遊園地好きと遊園地嫌いの仲がいいと大変なことになります
「ここがワンダーランドだ」
「凄く広いな・・・・クリスマスだって言うのに大賑わいだし」
「うん、多分、出来たばっかりだと言うのと、クリスマスサービスが、こんなに人を呼んでいる理由なんだろうね」
「クリスマスサービス?」
「僕もよくは知らないけど、いいサービスなんじゃない?さっ、下りようか」
水斗はそう言うと、怪盗の姿から私服に戻ると、俺達の周りの無重力を解く。すると、俺達の体は地面に向かって落ちていくけれど、落ちる直前で水斗が再び力を使い、地面にぶつからずに着地する。
「地上を歩くよりも、こっちの方がよっぽど速いだろ?」
「まぁ・・・・そうだな。その言葉には同意だ」
「全く・・・・どうして、僕があいつを助けてやらなくちゃいけないんだ。本当に、理解に苦しむぞ」
「そんなに文句言うなよ、聖夜。あいつが言ってたんだからよ、仕方ないってことじゃないか?」
「うるさい!僕は嫌なんだよ!」
聖夜はそう怒鳴ると、水斗のことを思い切り蹴る。こればっかりは、とばっちりを受けているとしか考えられないので、少々可哀相だとは思うが、助けてはやらない。
「ちょっ、助けろ~!」
「嫌だ」
「なんでだよ!」
「お前は馬鹿だからだ」
「ひっで~よ、それ、なんなんだ!」
「水斗は天才。瑞人は馬鹿だって聖夜が言ってたからな」
「お前、俺のこと馬鹿って言ったのか!?」
「まあな。事実だろ」
「ったく、もう嫌だ!なんで俺の周りには、俺のことを馬鹿にするような奴しかいないんだ・・・・」
水斗が小さい声で呟くと、可哀相だと思ったのか、聖夜が蹴るのをやめる。
「さて、茶番はこの辺りにしておいて、さっそくあいつらを探すぞ」
「ちょっ、茶番て・・・・」
「水の楽園は、ここから左側に行くとある場所。星の島は、このまま真っ直ぐ行った場所にあるところだ。花の町は右側だな。しかし、それはわかったものの、どこに誰がいるのかわからない以上、助けようがないんだが・・・・」
「俺は、水の楽園が花恋で、星の島が玲菜。花の町が石村さんだと思うぞ?」
「なんでわかるんだよ?」
「勘」
水斗の言葉に聖夜はため息をつき、。俺は呆れ、神羅はうなずいた。どうやら、水斗の理解者は神羅だけのようだ。
「勘でも、信じてみる価値はあるぜ?」
「だろ!?」
「ダメだ。時間がないんだから・・・・」
聖夜がそう言った時、上の方から紙切れが落ちて来た。聖夜がそれを拾うと、俺達に広げてみせる。そこには、「よくこの場所がわかったな。さすがだ。ここに彼女達がいることが解けたなら、彼女達がどこにいるのかと言うこともわかるだろう。残り五十分、検討を祈るぞ」と書いてあった。
「ま、あいつは答えを教えてくれるほど優しくはないよな」
「尚更殴りたくなって来たぞ・・・・」
「族長、抑えて、抑えて」
「しかし、ここから先はヒントと言うヒントはないに等しいんじゃないか?」
「ん?」
水斗は不思議そうに首をかしげると、急に歩き出した為、俺達も慌ててその後をついて行く。
「おい、どうしたんだよ?」
「ちょっと待ってくれよ」
「・・・・」
水斗の言葉にイラッとするが、水斗は熱心にワンダーランド内の地図を見ている。それがあまりにも長く続きそうな為、ここで少し、余談を挟むことにしよう。実は俺、遊園地と言うものが大の苦手なのだ。
と言うのも、まずは、ジェットコースター系の乗り物が苦手なのだ。所謂、絶叫系の奴だ。ああ言うのに乗ると、俺は意識が飛ぶ。それから、他の奴の悲鳴がうるさくて、耳が聞こえなくなる。だから、絶叫系のものは嫌いなのだ。
そうすると、残りは、観覧車やメリーゴーランドぐらいしかないのだが、そんなメルヘンチックなものに乗る気にもなれず、遊園地に行っても楽しむことが出来ないのだ。まぁ、観覧車はメルヘンチックと言う訳ではないのだが、小さい頃、一緒に遊園地に来ていた栞奈に、無理矢理、透明の観覧車に乗せられて、それが天辺で止まったことがトラウマで、今でも乗る気になれない。高所恐怖症ではないのだが、観覧車だけは乗れないのだ。
ちなみに言うと、コーヒーカップのような回る系のものも気分が凄く悪くなって、やっぱり意識が飛ぶのだ。それは、小さい頃からのことで、俺は、子供の頃から遊園地が大嫌いだった。なんであんなものがあるのかと恨むほどにな。
しかし、栞奈は遊園地が大好きなのだ。だから、よく、栞奈の遊園地につき合わされ、毎度毎度意識を飛ばし、死にそうな思いをして来たのだ。最初の頃にも言ったが、俺は、あいつに何度殺されそうになったことか。数え切れないほどだ。しかも、本人は無意識のことだから、俺は何も言えない。言っても気づいてもらえない。だから、殺されそうになるのだ。
