表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想造世界  作者: 玲音
第二章 三つの国宝
29/591

魔界の国宝 冥道編 天華乱爪

《犬神よ、なぜそんな怖い顔をしている?》

「怖い顔なんかじゃないさ。ただ、いつも笑ってるからそう見えるだけ。無表情が怖い顔に見えるってだけだから」


いつもそう言われる。普段から、いつの間にか笑顔を作っているから、無表情になると怒ってるって言われる。確かに、今の僕の心の中は穏やかじゃないけどさ。


海楼は、無慈悲にも斬って捨てられた。それも、仲間の手で。そんなことは絶対許しておいてはいけない。僕だって昔はそうだったけど、救ってもらえた。色んな人に。


だから、あの子も救う。今の僕の気持ちは、怒りと言うよりも、あの子に対しての慈悲の気持ちだった。きっと、本人は気がつかないだろうけど、人を殺して悲しまない人は誰もいない。機会は別かもしれないけど、人間でも妖怪でも、きっとどこかで心が痛んでいるはずだ。


僕も、最初はあの子と同じように思ってたけど、段々苦しくなって来た。あの子も、きっと苦しいと思う。だから、救うんだ。あの子の心を。


冥道を歩く足の速さが次第に早くなる。気が競っているのが自分でもわかる。仕舞いには、細い冥道の道を走っていた。落ちたらお仕舞いだと言うのに、走った。


それがいけなかったのか、どこまで進んだかわからない時に、冥道の道が崩れ落ちた。一瞬、地面がなくなって、あれ・・・・?としか思えなかったけど、やがてどうしようと思って、かろうじて崩れ落ちていない道の縁に捕まろうと思ったけど、手を出すのが遅くて、失敗した。


と、その時、包帯だらけの手が僕の手をつかんだ。一瞬目を疑ったけど、確かに包帯が巻かれた手に握られている。


僕は、その手に助けられて、冥道の道に何とか上ることが出来た。助けてくれたのは、全身包帯だらけのミイラだった。


「大丈夫かい?」

「あっ、ありがとう。でも、僕に近づかない方がいいよ。君、第三関門の子だよね?第四関門の子に殺されちゃうよ?」

「大丈夫、俺は元々死んでるのがわからない?死んでるからミイラなんだろう?」

「そうだね」


僕は少しだけ安心した。すでに死んでいるなら殺されることはないはずだ。それなら、少しくらい話をしても大丈夫だろう。


「でもさ、ミイラって心臓が動いてないんでしょ?ならどうして動いていられるの?」

「ミイラって言うのはさ、心臓が動かない代わりに生命の渦があるんだ。そのおかげで動いてるんだ。ミイラもそれを斬られたら死んじゃうって言うか、動けなくなっちゃうんだ」

「そうか。その、生命の渦って言うのはどこだ?」

「それは・・・・」


僕らは、同時に振り返った。そこには、海楼を無慈悲にも殺したあの子供が立っていた。その手には、その体には長すぎる刀を持っていた。ミイラのことも殺そうとしているのかな?


「ミイラ、関門の掟を破るな。破った奴は死刑実行。そう言う決まりだ。だから、お前も死ね!」


その子は電光石火の如く、ミイラに近づくと、刀を突き出した。僕は、とっさにミイラをかばい、刀がわき腹を刺した。普段なら、あまり痛くはないはずなのに、なぜか物凄く痛い。


「チッ、外したか」


その子は、同じようにスパッと勢いよく刀を抜いたから、体に激痛が走る。こんな激痛は何年ぶりだろうか。そうだ、三年ぶりだ。


「なぜ、お前はそこまで生死に敏感に反応する?用のない者は邪魔だろう。殺していいではないか」

「そんな無慈悲に人を殺していいはずないだろう。君だって、海楼を殺して悲しいと思わなかったのか?」


わき腹を抑えながら、搾り出すような声で反応する。今は痛がっている暇はない。とにかくこの子に・・・・。


「ああ、なんとも思わなかったな。バカな奴だ。死にもしないミイラを殺そうとした俺の刀に自ら当たりに行くなんて。自殺行為だぞ。ただでさえ、肉体から魂が離れていっていると言うのに」

「それでもいいんだ。とにかく、これ以上君に人を殺させたくはない。なんとも思っていないと自分では思ってるらしいけど、絶対心の片隅では傷ついてるはずだ。そして、それはいつか爆発する。その前に君を止めなくちゃいけない!」


