何事も、長所と短所がある訳ですね
「大丈夫ですか!?」
「シーッ、そんなに大声出すなって!」
「あっ、すみません・・・・」
竜さんに注意されて、僕は慌てて口を閉じると静かにその場に座った。目の前では凛君が寝ていて、その近くに竜さんがいる状態だ。
「とりあえず、遊には帰ってもらった。あいつは大丈夫だって言うけど、両親が心配してたら大変だしな」
「そうですね」
「で、ここで相談があるんだけどよ、聞いてくれるか?」
「はい、出来る限りのことならお応えしようと思いますけど・・・・」
「実はな、こいつ、これから栞奈のところに行きたいって言うんだ」
「え!?なんでですか??」
「まぁ・・・・説明すると色々長くなるんだが、短くまとめると、宗介は悪気があってやった訳じゃないんだけどよ、それが悪い方に働いてしまったってことで。ほら、栞奈、まだ修のこと待ってんだろ?そうするきっかけとなったのが、宗介なんだ」
「えっ、えっと・・・・」
「栞奈が言っていた九時ぐらいに会った修って言うのは、修の格好を真似た宗介だったんだ。だから、修は来るはずがない。だけど、宗介の言葉で栞奈は噴水広場で修を待ってるんだ。だから、宗介は責任を感じて、全てを話そうとしてるんだ」
「そうだったんですか・・・・」
僕は、ため息まじりに答える。凛君のことだから、悪気がないってことは重々わかる。でも、それと同じくらい勘違いを招くのも得意そうだなと思ってしまったのだ。
「まぁ、でも、気持ちは行きたいと思うものの、体は言うこと聞かないからな、さっきまで、がんとして寝ないって言ってたんだけど、寝ちまってよ」
「凛君らしいですね」
「で、だ。ここで頼みごとなんだけど・・・・」
「はい、なんでしょう?」
「実は俺、宗介の気持ちの強さに負けて、この状態で栞奈に会いに行っていいって言っちまったんだよなぁ・・・・」
「・・・・え?」
僕から目を逸らしながら話す竜君の言葉を聞き返す。今、とんでもないことを言われた気がするけど、きっと、今のは聞き間違いだっただろうから受け流そう。竜さんが、そんなことをするはずがないよね、うん。
「いやいや、俺だからこそだぜ?」
「え!?」
「心が読めるって言うのは、よくも悪くも人の気持ちがわかっちゃうからよ、相手の思いの強さとかまでわかっちゃって・・・・。そうすると、断るに断れなくなっちゃったって言うか・・・・なぁ?」
「でっ、でも、熱が出てるのに外に行ったら危ないんじゃないですか?」
「そこでだ!お前がこっそり後をつけて行ってくれないか?」
「僕がですか?」
「ああ。俺、これからやらなくちゃいけないことあるからよ。でも、宗介のことが心配だからさ・・・・な?頼む!」
「そっ、そこまで懇願しなくても、僕は断りませんよ!僕だって凛君が心配ですし・・・・」
僕がオロオロしながら言うと、竜さんはホッとした表情になって、僕の肩をポンポンと叩いた。
「いやぁ、お前はほんとにいい奴だ。俺、尊敬するぜ」
「いい奴ですか?」
「ああ。だってよ、表面だけじゃなくて、心底そう思ってるからな。心読めると、人間不信になりがちなんだけどよ、お前のことなら心底信用してもよさそうだぜ」
「あっ、ありがとうございます・・・・」
僕は少しだけ嬉しくなって、心が弾んで来る。竜さんの話を聞いてると、心を読めるって言うのは、沢山いいこともあれば、それと同じくらい悪いことも多いんだなってわかった。やっぱり、心は読めないに限るかもしれない。
「そうだぞ、心が読めないからこそ、人との対話が楽しかったりする。心が読めちまったら、何話そうとしてるのかわかったり、本当は嫌がってるってことがわかったりするから、下手に気使っちまって、楽しんで人と会話なんか出来ないぜ?」
「そうですよね・・・・」
「俺もさ、本当は普通の子に産まれたかったぜ。こんな風に、心が読めたり、頭がいいんじゃなくて、極普通の人間。そうなりたかった・・・・」
そう言う竜さんの表情が今まで見たこともないものだったので、僕はとても気になったけど、首を傾げるだけにしておいた。