意外と得意じゃないですか
「はぁ・・・・」
ため息をつきながら、近くのベンチに座る。聖夜の言うとおりにスーツと革靴を履いたはいいが、みんながそんな格好をしているはずがなく、俺は、変質者のような目で見られていた。
確かに、そいつらの判断は正しいと思う。俺も、こんな格好で遊園地に来てる奴がいたら、変な目で見るからな。それにそもそも、聖夜はこれを着ていれば身の安全を図れると言うのだが、それ以前に、命を狙われるようなこともないだろうと思う。せいぜい、エンジェルの仲間と間違われて、警察か何かに追いかけ回されるぐらいだろう。あの時は、聖夜の言葉に乗せられてつい着てしまったが、今では、少しだけ後悔していた。
それにだ。もう一つ腹立たしい要素がある。それは、あの女のことだ。あいつ、自分からダンスを踊ろうと言ったくせに、俺が踊れないと否定してもしつこく言って来たくせに、約束のことを忘れていたのだ。その事が物凄く気になって、引っかかって、イラつく。
それにだ。あの堕天使って奴は、俺の感に触るようなことばかりしやがって・・・・本気で燃やしてやろうかと思った。しかし、そんなことを言ったら、神羅に抑えろと言われそうな為、口には出さないけれど、実行には移そうと思っている。
いや、その前に、まずは、あの忘れっぽい女のことを助けなくちゃいけないな。約束を忘れられたとは言え、助けないと言うのはあまりにも可哀相だからな。
そうは思うものの、どうして堕天使が、あいつを助けるのは俺だと決め付けたのかが問題だ。あいつは、もしかして、そこまで俺達のことを観察してるのか?それとも、単なる偶然なのか?まぁ、どっちでもいい。とりあえず、助けたら、約束のことをもう一度聞こう。それでいて忘れているようなら、俺はもう、どんなに話しかけられても口を利かないことに決めた。
いや、また話がずれた。今大事なのは、あいつがどこに連れて行かれたのかが問題だ。この遊園地は、なぜだかわからないが、物凄く人が多い。そして、堕天使は、エンジェルと同じぐらい知名度があるらしい。と言うことは、あの格好のままでこの中に潜んでいるのはおかしい。と言うことは、変装をしてるってことになるな。しかし、相手が男か女なのかもわからない以上、探しようもないし、見つけようもない。やっぱり俺は、こう言うことを考えるのは得意ではないのかもしれない。
「・・・・」
俺は、無言で立ち上がると、花の町から外へ出る門のところへ向かった。そこには、入場券を持っているかと確かめる奴がいるから、こいつに聞けば、何かわかるかもしれない。
「すみません」
「はい、なんでしょうか?」
「突然変なことを聞きますが、十時から今までの時間で、外に出て行った人物っていますか?」
「いえ・・・・もう直ぐパレードが始まるんですけど、みな様、それを目当てで来てるみたいなので、誰一人、この遊園地から出て行っていませんが・・・・」
女の言葉に、俺は確信する。もし、堕天使が、水斗のように空気を操る力を持っているか、空を飛べる道具を持っていなかったら、堕天使は、変装してこの遊園地内に潜んでいるはずだ。
・・・・いや、待てよ。もし、堕天使がこの入り口を通らないで出られる方法・・・・空中から逃げるとしてもだ。やはり、空中と言うのは目立つものだから、こんなに大勢の人がいる場合、その中の一人に飛んでいるところを見られるかもしれない。と言うことは、みなの目が逸れている時間に逃げるかもしれない。
その、逸れてる時間って言ったら・・・・パレードか。まだパレードは始まっていないから、堕天使はきっと、必ずこの遊園地の中にいるはずだ。しかし、一体どこに・・・・。
俺はそう考えたが、慌てて首を振り、再び、女に話しかける。
「そのパレードって、いつからいつまでやるんですか?」
「パレードは、午後十二時、午後六時、そして、午後十一時半の三回に分かれて行われます。パレードのやってる時間は・・・・多分、昼間の場合は二時間半を目安に、この園内を回るのですが、午後十一時半・・・・この場合は、二時間で園内を回ります。どこにいても、パレードの様子が見られるようにと言うのが、この遊園地のウリなんですよ」
「なるほど。ちなみに、パレードのスタート地点はどこですか?」
「パレードは、星の島から始まり、星の島の中を一周したら、水の楽園へ行きます。そして、最後に花の町を一周して終わります」
「この遊園地の閉園時間は?」
「パレードが終わったら、閉園時間になります」
「なるほど。ありがとうございます」
俺は、女に礼を言うと、一端、最初に俺達が別れた中央広場に戻った。そこで、もう一度、この遊園地内のアトラクションや施設の配置を確認しようとしたのだ。
俺が地図に目を凝らしている時、上の方から何かが落ちて来て、頭にぶつかる。不機嫌になりながらもそれを拾うと、小さく丸められた紙だった。それを見て、俺の機嫌は直ぐに直った。なぜなら、この紙は見覚えがある。堕天使からのものだとわかったからだ。
紙を止めてある紐を解くと、中に書いてある内容を読む。そこには、「中々いいところまで来ている君達へ。もう、ヒントはいらないだろう。そこまでわかっているなら、自然と気づくはずだ。もう一度仲間と話し合って、よく考えてみるといい」と書いてあった。
「・・・・何の為に紙を寄越したんだ」
俺は、ボソッと文句を言うと、その紙を丸めて捨てようかと思ったけれど、もう一度堕天使の言葉を読み返して、俺は、いい線まで行っていることに気づく。と言うことは、俺の推理は大体合っていると言うことか・・・・。
そう考えて、俺はふと、「仲間と話し合って、よく考えてみるといい」と言うのが、ヒントなんじゃないかと思った。なぜって言われると確証はないが、なぜか、ここの文章だけが優しいのだ。だから、何か意図があるかもしれないと思ったのだ。
俺はそう考えると、早速、みんなに話しかけることにする。
「聞こえるか?」
《ああ、聞こえるぞ。丁度いい時に話しかけて来たな。実は僕、話したいことがあるんだ》
「そうなのか?」
俺がそう言った直後に返って来た声は、聖夜ではなく、のんびりとした調子の水斗の声だった。
《聞こえるぜ。丁度俺も、みんなに話したいことがあって・・・・》
《待て、水斗。もしかしたら、みな、目的は同じかもしれない》
「そうなのか?」
《俺、堕天使からメッセージが来たから、みんなにも来たかなって思ってよ、どうだ?》
《確かに、僕のところにも来た。修はどうだ?》
「・・・・俺は、ヒントと言うかなんと言うか・・・・ただ、『仲間と話し合って、よく考えてみるといい』としか言われてないんだが、それがヒントかもしれないと思って、話しかけたんだ」
《ふむ・・・・それじゃあ一端、中央広場に集るか》
《そうだな、賛成!丁度俺もそう思ってたところだぜ!》
「俺は、一足先に中央広場に来てるから、園内の地図があるところに来てくれないか?」
《わかった。最初の場所だな?》
《なるほど、りょーかい》
水斗と聖夜の同意の声が聞こえた後、通信が切れた。俺は、ため息をつくと、近くにあったベンチに座り、みんなが来るのを待つことにした。