よかれと思ってやったことですが・・・・。
「あれ?明日夏、こんなところで何やってるの?」
そんな栞奈ちゃんの言葉に、僕は自然とそちらの方を向く。そこには、さっきからずっとこの広場を走り回っていた桜っちを見つけて、どうしたんだろうと首をかしげる。さっきは、何だか落ち込んでるみたいだったから元気付けたけど、まだ元気になってないのかな?
僕は少し心配になって、二人には気づかれないように近付いて行って、二人の会話を聞くことにする。
「えっ!?あっ、あの・・・・どうして僕の名前を・・・・」
「栞奈だよ。化粧してるからわからないかもしれないけど」
「あっ、そう言われて見れば栞奈さんですね!いや~、全然気づきませんでした」
桜っちの反応に、僕も大きくうなずく。化粧をした栞奈ちゃんに初めて会った時は、僕もこんな感覚だった。だから、桜っちの心が大いにわかって、思わずうなずいてしまったんだ。
「ううん。別にいいの。ところで、明日夏はこんなところで何やってるの?」
僕が不思議に思っていたことを栞奈ちゃんが聞いてくれて、僕は再び大きくうなずく。本当に、話せないって不便だってこの体験だけで理解出来るよ。
「えっと、僕は凛君を探してるんですよ。見かけませんでしたか?」
そう言われた時、僕は、思わず、自分はここにいるよって教えたくなったけど、慌ててその考えを振り払う。恭介君に迷惑をかけちゃうかもしれないからね。
でも、なんで桜っちは僕のことを探してるんだろう?何か用事でもあるのかな?そんな風に思いながら、更に聞き耳を立てる。
「いつだったか忘れちゃったけど、結構前に噴水広場で会ったよ?でも、途中で体調が悪くなっちゃったみたいで、そのまま家に帰ったみたいだけど・・・・」
栞奈ちゃんの言葉を聞いて、僕は、やっと思い出した。自分が買い物をする為に噴水広場に来た事。だけど、栞奈ちゃんが悪い人にさらわれちゃったり、恭介君の代わりにクマさんをやったりしてるから、まだ、家に帰ってないんだ。そりゃ、探しに来るよね。
「それって、何時頃ですか?」
「うーん、多分、八時とかその辺り。家に帰ってないの?」
「はい・・・・。六時ごろに買い物に行ってから、そのまま・・・・」
「・・・・何やってるんだろう?」
そう言って考え込む二人に、僕は今の姿を見せてあげたかったけど、思うだけにしておく。でも、桜っちには悪い事をしたなって思う。多分、竜さんに、噴水広場にいるって言われて来たんだろう。確かに、僕は噴水広場のところにいるはいるけど、絶対気づかれないであろう格好をしているのだ。だから桜っちは、あんなに走り回る羽目になってるんだ・・・・。
「ところで、栞奈さんは何をやってるんですか?」
「亜修羅と待ち合わせしててね。待ってるの」
栞奈ちゃんの言葉に、なぜか桜っちが考え込む。僕はどうしたのかと思いながらも、更に二人に近付いて行く。正直言うと、きぐるみの頭が邪魔で、よく聞こえないんだ。
「あの・・・・その待ち合わせって、何時からですか?」
「えーっと、七時ぐらいかな?」
栞奈ちゃんの言葉に、桜っちは更に考え込む。もしかしたら何か知ってるのかなと思って首をかしげていると、桜っちが話し出した。
「実は僕、しばらくの間、修さんと一緒に行動してたんですよ」
「そうなの!?」
栞奈ちゃんの反応と同様、僕も声を上げそうになったけど、何とか口を押さえて堪える。恭介君に、絶対にしゃべっちゃいけないって言われてるんだもん。
でも、まさか、桜っちが亜修羅と会ってるなんて・・・・。そう思った時、僕はふと、あの電話のことを思い出した。僕が変な気持ちになって色々と動揺してる時、どこにいるのかわからないけど、亜修羅から電話がかかって来たんだ。もしかしたら、桜っちも、あんな風に呼ばれていたのかもしれない。
「はい。聖夜君が誘拐されたからってことで、探すのを手伝ってくれって言われて・・・・。その時は、既に七時半ぐらいでした。だから、もしかしたら、約束を忘れちゃってるってことはないでしょうか?」
「・・・・そうなのかな」
桜っちの言葉に、栞奈ちゃんが物凄く落ち込むから、言葉を話していない僕も、桜っちみたいにアタフタしてしまう。でもやっぱり、一番焦ってるのは桜っちだろうなぁ~。
「あっ、あの、もしかしたら、電話がかかって来てるかもしれませんよ!」
