さすが・・・・と言ったところでしょうね
僕は、どうしても指輪だけは返して欲しいから、再び殴ろうとして来た一人の人のパンチを受け止めると、そのまま手を捻ってひっくり返す。
そんな僕の反撃に驚いたのか、残りの二人は少し驚いた顔をしたけれど、ボス的な存在の人は面白そうに笑ったかと思ったら、なんと!ナイフを取り出したんだ。
それにはさすがの僕も、危機感を感じずにはいられなかった。そして、慌てて危機感をなくそうとする。と言うのも、危機感を感じると、僕の体は、結構勝手に動いてしまうことがあるんだ。危機感を感じる時・・・・それは、妖怪と戦っている時と同じ状態だから、妖怪に攻撃するぐらいの力でこの人達のことを攻撃してしまう可能性があるんだ。
「返して下さい!」
「ダメだ。許してやろうと思ってたのによ、今の行動で、俺を怒らせちまった。お前が悪いんだぜ?」
「・・・・」
僕は、自然と体勢を低くしてしまう自分となんとか戦う。攻撃しないように。そして、相手のナイフで刺されないように。僕は、自分の中で、色んなものと戦っていた。自分自身の体と、心。刃物への恐怖心、そして、大切なものを奪われたと言う悲しみ。その全てが僕の中で渦巻いていて、目が回りそうになる。
「せいぜい、あの世で楽しく暮らすんだな」
そう言われた時、僕は、足から力が抜けるのを感じた。危機感と言う感情を何とか押さえつけたものの、今度は恐怖心が僕の体を支配したんだ。
自然と目を瞑ってしまう。敵の前で目を瞑ってはいけないと言うのは、先生にいつも教えられていたことなのに、僕の恐怖心が、勝手にそうさせるんだ。
僕が、どうしようと思った時、表通りの方で、カンッと言う何かを蹴る音が聞こえたかと思ったら、僕を押さえつけていた人の一人が倒れた。僕は、何がなんだかわからなくて下を向くと、僕の足元に転がっていたのは空き缶で、表通りの方から、誰かが歩いて来るのが見えた。
「ちっ、こうなったら、あいつもまとめてやっちまうぞ」
「はい、わかりました」
そう言って一人の人がその人に近づいて行き、殴ろうとするけど、その人は、俊敏な動きでそのパンチを避けたかと思ったら、パンチが外れて前のめりになったその人の背中を押して、地面に倒れさせる。
僕は、この人がどっちの味方なのかわからないけど、とりあえずは僕の味方と考えていいのかなって思っていた時、その人が口を開いた。
「またお前の仕業なのか」
「あ?俺が何をしようと俺の勝手だろうよ。つか、お前誰だよ?俺に歯向かおうとか思ってんのか?」
僕にナイフを突きつけている人の発言にも動じず、その人は歩いて来る。相手が刃物を持っているのに動じないなんて凄いなと思った。本当は、どんな人なのか顔を見てみたいけど、裏通りと言うことで明かりが少なくて、その人の顔が見えにくい。だけど、今の僕からしてみれば、相手は救世主だから、輝いて見えた。
「お前の勝手じゃない。人に迷惑をかけてるんだ」
「人の迷惑なんて、俺には関係ねぇよ。俺の質問に答えろよ、お前、どこの学校の奴だ?」
僕にナイフを突きつけていた人が聞いた時、丁度いいタイミングで近くの家の電気がついた。その途端、今まで態度の大きかった二人の顔が思い切り引きつる。
「高徳中一年、佐川恭介だ」
「げっ・・・・高徳の番長じゃねぇか」
「ああ。そうだ。そんなことはどうでもいい。その刃物をしまえ。白金高校、二年C組飯田剛」
「・・・・」
「どっ、どうしましょう、飯田さん。こいつ、あの高徳中の番長ですぜ?摑まったら、殺されるどころじゃ済まないんじゃないでしょうか?」
「うっ、うるせぇ。番長って言っても、所詮、中学一年生じゃねぇか。そんな奴、刃物さえ持ってれば・・・・」
そう言って、飯田と言う人が僕に刃物を向けた時、不意に、後ろから手が伸びたかと思ったら、その刃物を取った。
「刃物なんて物騒なものを持ち歩いちゃいけませんよ、先輩」
「こっ、こいつは!?高徳中の副番長じゃないですか!どっ、どうするんですか?飯田さん」
「おい、お前、俺よりも年下なんだから、俺の言うことを聞け!」
追い詰められた飯田と言う人は、なぜか、黒川君に向かってそう怒鳴った。けれど、黒川君は無言で首を振る。
「俺、命令されるの嫌いなんでね。それに、自分より弱い相手の言うことを聞く気にはなれないね」
「くそっ・・・・」
「おい、遊。とりあえず、こいつらを気絶させろ」
「はいはい。了解」
黒川君がそう言った途端、ヘッドホンを取る。すると、急に飯田と言う人と、その仲間が地面に崩れ落ちる。でも、目は開いてる状態の為、気絶はしてないのかもしれない。
「くそっ、なんだこれ!体がうごかねぇじゃねぇか!」
「恭介、これからどうする?」
「遊が警察に連れて行け」
「ああ、了解。俺が行った方が、警察官も驚かないだろうしね」
「ああ」
番長はそう言ったかと思ったら、飯田と言う人のポケットから、僕の大切な指輪を取って、渡してくれる。
「お前は偉い。自分が強い身でありながら、戦うことをしなかった。だが、多少の反撃ぐらいは許されるんじゃないか?」
「あっ、ありがとうございます・・・・」
僕がお礼を言うと、番長はうなずいて、そのままどこかに行ってしまった。ふと、気になって後ろを振り返ってみると、いつの間にか、飯田と言う人達と黒川君の姿がなくなっており、この裏通りには、僕一人だけとなっていた。
「あっ、そうだ!帰らなきゃ!」
僕は、あの人達に絡まれる前に、自分がしようと思っていたことを思い出して、家へ帰るべく、表通りへと歩き出した。