何だかわかりづらい人ですね・・・・。
「やぁ、すまんすまん、遅くなった・・・・」
「遅い!」
一番最後に走って来た水斗を聖夜が蹴ると、ため息をつく。
「お前は、どうしてこうも行動が遅いんだ!全く・・・・」
「そんなこと言ったってよぉ、迷っちまったもんはしゃーねぇだろ?」
「開き直るな!」
「蹴るなって!」
「お前達、騒ぐなよ。この沢山の人の中に、堕天使がいるかもしれないだろ?」
俺の発言に、今までギャーギャーやりあっていた二人が静かになってこちらを向く。
「それ、どう言うことだよ?」
「この遊園地は、出入り口が一つだろ?だから、そこにいる奴に、十時から今までで外に出て行った奴はいるかって聞いたら、誰もいないって言ったんだ。しかし、もしかしたら、堕天使もお前みたいに空を飛べる道具を使っているかもしれないと言う結論にいたった。しかし、ここの遊園地は、高い所にアトラクションの名前が書いてあったりすることが多いから、これだけ人がいるなら、無意識に上を見上げた時に堕天使が飛んで行くところを見てしまうこともあるはずだ。そこで俺は考えた。見つかる危険は高いが、さっさとこの場を後にするか、それとも、しばらくの間遊園地内に身を潜めておいて、皆の視線がなくなった時にこの場を去るか。堕天使は馬鹿じゃないと俺は思う。だから、後者だと思ったんだ」
「ほぉ、なるほどなぁ~、でも、みんなの視線がなくなる時って・・・・そんな都合のいいことがあるのか?」
「ああ。もう直ぐパレードが始まるらしい。パレードとかが始まると、人の目は、自然とそこに向けられるはずだ。だから、その時にいなくなると俺は思うんだ」
「なるほどなぁ・・・・パレードか」
俺の言葉を何回も繰り返すかのように、水斗がそのフレーズを繰り返している。俺は、水斗が何か考えているのかもしれないと思い、とりあえずは聖夜に話しかける。
「お前も堕天使からヒントをもらったんだろ?見せてくれないか?」
「うん。ほら、これだ」
「彼女達は、時間以内に見つけられなかったら、勝手に救出されることになるだろう・・・・か」
「うん。これ単体だと意味がわからないだろう?だから、悩んでたんだ。そう言えば、あいつのヒントはなんなんだろうな・・・・」
聖夜はそう言うと、考え込んでいる水斗のポケットに勝手に手を突っ込むと、紙を持って来てしまった。普通なら、聖夜の行動に気づいて何らかの反応を示すはずだが、水斗は全く動く様子を見せなくて、一瞬だけ、寝ているのかと思ってしまったが、ちゃんと目は開いている為、そんなことはないようだ。
「あいつ、なんで動かないんだ?」
「きっと、真剣に考え込んでいるんだろうな。集中力は元から凄いから、僕が、ポケットから紙を抜き取るぐらいじゃ、集中力が途切れないんだろう」
「凄い集中力だな」
「まぁ、そう言うことだから、今はあいつに話しかけても無駄かもしれないぞ。だから、僕達は僕達で考えよう」
聖夜の言葉にうなずいて考え始めようとした時、ようやく集中力が切れたのか、水斗がこちらにやって来た。
「ちょっといいか?」
「なんだよ?」
「お前達がもらったヒントの書かれた紙、見せてくれないか?」
「ああ。これだ」
「なくすなよ」
「なくさねぇって!」
聖夜に釘を刺されて、水斗は反論したが、聖夜が完全に無視をする為、ため息をついて、再び俺達のもとから去って行った。
「でもまぁ・・・・なんで、僕があいつを助けなくちゃいけないんだろうか」
「その意見には同意する。どうして俺が、あの女を助けなくちゃいけないのか・・・・」
「なぁ、そんなにあいつらが嫌か?」
「いや、そう言う訳じゃないけど・・・・どうも、腑に落ちないんだ」
「確かに俺も、勝手に決められたりするのは好きじゃないけどよ、そこまでグチグチ文句は言わないぜ?」
「別に、文句は言ってない!僕はあいつが苦手なんだ。それなのに、どうして僕が・・・・」
「気まずいのか?」
神羅の言葉に、聖夜は目を丸くして驚く。その顔は、今までのすましたような雰囲気が一切なく、素の表情に見えた。こいつの素の表情は、やっぱり、子供なんだなって再認識した瞬間だった。
