考えよう」
「えっ!?そっ、そんな・・・・ずるい!」
「ずるくない。僕は、参考までに聞くんだ。そんなに恥ずかしいことでもないだろ?」
「でっ、でも・・・・」
「言わないなら、ここでさよならだ」
聖夜君はそう言うと、本当に後ろを向いて歩いて行こうとする為、私は、慌ててそれを呼び止めた。
「まっ、待って!」
「あそこまで熱弁を振るう訳を教えてくれるか?」
「・・・・うっ、うん」
「そうか。じゃあ、話してくれ」
「・・・・すっ、好きなの!聖夜君のことが!」
私はそう大きな声で言った後、恥ずかしくて、しばらくの間は前を向けなかった。