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想造世界  作者: 玲音
第二章 三つの国宝
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魔界の国宝 冥道編 そのころの地上

「あの・・・・確か、文化祭の時に・・・・」

「文化祭ですか?」

「うん。あの時の子だよね?」


凛君が戻って来るまで、修さんのクラスメートの子を預かっておくと言うことになっているので、何とかここに止めてはいるけど、さっきから質問攻めで・・・・。


「あの時とは?」

「文化祭の時に、女の子と間違えられて、思い切り睨まれてた子でしょ?」

「はい。なぜか、みんな変な勘違いをしているようで。それより、そんなところを覗かないで下さい!」


いろんなところを開けたり閉めたりと忙しく動き回っているクラスメートの子に、僕は何とか止めようとする。


「・・・・だって、何だか落ち着かないんだもの。それより、伊織君はどうしたの?最近全然学校に来ないけど・・・・。そう思ったら、急に天変地異みたいなことが起こるし・・・・。ねぇ、あなたも妖怪なの?」


「なっ、何でそう思うんですか?と言うか、妖怪を知ってるんですか!?」


「うん。だって、伊織君って妖怪なんでしょ?だから・・・・。あっ、それとも、この現象と関係があるとか?」

「・・・・いえ、それはないです。修さんのジョークですよ。ああ見えて、結構そういうジョークを言う人ですから」


何とかクラスメートの子が思っていることを説明する。きっと、修さんが自ら言ったんだと思う。結構大雑把だし、それに、言ってはまずい秘密とかでも普通に言っちゃう人だし。


「あなた、名前は?私は、石村友美」

「桜木明日夏です」


やっと動き回るのをやめ、おとなしく座っている石村さんに、ほっとしながら答える。


「明日夏君ね。明日夏君、伊織君とはどう言う関係?」


そう聞かれた時、偶々テレビを付けたので、僕には「明日夏君、伊織君とはどう言う関係だと思う?」と聞こえたんだ。


「恋人・・・・ですか?」

「えっ!?」

「あの・・・・」


石村さんの驚きように、何かまた勘違いされているのだと思って、訂正しようと言葉をかけるけど、全然聞いてくれそうな雰囲気じゃない。真っ白になって燃え尽きたと言う感じだった。


「大丈夫ですか?」

「・・・・」


石化状態になったように、全く瞬きさえしない石村さんの肩を揺するけど、全然反応なし。


「あの・・・・勘違いしてるようですけど。さっきなんて言ったんですか?聞こえなかったんですけど。変な勘違いしないで下さいね」

「さっき言ったのは、『明日夏君、伊織君とはどう言う関係?』って聞いたの」


その言葉を聞いて、自分が何て恐ろしいことを言ったのかと、自分を責めた。石村さんがそんな態度を取るのも当たり前だ。


「僕らは、多分、友達だと思います。でも、修さん達がどう思っているかはわからないんですけど、僕はそう思っています」

「じゃあ、さっきの言葉は?」

「僕は『明日夏君、伊織君とはどう言う関係だと思う?』って聞こえたので・・・・」


すると、今度は石村さんの顔がボンッと真っ赤になってうつむくと、床に指で何回も丸を書く。


「そんなことないよ。だって、この前フられちゃったし。それで、訳を聞いた時にはぐらかされて、気がついた時には手が出ちゃってたの。理不尽に怒って、最低だと思って、ここに来たんだけど・・・・。伊織君の様子は大丈夫?」


「そうなんですか?そんなこと全然気がつかなかったので、多分大丈夫だと思いますけど」

「そっか、よかった」


知ってるけど、知らないふりをする。凛君にも口止めしておかないと。


その時、窓から何かが飛び込んで来た。とっさに石村さんの腕をつかんで、後ろに飛び退く。僕らがいたところは、大きな穴が出来ている。


「なっ、何!?」

「くっ・・・・」


急いでしまっておいた武器の銃を出すと、一気に放つ。白い電撃が窓を砕き、外にいる妖怪に直撃する。と、間髪入れずに、また何かが突っ込んで来る。このままだと、修さんが帰って来た時には家がバラバラに崩れてたら話にならない。


