ある意味、普通が一番いいのかもしれません
「俺もさ、本当は普通の子に産まれたかったぜ。こんな風に、心が読めたり、頭がいいんじゃなくて、極普通の人間。そうなりたかった・・・・」
そう言う竜さんの表情が今まで見たこともないものだったので、僕はとても気になったけど、首を傾げるだけにしておいた。
「気になるか?」
「えっ、まぁ・・・・」
「なんかなぁ・・・・俺、人間じゃないみたいだなって思ってさ」
「そんなことないですよ!竜さんは、正真正銘、人間ですよ?」
「・・・・でもよ、俺の頭、コンピューター並なんだぜ?人間が計算出来るスピードなんかよりよっぽど速くて、記憶力もコンピューター並。まるで、ロボットみたいだ。こうやって意思があって自分で動けるからいいものの、意思もなかったら、俺、ただのコンピューターだろ?」
「・・・・」
僕は、竜さんの言葉に何も言えなかった。僕は、竜さんの頭がどれだけ凄いのかまだわからない。だから、否定することも出来ないし、かと言って、肯定するなんて、もってのほかだ。だから・・・・。
「城地に通ってる奴らにさえ、俺は化け物って言われた。あいつは天才なんかじゃない。人間じゃないロボットなんだからって。まぁ、嫉妬もあったのかもしれないな、今考えてみると。でも、その時の幼い俺は、そんな風には思えなくて、勉強をしたくなかった。でも、大人達は、俺に勉強をしろとうるさく言って来た。
将来偉い賞を取れるかもしれないとか、そんな下らないことを言って、まだ幼い俺を机に縛り付けてたんだ。本当は、外で遊んだりしたかったけど、一緒に遊ぶ友達もいないし、勉強をしてても一人。どっちでも一人なら、大人に媚を売っておいた方がいいかなって思ったんだ。
ほら、俺、心読めるだろ?だから、子供の頃から妙に悟っちまっててよ。子供のように生きてこなかったんだ」
竜さんの言葉に、僕は相槌を打つ。自分と、ちょっとだけ似たものを感じて、何だか親身になって聞いてしまう自分がいる。僕は、頭はよくないけど、小さい頃から妖怪退治養成学校に通っていたせいで、ろくに遊べもしなかったし、大人達に期待されてるから、それに答えようと必死に頑張ってて・・・・。
「明日夏も似たようなものなのか?」
「ちょっと違う気もしますけど、何となく似てる部分を感じます」
「そうか・・・・。お前も大変なんだな?」
「いえ、竜さんに比べれば全然。僕なんかまだまだですよ。竜さんの話を聞いてて、あんなことぐらいで落ち込んだり文句を言っていた自分が馬鹿らしいです。竜さんに比べれば凄く小さなものですよ」
「いいや、そんなことはない。お前は、その時苦しいと感じて辛いと思ったんだ。それが俺の感じたものよりも辛くないはずがない」
「えっ、えっと・・・・」
「んー、じゃあ、例えば、Aさんは自身の髪が天然パーマだと言うことを悩んでおり、Bさんは、多額の借金を抱えていることに悩んでいました。さて、どちらの悩みの方が辛いでしょうかと聞かれた時、お前はどう答える?」
「えーっと・・・・」
僕は必死で考える。Aさんの悩み事は、Bさんの悩み事に比べれば、大したことはない気がする。でも、本人にとっては、どちらも重大なことだから、どちらの方が辛いってこともないような・・・・。
「正解!」
「え?何がですか?」
「お前の心の声。それが正解だと俺は思う。まぁ、中には、違う!って言う人もいるだろうけど、まぁ、これはあくまでも、俺の考えだからさ、正解って言い方はおかしいか。いや・・・・待てよ。俺は、それを正解の答えとしてもっていたのだから・・・・」
「あの・・・・竜さん?」
「あっ、悪い。俺が言いたいのは、あくまでも、これは俺の意見だから、正解って言うのはおかしいなってことと、みんなが俺と同じ考え方をしてる訳じゃないから、中には、『明らかに、借金の方が大変だろう』って考えるような人もいるってことだ。うーん、まさに、十人十色。めんどくさいぜ!」
「・・・・はぁ」
「そう言えば、話が逸れちまったな。えっと、それじゃあ、もう一度言っとくぞ。これは、あくまでも、俺の考えだって!と言うことを前置きしつつ、話しをい元に戻すと、人が聞けば大したことじゃなくても、その人にとって重大なことに変わりはない。まぁ、例えが大胆過ぎたけど、要は、どちらもおなじくらい苦しいってことだ。その人にとってはな?」
「はい・・・・」
「それに、大体の人間はそうだけど、普通は心が読めない。だから、相手がどれだけ辛くて苦しいのかわからない。だから、自分の方がもっと辛いのに・・・・って思ってしまう。だって、自分の苦しみや悲しみはわかるからな。まぁ、これは仕方ないことなんだけどよ、出来れば、もう少し人のことを考えてほしいと思うことが多々ある」
「人のことを考える?」
「そう。自分の気持ちだけじゃなくて、人の気持ちを考えようとしてくれるだけでいい。心が読めない限り、どう思ってるのかって正解はわからないけど、考えるだけでも、色々と変わって来るはずだ」
「そっ、そうなんですか・・・・」
僕は、何とか相槌を打つと、小さくため息をつく。竜さんに、随分と痛い部分を突かれたんだもん。確かに僕も、人よりも、自分の方が辛いと考えてしまうことが多い。確かに、竜さんの言うとおりだ。
「まぁ、明日夏は大丈夫だ。十分相手の気持ちを考えてる」
「そうですか?」
「ああ。俺が言ったのは、何も考えないで言葉を発する奴に考えて欲しいって言っただけだ。お前は、十分相手の気持ちや人の気持ちになって考えられるからな」
「あっ、ありがとうございます!」
「大人になっても、その気持ちを忘れるなよ!俺は、忘れたくても忘れられないだろうから大丈夫だけど」
「はい」
僕がうなずくと、竜さんは満足そうにうなずいた後、ため息をついた。