少し、変わって来ましたね
「コーヒーなんか睨んでどうしたんだ?」
「いや・・・・、うむ。なんでもない。いただくぞ」
「ん、ありがたく飲めよ!」
神羅に言われ、聖夜はそっぽを向いたが、神羅は怒らなかった。と言うか、もう、怒る余力すらなくなってしまっているのかもしれない。
聖夜は、なぜだかわからないが、意を決したようにうなずくと、少しだけ飲み、勢いよくコップをテーブルに置いた。
「ん?どうしたよ?」
「・・・・いや、なんでもないんだ。気にしなくてもいいぞ。このままでも飲めるからな!」
慌てて弁解する聖夜の様子を見て、苦くてそのままじゃ飲めないんだなと言うことがわかった。しかし、コーヒーを入れた神羅はと言うと、そんなことには全く気づいておらず、首をかしげてばかりいる。
俺は、聖夜に気づかれないように神羅にそのことを伝えた。すると、ようやく納得したようで、うなずいている。
神羅が出したのは、ブラックのままのコーヒーなのだ。俺は、それが一番いいのだが、子供の聖夜からしてみれば、凄く苦いものだろう。だから、あんな風に躊躇っていたのかもしれない。
しかし、聖夜の性格上、絶対に苦いとは言わないだろう。ましてや、ミルクや砂糖を入れたいとも言いたがらないだろう。だから、ここは、俺達で率先してやることにした。
「神羅、なんでブラックなんて入れて来たんだ。苦くて飲めないじゃないか」
「すみません・・・・めんどくさかったものだから、つい・・・・今、砂糖とミルク入れて来ますね」
そう言って立ち上がる神羅に、小声で「ミルクだけ入れて来い」と言った。砂糖は入れてる振りをすればバレないだろうからな。俺の言葉に、神羅は指で丸を作って返事をした。
「聖夜のも入れて来るな」
「えっ・・・・でも・・・・」
「族長だって苦いって言ってるんだ。だから、お前も苦いと思ったんだけど・・・・どうだ?」
神羅に問いに、聖夜は戸惑っている様子だったが、しばらく待つと、少しだけうなずいた。
「じゃあ、入れてくるぜ」
神羅は、少しだけ嬉しそうに言うと、さっきはあんなに嫌がっていたのに、鼻歌でも歌いそうないきおいでキッチンに向かった。すると、すぐ様聖夜が話しかけてくる。
「修、もしかして、僕の為に演技をしてたんじゃないのか?」
「・・・・どうしてそう思うんだ?」
「だってお前、なんだか様子が変だったからな。確かに、僕にはブラックコーヒーは苦いが、我慢すれば飲めるぞ?」
「お前のことだから、ミルクや砂糖を入れるのは恥ずかしいことだと思って、無理して飲むんじゃないかって思ったからな。別に、恥ずかしいことじゃないぞ。俺だって、お前ぐらいの年の時は、ミルクや砂糖を入れないと飲めなかったし・・・・もしかしたら、コーヒーと言うもの自体飲めなかったかもしれん。だから、無駄に意地を張らない方がいいぞ」
俺がそう言っている間中、聖夜は口を尖らせていたが、俺がしゃべり終わると、観念したようにため息をついた。
「・・・・そうだな。おじい様にも無理はいけないと言われた。修の言うとおりかもしれない」
「そうだ。俺は、お前のじいさんのことは知らないが、その言葉には同意する」
「お前といると、学ぶことばかりだな。先生」
「だから、先生はやめろって言ってるだろ?」
「でも・・・・いろんなことを教えてくれる訳だし、先生と言うのが正しいのではないかと・・・・神羅だって、お前のことを修って呼んでなくて、族長って呼んでるじゃないか!なんで僕は先生って呼んじゃいけないんだ!」
聖夜はなぜか、立ち上がりながら怒鳴った。しかし、慌てて椅子に座ると、ため息をつく。
「どうして神羅はOKで僕がダメなのか、その原因を教えてもらいたい」
「別に、お前がダメって訳じゃないが、神羅の言っている族長って言うのは、もう慣れたものだから、仕方ないって言う感じで、最初は違和感があったぞ」
「じゃあ、僕の先生って言うのも、直に慣れる!」
「・・・・」
俺は、どうして聖夜がここまで「先生」と言う呼び名にこだわるのか全くもってわからないが、とりあえずうなずくことにする。
「そうか!それならよかった!」
「でも、どうして先生って呼び名にそんなにこだわるんだ?」
「ん?特に意味はないぞ。ただ、その呼び名がお前には似合うと思ったからだ。将来先生になれば十分やっていけるぞ!」
「・・・・は?」
俺は、急にテンションの上がってしまった聖夜に戸惑う。なぜ、先生と言う単語でここまでテンションが上がるのか。俺にはよくわからない。だから、話を変えることにした。
「なぁ、お前の発明品って、他にもいろいろあるのか?」
「うん。まあな。いろいろあるぞ」
「見せてくれないか?」
「うん。いいぞ。あっ、じゃあ、ついでに、このヘッドセットマイクで出来るすべてのことを説明しようか?」
「いっ、いや、それはいい・・・・」
「ま、とりあえず、行こう!」
「あっ、おい、置いてくなー!」
後ろから神羅の声が聞こえるが、俺は、聖夜に腕を引かれるまま、地下へと下りて行った。