弱ってる時は、特に怖く感じるものです
「とりあえず、これ。熱測って」
黒川君に差し出された体温計を素直に受け取ると、熱を測る。熱が出たり具合が悪くなったりすると、人に従ってしまうらしい。さっきまでは、是が非でも栞奈ちゃんのところに行かなくちゃいけないと思ってたのに、何だか、その気持ちが薄れて来た。
僕は、何とか首を振ってその気持ちを思い出させようとするけど、何だかボーッとしていて、天井を無心になって眺めていることしか出来なかった。
「鳴った?」
「うん・・・・」
僕は何とか手を動かして体温計を渡すと、そのまま目を瞑った。気持ち悪いとかそう言うのはないんだけど、頭が何だか重くて、体に力が入らない。これは、完全に風邪ひいちゃったかなって思った。
「うわぁっ、39℃もあるよ。やっぱり、きぐるみの仕事は大変なんだね」
「やっぱり?」
「うん。恭介もよく熱出して帰って来るんだよね。だから、きぐるみの仕事の時は、いつも俺がここに来てるんだ。いつ、熱出すかわからないしね。ほら、弟達だけじゃあれだからさ」
「そうなんだ・・・・」
「ほら、もう寝てて下さい。熱出した時は、寝るのが一番いい対処方法ですからね」
そう言いながら、冷たいタオルを額のところ置いてくれる黒川君に、僕はなんとか話しかける。
「黒川君は、こんなに遅くまで外出してても怒られないの?」
「うん。一週間ぐらいいなくても気づかないんじゃないかな」
「そうなの?」
「そうそう。俺には無関心だからね、親。でもまぁ、帰って欲しいって言うなら帰るけど・・・・どう?」
そう言われて、僕は、本当は帰って欲しいなとは思った。と言うのは、別に邪魔とかって訳じゃないんだけど、黒川君がいると栞奈ちゃんのところにいけないからだ。でも僕は、なぜか首を振っていた。
やっぱり、熱を出した時とかは、誰か傍にいて欲しいものみたいだ。
「そっか。あっ、そうだ。竜さんに頼んで飯作ってもらわないと。俺、料理だけは出来ないからさ。だから、ちょっと待ってて」
黒川君はそう言うと、急いで部屋から出て行ってしまった。
本当は一人にして欲しくなかったけど、止める前に黒川君が行ってしまったんだ。僕は、何とか目を瞑るとため息をつく。家の中はシーンとしていて、時計の音がやけに大きく聞こえる。それがまた恐怖感を煽って、僕はとても怖かった。
もう十五だから、夜、一人でトイレに行くことぐらいは出来るけど、やっぱり怖い。今は、弱っている状態だから、特に怖いのかもしれない。
僕は、暗い天井をただ只管眺めて待っていた。黒川君達が帰って来るのを。でも、何分経っても帰ってこなくて、おかしいなと思っていた時、階段を下りて来る足音が聞こえて、僕は、思わずビクッとするけれど、小さい女の子と男の子の声が聞こえる為、恭介君の弟達だってわかる。
「お兄ちゃんどこかな?」
「遊兄もいないよ?」
「どこに行っちゃったんだろう?」
「もしかして・・・・」
女の子がそう言った後、沈黙が続く。僕は、その沈黙が怖いのと、二人が暗闇を怖がっていることに気づいて、何とか起き上がると、電気をつけた。
その途端、二人は悲鳴を上げたけれど、僕の姿を見て、不思議そうに首をかしげる。
「おっ、お兄ちゃん・・・・誰?」
「足はあるから、お化けじゃ・・・・ない?」
「うん。一応、生きてる人間。黒川君なら、竜君を呼びに行ったんだよ」
「そっ、そうなんだ・・・・よかった。私、てっきりお化けにさらわれちゃったかと思って・・・・」
女の子の言葉に空気が張り詰めたのを感じて、僕は慌てて話しを変えようとする。
「ところで、二人はどうして起きてきたの?」
「起きた時にお兄ちゃんがいないことに気づいて、遊兄に聞きに行こうと思ったけど一人じゃ怖くて、悠斗に一緒に来てもらったの」
「そしたらお兄ちゃんがいてさ、びっくりだよ・・・・」
「ははは、ごめんね、驚かせちゃって・・・・」
「あれ?お兄ちゃん、何だか顔が赤く見えるけど、大丈夫?」
「うん、実は、風邪ひいちゃったみたいでさ、熱があるんだよね」
僕がそう言うと、二人は顔を見合わせたかと思ったら、大きくうなずいた。そして、僕の両腕をお互いが摑むと、僕を布団のところまで引っ張って行って、「寝てなくちゃダメだよ!」って言った。
「でっ、でもさ、実は僕、約束があってさ、黒川君もいないことだし、今から行っちゃおうかな~なんて思ってたんだけど・・・・ダメ?」
「ダメ!」
二人があまりにも息ピッタリに言う為、僕は、仕方なく布団で寝てることにした。