ちなみに言うと、お化け屋敷と言うものは、一度も入ったことがない。なぜなら、栞奈が嫌がるからだ。あいつが俺のことを引っ張って行くので、あいつが嫌がる場所を、俺は行ったことがないのだ。
まぁ、どうせ、出て来るやつはみんな人間なんだろうけど、ちょっとだけ気になったりはする。しかし、それは誰にも言っていない。ガキくさいとか言って、笑われそうだからだ。
それから、迷路のようなものは、一度入ったことがあるのだが、栞奈がリタイアしたいと言った為、正直、全然楽しめなかった。だから一度、一人でチャレンジしてみたいと思うものの、そんなチャンスが中々ない為、今のところ、リベンジは出来ていない。
「族長、何考えてるんですか?」
「ん?なんでもないぞ」
「でも、なんだか凄い長々と語ってたじゃないですか、遊園地のこと。本当は、好きだったりするんじゃないですか?」
「しない!」
「ふーん」
神羅は何だか不思議そうに首をかしげると、水斗のところに歩いて行ってしまった。それを見て、俺は何とかため息をつくと、確かに長々と語りすぎたなと思った。
「そんなに遊園地が好きなのか?」
「そんなことはない。あいつが勝手に言っただけだ」
「なんだったら、今から僕が、貸切状態にしてやろうか?」
「いや、いい。俺は、遊園地が嫌いだって、ずっと語ってたんだ」
「・・・・おかしな奴だな」
「そう言うお前はどうなんだよ?子供だから、遊園地は好きか?」
「子供扱いするな!・・・・でも、遊園地は好きだぞ」
聖夜は、子供扱いするな!と言う部分はでかい声で言ったくせに、その後の言葉は、ほぼ聞こえないぐらい小さな声で言った。きっと、恥ずかしいと思っているのかもしれない。
「まぁ、そうだろうな」
「なっ、なんだ!遊園地が好きで悪いのか!」
「いや。特に意味はない。そんなに慌てるな」
「慌ててない!僕は子供じゃないけど、遊園地が好きなんだ!別にいいだろ!」
「ああ、わかったって」
「わかってない!」
聖夜がそう怒鳴った時、ようやく水斗が地図から目を離し、俺達の方を向いた。
「俺、最初、星の島と水の楽園、それから、花の町をアトラクションって言ったけどよ、あれ、違ったわ」
「は?」
「なんか、この遊園地内を区切る言葉みたいで、所謂、〇〇区と同じようなものみたいだった」
「って言うことはなんだ?星の島とかって言うのは、アトラクションじゃないから、その区画内全部探せってことか?」
「まぁ・・・・そうなるかもな」
水斗の言葉に、俺は体中から力が抜けるのを感じた。さっき、俺は、遊園地が嫌いと言った。あの説明を見て、俺がどれぐらい遊園地が嫌いなのかわかってもらえたと思う。それなのに、長い間、遊園地にいなくてはいけない羽目になるなんて・・・・。
考えただけで寒気がして来て、ため息が出る。そして、堕天使に会った時は、炎で燃やしてやろうと心底思った。
「大丈夫か?」
「・・・・ああ」
「嫌な気持ちもわかるけど、頑張って欲しい」
「わかってる」
「うん。ありがとう」
聖夜はそう言うと、神羅と水斗の腕を引っ張ってこちらに連れて来る。
「それじゃあ、とりあえず、僕と神羅は星の島へ行く。水斗は水の楽園。修は、花の道へ行ってくれ」
「なんで、俺が聖夜の後について行かなくちゃいけないんだよ?」
「お前はパソコン持ち係だ」
「奴隷かよ!?」
「まぁ、僕のパソコンを持たせてもらえるってことは、天皇に逆立ちをさせるほど凄いことだ。ありがたく思え」
「なんかその説明、全くと言っていいほど、凄さが伝わらないぜ・・・・」
「細かいことはいいっこなしだ。さぁ、探すぞ!」
「ちょっ、待てって。俺の勘のとおりでいいのか?」
「うん。僕もちょっと考えてみた。そしたらわかった。星の島は、僕の名前だって」
「は?お前、聖夜だろ?」
「うん。だけどあいつ、僕のことを『星夜』だと思っていた。多分、最初の脅迫状の名前が正しかったのは、僕の名前を見ながら書いたからだろう。まぁ、そう言うことだから、あの子供がいるのは星の島だ。で、水斗はそのままの水の楽園。修は、消去法で花の町になる」
「・・・・ほぉ。中々考えるな、聖夜」
「あいつ・・・・僕の名前を間違えやがって・・・・。今度僕を誘拐した時、特殊な警棒で殴りつけてやる」
「ちょっ、それはダメだって!」
慌てて止めようとする水斗をするりと避けると、聖夜は、自身のパソコンを神羅に渡し、ため息をついた。
「見つかり次第、僕に報告してくれ」
「ああ、了解」
「わかった」
「それじゃあ、一端別れよう」
聖夜の言葉にうなずくと、聖夜と神羅は星の島方面に行き、水斗は水の楽園方面へ。そして俺は、花の町方面へと歩き出した。