手遅れのようです
僕は、栞奈ちゃんに全部言うことにした。言って、思い切り謝る事にする。栞奈ちゃんを助けたのも、きぐるみも、みんな僕だって言って、栞奈ちゃんに思い切り怒ってもらおうと思う。そうじゃないと、僕の気持ちが治まらない。
僕は、一回だけ大きく息を吐くと、栞奈ちゃんのいるところに向かって走り出した。でも、途中で誰かに遮られて立ち止まる。僕は、何事かと思って前を向くと、そこにいたのは、恭介君だった。
「遅くなって悪かったな。あいつらが中々寝てくれなくて・・・・最終的には遊に任せて来た」
「ううん、別にいいよ」
「ちょっとこっち来い」
恭介君はそう言うと、僕の腕を引っ張って路地裏まで連れて来ると、頭を取っていいと言ってくれた。
「俺がいない間、何かあったか?」
「ううん。何もないよ。ただ、結構怒られちゃっただけで・・・・」
「サボってたのか?」
「うーん、ちょっとだけ。ホワイトボードを使って友達と話しちゃってたんだけど・・・・もしかして、これでお給料減っちゃうってことは・・・・?」
「あるかもな」
恭介君が平然と言い切る為、僕は思い切り慌てる。だって、僕から代わってあげるから弟達のところに行って来なって言ったのに・・・・。
「まぁ、大丈夫だ。金より家族の方が大事だしな。お前のくれた時間は何十万にも値する。だから、落ち込まなくていい。多少の増減は気にしない」
「あっ、ありがとう・・・・」
僕は涙が出そうになりながらお礼を言うと、きぐるみを脱いだ。その途端、汗でビショビショだった服が外の冷たい空気に触れて、思わずくしゃみをする。きぐるみを着ていたらちょうどいいぐらいだけど、脱いじゃうと、我慢できないぐらい寒い・・・・。
「大丈夫か?」
「ちょっ、ちょっと大丈夫じゃないかも・・・・」
「ここから俺の家は徒歩三分だから、そこまで遠くない。それまで、我慢できるか?」
「え?何が??」
「着替えるんだ。そのままでいたら絶対風邪をひく。だから、俺の家で風呂に入って服を着替えろ」
「でっ、でも、いいの?」
「こっちが頼んだんだ。風邪を引かせちゃったら悪いからな。遊には俺から電話しておくから、俺の家に行ったら、直ぐに風呂に入ればいい」
「あっ、ありがとう」
僕は、何とかそう言うけれど、物凄い寒さで、自然と体が震える。まさかこんなことになるとは思わなかったから、薄着で来ちゃったことを呪う。
「とりあえず、代わりをしてくれてありがとう。これを着ておけ」
恭介君はそう言うと、自分の着ていた服を貸してくれた。僕は、それを何とか受け取ると、お礼を言った。
恭介君はと言うと、もう、既にきぐるみを着ており、後は頭をつけれれば完璧装備な状態だ。
「それじゃあ、お邪魔させてもらうね」
「ああ。遊に色々命令してもいいからな」
恭介君はそう言うと、クマさんの頭を被り、表に出て行ってしまうため、僕も、表に出て、恭介君の家に行こうと思ったけど、栞奈ちゃんに謝ることはどうしようかと考える。
正直言うと、この姿のままであまり長くいたくない。体がベタベタしてるし服も冷たくて、本当に風邪をひいちゃいそうだからだ。
僕は、ちょっとの間考えて、答えを出した。栞奈ちゃんには悪いけど、この格好で外にいるのは辛いので、一回服を着替えてからここにまた戻ってくることにした。
恭介君は徒歩三分って言ってたから、往復六分。と言うことは、全力で走れば、二、三分で来れるかもしれない。
僕はうなずくと、寒い体を温めるように走り出した。僕も寒いけど、この寒さの中を何時間も待っていた栞奈ちゃんの方が寒いはずだ。早く行かないと・・・・。
僕は、恭介君の家に走って行くと、直ぐにお風呂に入って、何とか着替えた。
「速いね・・・・」
「うん、ちょっと、色々あってね」
「恭介に時間をくれたんだよね、ありがとう。恭介、絶対自分で頼るってことはしないタイプだからさ、丘本君がそう言ってくれてありがたかったよ」
「ううん。大丈夫だよ。それじゃあ僕、行って来るね、お風呂ありがとう!」
僕は、そう言って、走って家の中から出て行こうとしたんだけど、ギリギリのところを黒川君に摑まれて、思わず後ろに倒れそうになる。
「なっ、何!?」
「いや、その格好で行ったら風邪ひいちゃうよ?髪乾かさないと」
「でっ、でも、そんなことしてたら時間が経っちゃうから!」
僕はそう言った後、思い切りくしゃみをした。その途端、家の中は寒くないはずなのに、物凄く寒く感じる。
「大丈夫?なんか、凄く熱いけど・・・・」
「大丈夫です!もう、バリバリで。だから、僕はこれで!」
そう言って一歩を踏み出した時、突然足の力が抜けて、そのまま玄関に倒れこみそうになったところを黒川君が支えてくれる。
「熱があるみたいだから、出て行かないほうがいいよ?」
「でっ、でも!僕が行かなくちゃ・・・・」
「ダメ」
黒川君はそう言うと、僕のことをリビングまで連れ戻すと、布団を敷き始めた。僕は、その隙を見計らって動こうとするけど、足を机に引っ掛けて、思い切り転んでしまった。
「大丈夫?」
「・・・・あーっ、どうだろ・・・・。僕、もうダメかも・・・・」
「とりあえず、ここに寝て」
「あれ?でも、僕、髪乾かしてないけどいいのかな?」
「大丈夫。それぐらいなら。ドライヤーをかけた方が熱上がっちゃうかもしれないからね」
「そうなんだ・・・・」
僕は、ボーッとする頭で必死に何かを考えようとするけど、頭が凄く重くて、体から凄く力が抜けている。だから、一度布団に入ってしまったから、もう、動けないかもしれない。
「とりあえずこれ、熱測って」
黒川君に差し出された体温計を素直に受け取ると、熱を測る。熱が出たり具合が悪くなったりすると、人に従ってしまうらしい。さっきまでは、是が非でも栞奈ちゃんのところに行かなくちゃいけないと思ってたのに、何だか、その気持ちが薄れて来た。
僕は、何とか首を振ってその気持ちを思い出させようとするけど、何だかボーッとしていて、天井を無心になって眺めていることしか出来なかった。