「わかったような口を利くな。俺は今、気が立っているんだ。ミイラがダメならお前が変わりでもいいぞ?」

「僕は宣言する。君は、絶対僕のことをこれ以上痛めつけることは出来ない。どんなにムキになって刀を振るおうとしても、自分の心が自らの動きを止める」


「もし、俺がお前を刺したらどうなる?」

「死んじゃうんじゃないかな?もう、意識が朦朧として来たしさ。でも、僕は君が刺さないと言うことを信じる。だから、刺そうと思えば刺せばいいよ」


僕は今、自分が何が目的で冥道に来たのか、完全に忘れていた。ただ、今はこのことしか思っていられなかった。それだけを思うのに精一杯だったんだ。あまり働かない頭で考えるのは、これだけで精一杯なんだ。


「そうか。なら、遠慮なく殺すぞ。慈悲の心なんかとっくに捨てた身だ。今更慈悲の心など沸く訳がない」


僕は目をつぶった。それから肩に痛みが走った。目を薄っすらと開けて肩を見ると、血は出ていなかった。きっと、刀では斬られずに、柄で叩かれたんだろう。


「チッ」


その子はそう言うと、ばつが悪そうな顔をして、またどこかに消えてしまった。


僕は、それを見届けると、何だかほっとして、足の力と共に意識を失った。









僕は、もう目覚めることはないだろうと思っていたけど、目を覚ました。そして驚いた。目の部分意外は明かりを感じないんだ。


おかしいと思って首を振って起き上がると、悲鳴を上げそうになった。全身包帯だらけでグルグル巻きにされている。本当に、自分は死んでしまったのかと思った。でも、違うようだ。


「あっ、気づいたか?」


向こう側に、僕と同様に、包帯でグルグル巻きになったミイラの姿が見える。と言うことは、僕は死んでないのかな?いや、ミイラは死んでも僕が見えてる。と言うことは・・・・僕は死んだのかな?


「僕、死んじゃったの?」

「違う、違う。俺の包帯を貸しただけ。この包帯ってね、実は治癒能力があるんだ。君がさ、本当に死にそうになってたからさ、急いで包帯を巻いて寝かせておいたんだ。どう?まだ傷が痛む?」

「ううん、傷なんか跡形もなく消えちゃってるよ。どうなってるの?」


「それは、ミイラの企業秘密。っと、急いだ方がいいんじゃないかい?あれから三時間経ってるから、人間界で言うと、約六時間」


僕はその言葉を聞いて、飛び起きた。まずい、冥道では人間界よりも時間が遅く過ぎることを忘れていた。


「えっと、ありがとう。傷の治癒までしてもらって。でも、そんなにゆっくりお礼を言っている暇はないんだ。人間界が・・・・と言うか、全てが危ないから」


「ああ、わかってる。生半可な気持ちじゃ、冥道になんか生きたまま来ようとする奴はいないもんな」

「ありがとう」


僕は、最後にお礼を言って立ち去ろうとしたけど、それをミイラが呼び止めた。


「なぁ、その剣って、天華乱爪か?」

「そうだって本人は言ってるけど・・・・」

「凄いな、お前。それ、どこで手に入れたんだよ!」


ミイラの態度の激変ぶりに、僕は戸惑ってしまった。何となく淡々としかしゃべらなかったミイラの声色が一気に跳ね上がったからだ。


「どこって・・・・冥道の途中の洞窟で見つけた。これって、そんなに凄いものなの?」

「知らないのか?冥道霊閃と、他の二つの国宝のことは知っているだろう?実は、もう三つあるって言う噂があるんだ。だから、合計六つ。そのうちの一つに天華乱爪が入ってるんだ」


「でも、それって噂でしょ?」

「いや、どうも本当らしい。魔界の一番偉い奴が言ってたんだからな。まぁ、定かではないけどな」


僕は、自分の手で握っている剣をまじまじと見つめた。実は、国宝が六つ合って、そのうちの一つを偶然手に入れているなんて。それに、冥道霊閃を取られていなかったら、国宝を二つも持っていることになる。何と言うことだ・・・・。


「教えてくれてありがとう。とにかく、急がなくちゃいけないから、もう行くね?」

「ああ、じゃあな。大事に使えよ、それ」


ミイラは親切に言ったんだろうけど、僕の肩には少々重過ぎる。何てったって、国宝が僕のことを認めたのか。気が重いよ。それに、体がまだ動かしずらい。多分、ミイラが包帯を全部取った後の感覚ってこんな感じなんだろう。


僕は、気が重いのを感じながらも、あまり動きにくい体を動かして、ゆっくりと冥道を歩いて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