でも、外は風速四十メートル以上の風に、叩きつけて来る豪雨。他にも沢山の災害がある。人間よりも多少は強い僕だけど、石村さんは人間だから無理だろう。


そんなことを考えている時、隙を突かれて、思い切り弾き飛ばされた。それから、石村さんを連れて行く。


「待て!」


そう言っても、妖怪は待つはずがなく、連れて行かれる。僕は立ち上がって走ったけど、届かない。


その時、後ろから見覚えのある黒い雷撃が飛んで行った。それは妖怪に当たり、妖怪が怯んだ隙に、人影が石村さんを助ける。


「おい、猫。人間界にいる間に、腕が落ちちまったのか?」

「だから、その名前やめてって。海里」


石村さんを助け、部屋に入って来た顔馴染みに文句を言う。海里は、魔界の妖怪退治屋の養成学校にいる時に、クラスメートと言うか、親友になった子だ。


「でもな、お前、猫みたいなもんだから、つい言っちまう。んで、この子誰?」

「友達のクラスメート。ちょっとかくかくしかじかでさ」


海里の姿を上から下までジーッと観察する。黒い短髪に、同じ色の黒くて長いハチマキ。グレーの少し短めなベストに、こちらは長めのティーシャツ。黒いズボンに黒いブーツ。そして、腰に下げている銃まで黒だ。とにかく、黒だらけ。ベスト以外全て黒。ここまで黒だらけの人も珍しいだろう。


「何だよ、ジロジロ見んなよ」

「ごめん。でも海里、確か、魔界で妖怪退治してるんじゃなかったの?」

「ああ、ちっとこっちに用があってな。それより、どうなってんだ?ここまで人間界が壊れるなんて」


「うん。これも事情があるんだ。っと、それより・・・・外にいる奴らを倒しちゃわないと。海里も手伝ってくれるね?」

「ああ、当然だ。妖怪を倒すのが俺の務めだからな」


僕らは顔を見合わせると、銃を手に取り、外に飛び出した。外には、思った以上に沢山の妖怪がたむろしていた。


数は多いとは言え、そんなに強い奴は一匹もいなかった。みんな、僕と海里の銃撃を受けて、一撃で倒れ、ものの数分で全部の妖怪が片付いた。


その間、家の中にいた石村さんはと言うと、つけっぱなしのテレビに夢中になっていて、見ていないようだった。


「そう言えば、猫って銃が一つだけだよな?みんな二つもらってるのによ。何か訳とかあるのか?」

「さぁ?でも、何か重大な訳があるはずだよ」

「それにな、俺、いつも思うけどさ。猫の動きって、本当に猫だよな?」


「?」

「だから、猫みたいな動きをするんだ。まるで、本当の猫みたいにな」

「僕、人間だからね。そこら辺はわかってるよね?」


「ああ、わかってるさ」


本当はあまり信じてないんだろうなと思いながらも、取りあえず黙っておく。


「外に出て大丈夫だった?凄い風だったよね?」

「はい、何とか大丈夫でした。それより石村さん、怪我はありませんか?」

「うん。大丈夫」


僕と石村さんが話しているのを見て、隣にいた海里が耳打ちして来る。


「お前、敬語なのか?」

「そうだよ。大体は敬語で話してる」

「んじゃ、俺にも敬語使えよ」


「ダメ!何だか嫌だから」

「嫌って何だよ」

「わかんないけどさ、海里に敬語って嫌だから」


僕の答えにため息をつくと、その場に座った。その時に、自分達が濡れていることに気がつく。床は畳だから、確か水はまずかったんじゃないかな?


そう思っても、あまり意味がなかった。なぜなら、窓は壊してしまったので、凄い突風と豪雨が部屋の中に入り込んでいるからだ。


「それにしても、凄い風だね。よくこの家が吹き飛ばされないよね」

「そうですね」


そう言われてみて、不思議だなと思った。このアパートは、はっきり言って、とても古い。新築の家の屋根が吹き飛ばされている程に強い風を受けながらも、このアパートは、さっき僕が割った窓以外は負傷ゼロだ。


「そう言えば、あの子は?元気な子」

「ああ、宗介君ですね?あの子はちょっと出かけてて。でも、こんな天気だから帰ってこられないんだと思います」


そうだ。凛君はこの悪天候の中、無理をして行っちゃったんだ。ここから冥道の様子はわからないけど、でも、あまり期待はしてはいけない。冥道に入ってしまった生き物は、生きて帰って来ることは出来ない。だから、凛君はもう・・・・帰って来ない。


「そっか」


それきり沈黙が続いた。誰も話すことはしないけど、静かではない。今、すでに激しい風の音と、雨の音が聞こえる。でも、それは耳障りなもの以外の何でもなかった。


凛君は、今何をしているのだろうか?冥道の奥に向かって歩いているのか。それとも、もう息絶えてしまったのか。どちらかなんか、僕にはわからない。でも、生きていて欲しい。帰って来なかったら、人間界を救ったって意味がないんだよ。


僕は、必死に願うだけだった。凛君が奇跡的に冥道から帰って来れるように祈るのが精一杯だった。


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