「・・・・多分、鳴ってないとは思うけど・・・・あっ、留守電が入ってる」
「・・・・」
「七時半にね、今日は来れないって留守電が入ってた。それ、全然気づかなくて・・・・」
栞奈ちゃんの言葉に、桜っちはホッとしたようなしてないような、なんとも複雑な表情をしていた。僕も、きぐるみを着ているから見えないかもしれないけど、桜っちと似たような表情をしていた。
でも、まさか、留守電が入ってるとは思っても見なかった。・・・・って言うか、そもそも、亜修羅が留守電じゃなくて、電話しないのがいけないんだよ!もし、亜修羅が電話をしてれば直ぐにわかって、栞奈ちゃんもここまで待っていなくて済んだのに・・・・。
「・・・・でも、あの時、待っててって言ってたし・・・・」
「あの時?」
「私も、九時ごろに一回だけ亜修羅に会ったんだ。ただ、その時は直ぐに行っちゃったから、何も聞けなかったけど、これ、渡してくれたの」
そう言って栞奈ちゃんがポケットから出したのは、僕があげた缶コーヒーだった。それを、栞奈ちゃんはとても大事そうに持っている。それを見て、思わずため息が出てしまった。
栞奈ちゃんはきっと、あれをくれたのが亜修羅だと思ってあそこまで大切にしてるのに、もし、あげたのが僕だってわかったら、どれだけがっかりするだろう・・・・。
やっぱり、あの時、あんなめんどくさいことをしないで、素直に僕の姿のままで助けてた方がよかったのかもしれない・・・・。
「あの・・・・冷たくないんですか?」
「え?ああ、缶コーヒー?」
「はい・・・・。さっき触った時、かなり冷たくなってましたけど・・・・」
「うーん、確かに冷たいけど、嬉しかったから。だからさ、もらって直ぐ飲まないで、結局冷ましちゃって・・・・」
「・・・・」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです。ただ、凄いなって思っただけなので」
「凄い?」
「連絡もないまま何時間も経ったら、普通は帰るはずなのに、そうやってずっと待ってていられるってことです。普通は中々そう言うことが出来ないと思うので、凄いと思いますよ?」
「そっか、ありがとう」
桜っちの言葉に栞奈ちゃんは嬉しそうに微笑むと、大事そうに缶コーヒーをポケットにしまった。僕は、二人のやり取りを見ていて、どうしようかとソワソワして来た。
だって、桜っちは僕のことを探してここまで走り回ってるんだし、栞奈ちゃんは、僕が亜修羅みたいな格好で待ってろって言ってるからずっとここで待ってて・・・・。桜っちがここを通りかかったからいいものの、もし、通りかからなかったら、どうなっていたことか・・・・。
僕は、自分の犯した罪の重さに絶望を感じてうなだれるけれど、直ぐに顔を上げた。クマさんは、元気でなくちゃいけないと言う僕の勝手な想像だけど、下を向いてちゃいけないと思ったんだ。
多分、栞奈ちゃんも、亜修羅が来れないってわかったから帰ると思うし、もう直ぐ約束の一時間も経つから、恭介君も帰って来るだろう。そしたら、噴水広場で僕のことを探し回ってる桜っちに話しかけて謝って。そうすれば万事解決だ!
「私は、亜修羅のことをまだ待ってるつもりだけど、明日夏はどうするの?相当ここをグルグル探し回ってたみたいだけど・・・・」
「ぼっ、僕も頑張ります。あの・・・・もし、凛君を見つけたら、電話してくれると嬉しいです」
「うん、わかった。頑張ってね!」
桜っちは、手を振ってくれる栞奈ちゃんに手を振り返すと、再び走って行ってしまった。残された僕は、さっきの明るい気分を一気に静めてため息をついた。
まさか、まだここで亜修羅を待ってると言うとは思わなかった。そして、やっぱり、僕は凄く酷いことをしてしまったんだなと再認識する。あの時僕が、亜修羅の真似なんかしないで、普通に助けてたら、栞奈ちゃんはここで帰ってかもしれないのに・・・・。
そして僕は、栞奈ちゃんに全部言うことにした。言って、思い切り謝る事にする。栞奈ちゃんを助けたのも、きぐるみも、みんな僕だって言って、栞奈ちゃんに思い切り怒ってもらおうと思う。そうじゃないと、僕の気持ちが治まらない。
僕は、一回だけ大きく息を吐くと、栞奈ちゃんのいるところに向かって走り出した。