「なっ、なんで僕が気まずくならなくちゃいけないんだ・・・・。別に僕は、後ろめたいことなんかした覚えはないぞ!冷たい言葉であしらって傷つけたことを後悔なんかしてないぞ!」
「ふーん」
聖夜の言葉に神羅が不気味な笑みで答える。その表情を見て、聖夜は慌てて口を塞ぐと、神羅を蹴ろうとした。しかし、神羅はそれを避ける。
「後ろめたいんだな。冷たい言葉を発してしまって、玲菜を傷つけたことに後悔してるんだな」
「しっ、してない!僕は、ストレートに言っただけだ!気のない奴に気を持たせたままでいる方が可哀相だろう!」
そんな聖夜の言葉に、今度は神羅が俺の方を向く。俺は、どうして神羅がこちらを向くのかわからなくて、首をかしげた。
「なんで俺の方を向くんだよ?」
「はぁ・・・・鈍感ですね」
「は!?何が鈍感なんだ!俺の何が鈍感なんだ!」
「そうだぞ、今のは神羅が悪いぞ!どうしてお前はそうも訳のわからないことばかり言うんだ!修が可哀相だろうが!」
「なんで俺が責められるんだって!族長のことそのままじゃないかって思っただけですぜ、俺は」
「は?なんのことだ?」
俺はとぼけてなんかいないのに、神羅はとぼけていると思っているのか、ひたすら訳のわからないことを言い続ける。けれど、俺は本当にわからないのだから、なんとも言えない。
「まぁ、いいや。何事にも鈍感の方がいいでしょうし」
「お前、頭までおかしくなったのか?」
「・・・・なんで、俺がこんな風に言われなきゃいけないのか・・・・」
「とりあえずだ。僕は、後悔なんかしていない。謝ろうとも思ってないし、迷惑としか思ってない!」
「わかったよって、もういいや。なんか、疲れて来た・・・・」
神羅はそう言うと、意味のわからない俺達を残して、離れた場所まで歩いて行ってしまった。
「全く、なんなんだ、あいつは・・・・」
「・・・・聖夜、もし、悪いって気持ちがあるなら、素直に謝っといた方がいいぞ」
「お前まで言うのか!」
「俺だって同じだったからだ。悪いと思っても中々謝れなくて、先延ばしにしてた。でも、先延ばしにすればするほど謝れなくなるものだ。だから、早いうちに謝っておいた方がいい」
「・・・・」
俺の言葉に聖夜は黙り込み、とても長いため息をついた。俺もそうだった。謝るに謝れなくて、先延ばしにして、余計謝りづらいことになってしまったのだ。そしてそのまま、謝らないままで終わってしまった。その時はかなり後悔した。だから、聖夜はそうならないように言ったのだ。
「僕は、修の抱えているごめんなさいよりも、荷が軽いはずだぞ?」
「それでも、悪いと思ったら謝る。それが常識だろ?」
「・・・・うん」
「別に、今日謝れとは言わないが、出来るだけ早く謝った方がいいぞ」
「・・・・わかった」
聖夜が小さくうなずいた時、今までずっと考え込んでいた水斗がこちらを振り返り、聖夜に話しかける。
「あのよ、突然なんだけど、この遊園地のパレードについて調べてくれないか?」
「パレード?」
「ああ。どんな風になるのかとか、とにかく、出来るだけ教えてくれ」
「わっ、わかった」
水斗のあまりの勢いに、聖夜は呑まれがちになりながらも、パソコンでパレードのことを調べて、水斗に見せた。
「ほぉ、なるほどなぁ・・・・。よしっ、わかったぜ!」
「ほんとか!?」
「ああ、早速星の島へ行こうぜ!」
「何しに行くんだ?」
「パレードを見に行くんだよ!」
水斗の発言に、俺達は一瞬にして黙り込み、聖夜にいたっては、水斗のことを蹴ろうとしたが、何とかその衝動を抑えて、無理に笑顔を作って聞いた。
「もう一度聞く。何をしに、星の島へ行くんだ?」
「だから、パレードを見に行くんだって!」
「それだけなら、どうしてわざわざ僕にパレードのことを調べさせたんだ?」
「どこでやるかわからないだろ?ほら、早く行かないと始まっちゃうぜ、行こう!」
そう言って走り出そうとする水斗の背中を聖夜は思い切り蹴ると、ため息をついた。
「でもまぁ、せっかく来たんだし、見る価値はあるな」
「な?じゃ、見に行こうぜ!」
俺は、完全に遊園地を満喫している水斗の能天気ぶりに呆れるものの、仕方なく、その後について星の島へと向かった。