冗談で済ませられる域を超えている気がしますが・・・・?
「よしっ、こんなもんでしょ?」
「・・・・お前、物騒なもの持ってるな?」
「物騒なものってほどのものじゃないだろ?」
「十分物騒だ」
俺達が言い合っているのは、水斗の使った即効性のある睡眠薬のことだ。しかもこれは、飲み薬じゃなくて、スプレーのようなものなのだが、それを、眠らせたい奴等のいる空間に一吹きすると、全員が眠りに落ちると言うものだ。
「仕方ない。それは、普通の睡眠薬じゃなくて、僕が、即効性と効き目を最大まで引き上げた代物だからな。危険と言われても仕方ないだろう。しかし、それと同じくらい、これは紳士的なものだぞ?」
「なんでだよ?」
「三畳間に、このスプレーを二回吹きかけたら、そこにいるやつらは永遠に眠り続ける」
聖夜に言われて、俺は素直にうなずきそうになったが、慌てて首を振る。それって・・・・!
「それって、死ぬってことじゃないか!?」
「そう。眠ったまま苦しみも伴わないで死ねるんだ。だから、紳士的なスプレーだと言ったんだ」
「・・・・」
俺は、そんなことを平気で言える聖夜が、普通の子供じゃないように思えた。しかし、じゃあ、どんな子供なのだと聞かれるとなんとも言えないが、この言葉を聞く限り、普通の小学四年生ではないのは確かだと思う。
「と言うのは冗談だ」
「冗談かよ!?」
「でも、もしかしたら、そうなる可能性もある。だから、このスプレーは、使い過ぎには十分に注意するように水斗に言ってある」
「そうなのか・・・・」
「まぁ、とりあえず、この話はいいだろう。で、これからどうするんだ?水斗」
「うん、作戦はこう。まずは、一番最初に聖夜君が玲菜を助け出す」
「僕が最初なのか!?」
「そうそう。どうやって助け出すかと言うと、パレードが始まる前から、あの車みたいなものに乗り込んで、どの車に誰が乗っているのかって言うのを確かめる。そして、確かめ終わったら、そのまま玲菜ちゃんを連れて外に出て来て欲しい。これは、出来ればパレードが始まる前に済ませて欲しいことだけど、最悪、パレードが始まってしまってからでも大丈夫。一番後ろから出てくれば、君の姿は見えないからね」
「・・・・そうなのか?」
「このパレードは園内を一周する。だから、見たい人も、一緒に歩かなきゃいけないんだ。だから、最初のうちは、後ろから出ても大丈夫。ただ、二人目・・・・修君辺りからは、後ろから出ることは不可能かもしれない。だけど、その為に作戦をとってある。それが、これだよ」
そう言って水斗が指差したのは、一個だけ余分にとっておいたきぐるみだった。ちなみに説明しておくと、俺と水斗は、パレードに出て来る人形のきぐるみを着ている。そして、神羅と聖夜は、あの黒スーツの状態だ。
「これがどうしたんだ?」
「修君は、彼女を助け出す時、これを持って車の中に入って欲しい。それで、出てくる時はどうするかって言うと、これを彼女に着せて、普通に出て来て欲しい。そうしたら、観客はそれもパレードの一部だと思って楽しむだろうからね」
「なるほどな・・・・お前はどうするんだ?」
「僕は、中に入った時点で着ぐるみを脱ぐ。そして、直ぐにエンジェルの格好をする。で、そのまま外に出ればいいよ」
「それでいいのかよ?」
「うんうん。まぁ、もし最悪は、着ぐるみ脱いじゃっても、パレードの一部になれるかもしれないし」
「は?」
「君達が着ているのは黒服。そして、石村さんが着ているのはドレスだ。最悪は、パレードの一部として考えられるでしょ!」
「本当の最悪だけだな、そんなの」
「まあまあ、とりあえず聖夜君、後五分程度でパレードが始まっちゃうけど、それ以内に玲菜を救出、かつ、それぞれどこに誰がいるのか確かめることは出来るかい?」
水斗が聞くと、聖夜はとても面白そうに笑うと、うなずいた。
「当たり前だ。そのぐらい、僕にとっては雑作のないことだ」
「うん、そう言ってくれると心強い。それじゃあ、よろしく頼んだよ」
水斗が言うと、聖夜は満足そうにうなずいて、走って行った。
「その間、俺達はどうするんだ?」
「とりあえず、中の人物が摩り替わったことに気づかれないようにするしかないね」
「俺は?」
「・・・・まぁ、観客に混ざって待っててよ」
「・・・・俺だけやっぱり仲間はずれだぜ・・・・」
神羅はそう言ってため息をつくと、観客達が待っている場所へと走って行った。
「それじゃあ、お互い頑張りましょうね」
そう言って手を差し出して来るリス(水斗)の手を振り払うと、俺は、外に向かって歩き出した。