優しい現実
「栞奈ちゃん!」
「・・・・あっ」
僕は、フラフラする体にムチを打って何とか走る。すると、栞奈ちゃんも立ち上がって、走っては来ないものの、歩いて来てくれた。
「どうしたの?って言うか、今までどこに行ってたの?さっき、明日夏が捜してけど・・・・って、顔赤くない?」
「あっ、あの・・・・僕!」
「あっ、うん・・・・」
急に僕がまくし立てるから、栞奈ちゃんが慌てて口を閉じる。でも、僕は何て言えばいいのかわからなくて、ずっと口をパクパクさせていた。
「・・・・大丈夫?もしかして、熱あるんじゃない?」
そう言って栞奈ちゃんが手を伸ばして来るから、僕は慌ててそれを避けようとするけど、フラフラしてる状態で急に動くのは危険だ。と言うことは・・・・。
僕は、横に避けようとしたけど、足を捻ってしまって、最悪なことに、栞奈ちゃんの方に倒れてしまった。
「ちょっ、ちょっと、大丈夫!?」
「・・・・ごめん」
僕はなんとか謝ると、急いで立ち上がろうとするけど、何だか体に力が入らなくて、仕方ないから横に転がって、とりあえずは栞奈ちゃんから退く。全く・・・・最低なことしちゃったよ。かっこわるいし、何より、倒れる方向が最悪だ・・・・。
僕はそんなことを思うけれど、体が動かない。地面には雪が積もってたから、僕の体の熱を吸い取っていくようで気持ちよかった。
「凄い熱!一体どうしたの?何があったの?」
「・・・・ごめんね、僕のせいなんだ」
「え?何が??」
「僕のせいで、栞奈ちゃんはずっと待ってることになっちゃって・・・・」
「とりあえず、帰ろう?そんなところにいたら余計熱が上がっちゃうから!」
栞奈ちゃんに腕を引っ張られて、僕は何とか立ち上がるけれど、雪で濡れた服が冷たい。何だか、家にいる時よりも体調が悪い。やっぱり、竜君達の言うこと聞かなかったら、神様に怒られちゃったのかもしれない。
「・・・・ごめん」
「なんで凛が謝るのか、全然わかんないよ・・・・」
「・・・・栞奈ちゃんの前に現れたのって、僕なんだよ」
「え!?」
僕の発言に物凄く驚いたのか、栞奈ちゃんが凄く驚いた顔をする。そりゃそうだよね・・・・。僕と亜修羅って、身長とか声の高さとか全然違うし、普通、こんなこと言われたら、僕がうわ言を言ってるって思われるかもしれないよ・・・・。
「嘘じゃないよ。僕が、亜修羅の真似して助けたんだ・・・・」
「どうしてそんなことしたの?」
栞奈ちゃんに聞かれて、僕は思わず黙り込む。なんて説明したらいいのかよくわからない。でも、あの時は、どうしてもそうしなくちゃいけないと思ってた。・・・・でも、今考えたら、全く意味のない行動だったかも・・・・。でも、謝るって決めたんだし、ちゃんと言わないと。
「・・・・僕なんかが助けるよりも、亜修羅に助けて欲しいと思ったから。だから、あんなかっこしたんだ。・・・・だけど、その行動が裏目に出ちゃって・・・・ごめんね」
「そうだったんだ・・・・」
「うん・・・・。ほんとに、自分勝手なことしてごめん」
「そんなことないよ。私、亜修羅じゃなくたって、凛に助けてもらっても嬉しかったよ。それなのに、どうしてそんなこと思ったの?」
「・・・・栞奈ちゃん、亜修羅のこと好きだろうからさ」
僕がそう言うと、栞奈ちゃんの顔が真っ赤になって、慌てて下を向いてしまった。
「なっ、だっ、だって・・・・」
「だから。そんなことしちゃった・・・・」
「うっ、うん・・・・。ありがとう。私の気持ちを考えてくれたんだね。でも、私は、凛に助けてもらって嬉しかったよ」
「・・・・そっか」
栞奈ちゃんに言われて、何だか物凄くホッとした。何でだかわからないけど、急に力が抜けて来る。
「だっ、大丈夫?・・・・って、すっごい軽いんだね・・・・」
「あはは・・・・うん。よく言われる方だよ。でも、ちゃんと歩かないと重いよね。ごめんね」
「いいの!熱出してまで謝りに来てくれたんだから。今だけ女捨てるよ!」
「えっ!?」
「嘘だよ。でも、本当に嬉しかった。だから、私は、それぐらいの気持ちでいるから、全然大丈夫。気にしないで」
「・・・・うん」
栞奈ちゃんの言葉はとてもありがたいけど、女の子に運んでもらうって言うのがどれだけ恥ずかしいことかわかってないと思う。今は、熱+運んでもらってるって言うことで、顔が真っ赤だ。
でも、栞奈ちゃんが怒ってなくて本当によかったと思う。それに、嬉しいって言ってくれて、よかった・・・・。
僕は、栞奈ちゃんにあんまり負担をかけない用に、何とか足に力を入れるけど、あんまり意味がないかもしれない。・・・・これもやっぱり、迷惑だよねぇ・・・・。だったら、やっぱり、電話越しに伝えた方が・・・・。ダメだ!そんなんじゃ、誠意が足りない!でもさ、迷惑をかけるよりはマシなんじゃないかなぁ・・・・。わからなくなって来た・・・・。
「ブツブツ言って、どうしたの?」
「ううん。なんでもない・・・・。あっ、ここ!ここでいいからさ!」
「ここって・・・・人の家じゃないの?」
「えっと、知り合いの人の家だからさ、大丈夫だよ!」
「そっか・・・・それじゃあ、入ろうか」
栞奈ちゃんに言われてうなずくと、恭介君の家の扉を叩く。すると、ドタドタッと言う音が聞こえたかと思ったら、竜君と黒川君が顔を出した。
「おおっ、無事に帰って来たみたいだな!栞奈もご苦労様な」
「うっ、うん。熱があるのにわざわざ来てくれて・・・・。でも、そのせいで、余計熱が上がっちゃったかも」
「全く、だから言ったのに・・・・」
「ごっ、ごめん・・・・」
「とりあえず、なんでか知らないけど、濡れてる服着替えて、そんで、もう寝ろ!もう、外出は許さないからな!」
「・・・・はい」
僕は、もう、反論する必要もない為、素直にうなずくと、竜君に引きずられてリビングに入った。