これこそまさに、運命・・・・?
「はぁ・・・・」
僕は、大きく息を吐き出すと、その場で立ち止まった。竜さんの言う通り、噴水広場のところを探し回っても凛君が見つからなくて、精神的にかなり辛い状態になって来た。
栞奈さんと話した直後は少しだけ元気があったけど、もう、その元気も尽きて来て、今ではもう、走ることすら出来なくなってしまった。
「どこにもいない・・・・」
そう呟いて、僕は、丁度近くにあったベンチに倒れこむように座ると、空を見上げた。後ろでは、噴水がバシャバシャと音を立てているのが聞こえるけど、それは無視だ。
今日は、星が綺麗な夜で、まさに、クリスマスって気がした。・・・・まぁ、いつもの空となんら変わりはなくて、ただ、僕の心がそう思ってるだけなんだけど・・・・。
「隣・・・・座ってもいいですか?」
「あっ、はい・・・・」
僕は、突然女の人に話しかけられて、かなり驚いたけれど、慌ててベンチの端っこに座る。こう言うのって何だか恥ずかしいから、自然と距離をとろうとしてるみたいだ。
「誰かと、待ち合わせでもしてるんですか?」
「・・・・どうなんだろう。正直、私もよくわからないの。なぜだか、気づいたらこの噴水のところに来ていて・・・・」
「そうなんですか・・・・」
僕は、そう相槌を打ちながらも、出来るだけ目を合わせないようにそっぽを向く。さっきは女の人と言ったけど、改めてみると、そんなに年上じゃないことがわかった。多分、同い年か、年上だとしても、一、二歳ぐらいだろう。
「・・・・何だか、気まずい?」
「え?」
「えっ、あの・・・・何だか、凄くソワソワしてるから、私がいるせいかなと思って・・・・」
「いえ、大丈夫です」
言葉ではそう言うものの、やっぱり、原因はこの人にある。でも、そんなことを面と向かって言える人でもない僕は、否定してしまったのだ。
「何だか馴れ馴れしくてごめんね。なぜだかわからないけど、あなた、懐かしいようなそんな感覚がするから、自然と馴れ馴れしくしちゃって・・・・」
「いえ、全然大丈夫ですよ。そう言うのを嫌う方もいると思いますが、僕は大丈夫な性質なので」
「そう。よかった・・・・」
女の子がそう言った後、何分間か沈黙が続く。さっき、女の子が言っていた通り、やっぱり物凄く気まずい。
周りに人が沢山歩いているのが見えるけど、それは、まるで別世界のようで、僕達二人だけが違う世界に取り残されている気分だった。
僕は、どうした方がいいのかわからなくて、キョロキョロと色んな方向を見ていた時、ふと、女の子の指に指輪があることに気づいて、そのことについて話しかける。
「その指輪・・・・」
「この指輪のこと?」
「はい。中指についている、何の飾りもないやつです。突然、変なことを聞くと思うんですけど、その指輪、どうやって手に入れたんですか?」
僕の問いに、女の子は不思議そうな顔をしたけど、直ぐに首をかしげて考え込む。僕が、どうしてそんなことを聞いたかと言うと、僕の持っている指輪と似ていたからなんだ。
「うーん、それが、よく思い出せないの。気がついたら、いつもつけていたみたいで・・・・」
「そっ、そうなんですか・・・・」
「そう。それに、何がおかしいって、この指輪、ペアの指輪だから、きっとどこかにもう一つの指輪があると思うんだけど、それが家のどこを探しても見つからなくて・・・・」
「そうなんですか・・・・それは不思議ですねぇ~」
僕は、この状況に大分慣れて来て、普通に相槌を打つ。そして、女の子の顔を見た時、誰かと雰囲気が似ているような気がした。でも、それが中々思い出せなくて、しばらくの間、ずっと考え込んでいた。
「・・・・大丈夫?」
「えっ、あっ、はい!全然大丈夫です!」
「・・・・私達、以前、会ったことあったっけ?」
「ないと思うんですけど・・・・。でも、僕も、会ったことがないはずなのに、会った事があるような感覚がするんです。一体どう言うことなんでしょうか?」
「うーん?」
女の子は僕の問いに真剣に考え込んでしまって、僕は、慌てて謝ろうとした時、女の子が顔を上げて笑顔で言った。
「もしかしたら、私の前世と会ってるのかもね!」
そう言う女の子の顔を見た時、僕は、何か懐かしい感覚を覚えた。・・・・でも、それをどこで感じたのかと言うことは思い出せない。結構大切なことかもしれないのに、思い出せないんだ。
「そうですね」
「あれっ、否定しないんだ」
「はい。そう言う可能性は十分あるので。絶対にないってことはありませんから」
「なんか、そう言ってくれると妙に嬉しいかも・・・・」
「え?」
「ううん。なんでもない」
「そっ、そうですか・・・・」
僕は、訳がわからなくて首をかしげるけれど、女の子は何だか笑顔になっている。僕のどこが面白かったのかわからないけど、とにかく笑顔だ。
「どっ、どうかしたんですか?」
「ううん。なんでもないよ。ただ、今ので確信した」
「へ?」
「まぁ、細かいことは気にしないで。それじゃあ私、そろそろ帰るね」
「あっ、はい!」
僕は慌ててうなずくと、ベンチから立ち上がり、歩いて行く女の子に手を振る。
「あっ、そうだ!あのね、私、約束守れたよね?」
「・・・・え??」
「おまじない!」
「・・・・はい!」
僕は、おまじないと言われて、やっと思い出した。思い出さなくちゃいけない大事な顔を、今やっと思い出したんだ。あの子は、ちゃんと約束を守ってくれたんだ。そう思うと何だか嬉しくて、僕は、歩いて行く女の子に大きな声で話しかけた。
「あなたのおかげで、僕はこうやって変わることが出来ました!だから、あなたに凄く感謝していますし、それに何より、一緒にいて楽しかった!」
「私もそう思った。だから、また来年。来年のクリスマスも会わない?」
まさかの申し出に、僕は直ぐには返事を出来なかった。だって、僕は、今は人間界にいるけど、また、いつ魔界に行くのかわからないし、来年の十二月まで生きていられる確証がないからだ。
だから、もし、相手の連絡先を知っているなら、いけないって伝えられるけど、僕はあの子のことを何も知らないから、もし、十二月の時に魔界にいたら、あの子との約束を破ってしまうことになって、あの子を悲しませちゃうんじゃないかと思った。でも・・・・。
「わかりました!来年のクリスマスは、この噴水で待ってますね!」
「うん、ありがとう」
そう言って笑顔で手を振って来る女の子に僕が思い切り手を振り替えしている時、ポケットに入っているケータイが急に鳴り出して、思わずビクッとするけれど、急いで電話に出る。
「はい、桜木です」
「宗介のことなんだけどよ、あいつ、見つかった」
「本当ですか?!」
「まぁ、色々事情があって、今熱出してるからよ、とりあえず、こっちに来てくれないか?場所は、恭介の家・・・・って言ってもわからないかもしれないから、俺達の住んでいる家の真裏にある家な。表札に『佐川』って書いてあったら、恭介の家だ」
「わかりました。急いでそちらに向かいますね」
僕が言うと、竜さんがうなずき、通話を切った。僕は、大きく息をついてポケットにケータイをしまうと、今度は、竜さん達の家の裏側にあると言う番長の家に向かうべく、走り出した。