心を読めることがマイナスに働く事もあるんですね
「お兄ちゃん達遅いね・・・・」
「そうだね・・・・。もうそろそろいいと思うんだけど・・・・」
僕達がそう話していた時、ようやく、玄関の方でカチャカチャと言う鍵の開ける音が聞こえたかと思ったら、人の足音が聞こえて来て、黒川君と竜君だなって直ぐにわかった。
「あれ?二人とも、どうした?眠れなくなっちゃったか?」
黒川君の言葉に、今まで僕の傍にいた二人が黒川君のところに走り寄って行く。やっぱり、僕じゃ頼りがいがないみたいだ。
「私ね、怖い夢を見ちゃって、目が覚めたの。だから、お兄ちゃんにそのことを言いたかったのに、お兄ちゃんがいなくなっちゃってたからどうしようかと思って、遊兄に聞けば何かわかるかと思ったんだけど、下に下りて来たら遊兄はいなくて・・・・」
「そうだったのか。怖い思いさせたな」
「ううん、大丈夫だよ!このお兄ちゃんがね、私達と一緒にいてくれたから怖くなかったの。あっ、そうだ。このお兄ちゃん、お熱あるんでしょ?なのに、逃げようとするんだ」
女の子の言葉に、かなり慌てたけど、もう遅いなって思って、何も言わずに観念する。
「竜さん、こんな感じなんですよ。どう思います?」
「うーん、凛の心も読めるからなんとも言えないぜ・・・・。でも、こんな寒さの中、病人を出歩かせるのはあまりいいことだとは思わないぞ?」
「ですよね!」
「竜君、行かせて下さい・・・・お願いします。僕、栞奈ちゃんに謝らないといけないから・・・・」
「それでもダメだ!凛の気持ちもわかるが、こればっかりは許せないぜ。栞奈の方は、俺がなんとか上手く連れ戻すから、お前はここで休んでろ」
竜君の言葉に、僕はどうしようかと思い切り考え込む。僕がここまで栞奈ちゃんのところに行くのにこだわってるのは、栞奈ちゃんをこれ以上外で待たせたくないと言う気持ちがあるからだ。後、申し訳ないって気持ちもあるけど、それよりは、早く家に帰してあげたいなって気持ちの方が大きいのだ。
「悪い話じゃないだろ?」
「うーん」
「ああ、そうそう。これ、ハンバーグな。約束どおり」
「おおっ、ハンバーグ!」
僕は、何とか起き上がると、目の前においてある美味しそうなハンバーグをじっと見ていた。でも、慌てて首を振ると、ため息をつく。
「おっ、誘惑に勝ったか」
「ずるいぞ!僕がお腹減らしてることをいいことに・・・・」
「卑怯なんかじゃないさ。その場に乗じて色々切り替える。これが大事だ」
「それでもずるいもん・・・・」
「まっ、俺はそこまでイジワルじゃねぇからよ、食っちゃいけないとは言わないぜ?」
「ほんとに!?」
「まぁ、食ったら安静にしろな?」
「う・・・・」
僕は思い切り顔をしかめると、ゆっくりと布団に横になり、目を瞑った。これは、大人しくしてますよって言う合図と見せかけて、みんながいなくなった時にこっそり出て行くつもりなんだ。だから、僕はハンバーグを食べない。食べたいけど食べない!
「まぁ、俺は心が読めるから、色んな小細工は通用しないと思うぞー」
「こっ、小細工なんかしてないよ・・・・」
「まぁ、どっちでもいいや。とりあえず、嘘でも本当でもいいから、ハンバーグだけは食っとけよ」
「いいの?」
「ああ、腹減ってるだろうからな」
「・・・・」
僕は、どうしようかととても迷った。竜君は心が読めるんだから、さっき僕が思ったことも知ってるに違いない。それでも、食べていいと言ってくれているのだ。そう思うと、何だか心苦しい。
僕が、ゆっくりと竜さんに視線を向けると、竜さんは僕に向かってウインクをして来た。それを見て、言葉では言えないけど、僕のことを応援してくれてるんだなって気づいた。
僕は、ありがたい気持ちになって、大きくうなずくと、何とかウインクをしようとするけど、両目を同時に閉じちゃって上手く出来ない為、諦めることにしたけど、竜君には、僕の気持ちは十分伝わったみたいだ。
「その変わり、あんまり長い間外にいるんじゃねぇぞ?心配は心配なんだからな?」
竜君が小さい声で言うので、それにうなずくと、僕は、竜君の優しさに感謝をしながらハンバーグを食べ始めた。