仲直り
「あっ、あの・・・・葉月君、どうしたの?」
「・・・・はぁ」
「そっ、外が凄く大変なことになってるみたいだけど・・・・」
「・・・・ここまで来たら、わざわざ隠す必要もないだろうな」
「えっ、えーっと・・・・」
私は、意味がわからなくてボーッとしていたけれど、葉月君は立ち上がると、自分の着ていた上着を脱いで、私に投げて来た。
「それを着ておけば、とりあえずは安心だ」
「・・・・」
「とりあえず僕は、お前の姉ちゃんと友美を連れてくるから、ここで待ってろ」
「ちょっ、ちょっと待って!」
一人にされると思うととても心細くて、私は泣きそうになりながらそう言ったけど、葉月君は聞いてくれなくて、私はどうしようと思ってその場でうずくまる。
外で聞こえたのは、多分、銃の音だと思う。なんで私、こんな危ないところにいるんだろう?
それにそもそも、ここ、どこなんだろう?友美お姉ちゃんやお姉ちゃん、私のこと心配してるかもしれないのに・・・・。
そう思うと、お姉ちゃんに会いたくなって来て、思わず涙が出て来る。もしかしたら、このまま、殺されちゃうのかもしれない。そう思った。だから、涙が出て来たんだ。こんなことになるとは思わなかったから、あの時家に帰らなかった。もし、あの時家に帰っていたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに・・・・。
私がそう思って泣いていた時、葉月君がいなくなった方向から足音が聞こえて来て、私は顔を上げる。
そこには、お姉ちゃんと、友美お姉ちゃんを抱えてる葉月君の姿が見えて、思わず、出ていた涙が止まる。
だって、普通、どんなに力のある子でも、小学生で、女の人二人を持つのは無理だと思う。葉月君は、筋肉質でもなさそうだから、絶対そんなことが出来るはずないのに・・・・目の前で起こったことが信じられない。
「なっ、泣くなよ・・・・。確かに、怖いのはわかるけど、泣くな」
「あっ、あれ?そう言えば、お姉ちゃん達、どうしてここにいるの?」
「さっき言っただろ?二人を連れて来るって・・・・。お前は、堕天使に誘拐されたんだよ」
「・・・・そっ、そうなんだ」
私は、あまりの出来事が一気におき過ぎていて、何が何だかわからなくなって来ていた。さっきは、ちゃんと自分の心がわかってたから涙が出たけど、今は、自分の心や、何が正しいことなのかすらもわからなくて、涙すら出て来ない。
「・・・・とりあえず、ちょっと待ってろ」
聖夜君はそう言うと、頭につけている面白い機械をいじったりした後、誰かに向かって話しかけた。でも、話の内容からして、決して私に対して話しかけてるんじゃないなってことはわかった。
「いつものあれが始まった。場所は、ワンダーランド。パレードの最中の出来事の為、応援を頼みたい。・・・・え?そんなことする訳ないだろ?いる場所は・・・・」
葉月君はそう言ったかと思うと、私の近くにあるネジみたいな何かを手で回して、外を覗いた。それから、再び立ち上がって、会話を再開させる。
「帝国ビル二十階の三号室。それから、その向かい側のビル二十三階の一号室。そんな感じだろう。五分で来てくれ。僕の命しか狙っていないとは言え、他の人に流れ弾が当たったら大変なことになるからな。ああ、わかった」
聖夜君はそう言うと、私の方を向いた。その雰囲気が、何だかいつもの葉月君と違うみたいで、私は自然と唾を飲み込む。何だか、まるで、別人みたいだ・・・・。
私がそんなことを思っていると、突然、聖夜君が上を見上げたかと思ったら、何だかよくわからない不思議な道具を取り出して、天井についているネジか何かを外している。
「・・・・何やってるの?」
「天井を開けてるんだ」
「・・・・なっ、なんで?!」
「お前はとりあえず、その上着を体に巻きつけるようにしていてくれ。そうしたら、流れ弾が当たらないで済むだろう」
「さっ、さっき、誰と話してたの?それに、何だかよくわからないよ!」
「うるさい!お前になんか、絶対教えるか!」
急に怒鳴られてそう言われてしまったから、私は、シュンッとなって黙り込む。友美お姉ちゃんには、葉月君の言葉には慣れた。みたいなことを言ったけど、全然慣れてなんかいない。やっぱり、私のこと、凄く嫌いみたいだ、葉月君。
「・・・・今は黙っててくれ」
「・・・・」
私は黙ってうなずくと、気絶してしまっている二人の姿を見る。体は冷たくないから、死んでしまったってことはないだろうけど、こんなに大きな音がなってるところで目を覚まさないと、なんだか心配になってしまう。
「・・・・ごめん」
「・・・・え?」
「・・・・聞こえなかったんなら、聞かなかったお前が悪い」
「ごっ、ごめん・・・」
私は、どうしたらいいのかわからなくて、ため息をつく。確か、ごめんって言ってるように聞こえたけど、気のせいだったのかもしれない。葉月君、絶対に謝ったりしないから・・・・。
「そうじゃない」
「え?」
「そうじゃないんだ。あの・・・・。なんていうか、その・・・・悪かったなって」
「・・・・」
今度ははっきりと聞こえた。葉月君が謝ってくれたってこと。私はそれが驚きで、何の反応も出来なかったんだけど、それが不満だったのか、葉月君の不機嫌な声が聞こえる。
「なんだよ、僕が謝っちゃ悪いのか」
「・・・・そうじゃないけど」
「謝ってるのは、今日のことと、それから・・・・前の時のことだ」
「前の時?」
「・・・・思い出さないなら、それでいい」
葉月君に言われて、もしかして、あの時のことかな?って思った。私が、葉月君に気軽に話しかけられなくなったきっかけとなったこと。
「・・・・いいよ」
「言っておくけどな、これは、相当な勇気を要するんだぞ!」
「うっ、うん・・・・」
「とりあえず、それだけだ。一応謝っておいたが、悪いとは思ってないからな!」
そんな葉月君の声を聞いて、私は自然と笑っていた。何だか、いつもの葉月君と違うみたいだ。(いい意味でね)
「それでも、謝ってくれてありがとう・・・・」
「・・・・うむ。それだけだ」
葉月君がそう言った直後、最後のネジが取れたのか、天井が開いた。
「それじゃあ、僕は先に行くからな」
葉月君はそう言うと、思い切りジャンプしたかと思ったら、そのまま見えなくなってしまった。