言葉では冷たいけれど、根は普通の女の子なんです
「・・・・あれ?」
私は、かけたはずの鍵が開いていることに気づき、慌てて家の中に入る。泥棒に入られたのかと思ったのだ。
しかし、家の中は、荒れてはいなかった。ただ、床に白い粉が散らばっているだけで・・・・。
「なに?これ??」
指で触ると、その粉は指についたけれど、危険そうなものじゃないとわかり、とりあえずは掃除機を持って来ると、その粉を掃除する。
その時、ふと、出かける時よりも靴の数が二つ増えていることに気づいて、私は首をかしげる。確か、最初は、瑞人と葉月君の靴しかなかったはずだけど、今は、もう二つ靴があるのだ。
おかしいなと思って瑞人の部屋に行くけれど、誰もいなくて、テーブルの上にオレンジジュースがあるだけだった。
「なんなの?」
私は訳がわからなくなって、瑞人に電話をすることにした。家の電話から瑞人のケータイにかけてみると、電話には出た。
「もしもし?」
《おお、花恋かどうしたよ?》
「あんた今どこにいるのよ?靴があるのにどこにもいないじゃない!」
《え、いやぁ~よぉ、ちょっと、今外にいるんだ》
「そうだったの。それじゃあ、他の人達は?一緒にいるの?」
《お~、俺、今一人。エンジェル追ってたら、みんなとはぐれちまってよ》
「そうなの。みんなならね、多分、家の中にいると思うんだけど、どこにもいなくて・・・・」
私がそう言った時、電話越しに女の子のキャーと言う声が聞こえて来て、私は、自然と眉をしかめる。
「もしかしてあんた、エンジェル追いかけるって嘘ついて、女の子と遊んでるんじゃないでしょうね?」
《えっ、あっ、いやいや、違うって!今のは、偶々近くにいた女の子の声が聞こえただけだって。そもそも、俺達、別に付き合ってる訳じゃないんだしよ、俺が他の子と遊ぶのも勝手じゃないか?》
瑞人に言われて、私は思わず反論できなくなる。確かに、私と瑞人は付き合ってない。だから、勝手なのかもしれない。でも・・・・嫌なんだ。
「勝手じゃない!」
《うわっ!?突然でかい声出すなよ・・・・びっくりして足滑らすところだったじゃんかよ!》
「足滑らすって・・・・一体どこにいるのよ?」
《あっ、えっとー、木の上?》
突拍子もない答えが返って来た為、私は思わず言葉を失った。なんで、木になんか登るのかわからないけど、とりあえずは危ないから、下に下りるように促すことにする。
「とりあえず下りなさい。危ないから」
《いや~、無理。色々事情あって無理!》
「足滑らして落ちたら大変でしょ?」
《わかったって。本当に、花恋は母ちゃんみたいだな》
そう瑞人に言われて、私は少しだけ傷つく。別に、お母さんと言われること自体が嫌いって訳じゃないけど・・・・幼馴染とも思ってもらえてないことが悲しい。
幼馴染だって、あんまり異性として認められ難いって言うのに、お母さんなんて・・・・。
そう思ってため息をつくけど、確かに、私自身も、お母さんみたいだって思う。
ご飯を毎日作って持って行って、掃除や洗濯もして、世話まで焼いて・・・。これじゃあ、幼馴染じゃなくて、お母さんみたいだよね・・・・。
《ん?どうしたよ》
「・・・・なんでもない」
《そうか?なんか急に黙り込んじまったから、また何か言っちゃったのかと思ったぜ。じゃあ、そろそろいいか?》
「・・・・うん」
私がうなずくと、通話は勝手に切れてしまった。私は、しばらくの間、通話の切れた電話をずっと耳に当てていたけれど、ため息をついて電話を置いた。
私はよく、みんなにクールだとか強いとか言われる。でも、そんなことはない。私だって、一応女の子だし、それを表に出せるか出せないかの違いってだけで、沢山悩み事とかもある。
でも、みんなはそんな私の気持ちなんて知らずに、「悩みがなさそうでいいね」って言うんだ。そう言われると、私は物凄く腹が立つ。私だって、沢山悩みがあるんだ。・・・・そのほとんどが、自分のことでないだけで。
例えば、玲菜の成績のことや、生活費のこと。瑞人の成績もそうだし、後、女の子とよく遊ぶことも気になる。ある意味、子供の玲菜よりも、瑞人の心配事の方が多いかもしれない。
それなのに、あいつは、全くそんなの知らない。言ってないから当たり前かもしれないけど、少しはこっちのことも考えて欲しい。瑞人は何も悪くないけど。
なんだか、凄く訳がわからないことになって来て、頭が混乱する。自分でも、何をしたいのかがわからない。どんどん大きくなるに連れて、こんな風に自分自身の心がわからなくなるような機会が多くなった。だから、私は素直になれなくなってしまって、距離が離れて行ってしまうのかもしれない。
私はため息をつくと、リビングに行ってコーヒーでも飲もうを思った。しかし、突然、後ろから体を押さえつけられて、口にハンカチを当てられる。
私は、必死に抵抗をしようとしたけれど、それよりも先に睡魔に襲われて、私はそのまま目を閉じた。