天才と言われても、やはり「あれ」は未だに怖いようです
「絶対、誰にも言うなよ?」
「・・・・そんなに恥ずかしいことなのか?」
「そうなんだ!お前が言えって言うから言うんだからな!」
「うん・・・・まぁ、話してみろよ」
「あっ、後、絶対に笑うなよ!」
「大丈夫だ。話してみろ」
「はぁ・・・・」
聖夜は深いため息をつくと、ゆっくりと話し始めた。その内容と言うのを簡単に述べると、こう言うことになる。
まずは、俺達に指示をし終わった聖夜は、眠くなることを防止する為に、コーヒーを取りに地上へ戻った。しかし、いるはずの女達の姿がなく、なぜか聖夜は、霊に連れ去られたと勘違いしたのだ。しかも、霊に宣戦布告までした時に玄関の扉が開いた為、驚いて、とっさにあんな行動をとったらしいのだ。その話を聞いた時、聖夜は笑うなと言っていたが、俺は笑ってしまった。神羅なんか、腹を抱えて思い切り笑っている。
そんな俺達を、聖夜は恨めしそうな顔をして見ていた。
「笑うなって言っただろうが!」
「悪い悪い。でもよー、まさか、お前がそんな霊とかに怯えるなんて、おっかしくってよ!」
「霊じゃない!お化けだ!!」
聖夜がそう怒鳴ると、神羅はさらに笑った。俺も、本当は凄く可笑しかったが、これ以上笑うのは可哀想だと思い、何とか唇を噛んで笑いを堪えた。
「全く、どうして僕が恥をかかなきゃいけないんだ!そもそも、僕は裏口から入って来いって言ったのに、お前達が正面から入って来るから驚いたんだぞ!」
「ああ、それはな、裏側回ったんだけどよ、鍵がかかってたから、仕方なくあっちに回って来たんだよ」
「そうだったのか・・・・それはちょっと悪い事をしたな。と言うことで、お互い様と言うことにしうよう」
「なんでそうなるんだ!」
「もういい。この話はやめだ!そもそも、お化けの仕業じゃなかったら、あいつらはどこに行ったって言うんだよ?ここに残ってろって言ったのに・・・・」
「確かに、それは問題だな。あいつは、結構物分りのいい方の女だと思うが・・・・」
「もしかしたら、堕天使に連れ去られたとか?」
「そんな趣味があるのか?」
「うーん、わからない!でも、堕天使が盗むのは、物だけではないのは事実だ。今までに、何回か、女子供がさらわれたことがある。まぁ、いずれも、水斗が助け出して、今は家族と一緒に暮らしてるけどな」
「・・・・って言うことはなんだ?三人ともさらわれたってことか?」
「たぶん、そう考えるのが妥当だと思うけど・・・・」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。もしかしたら、ただ出かけてるだけかもしれないだろ?」
「まぁ・・・・そうだな」
神羅の言葉に、聖夜はうなずいた。確かに、神羅の言うように考える方が妥当かもしれない。しかし、聖夜の話を聞いている限り、堕天使に誘拐されたと言うことも考えられるのだ。
「とりあえず、僕はコーヒーが飲みたい。神羅、作ってくれ」
「えっ!?俺かよ?」
「俺も頼む」
「俺、あくまで護衛としてるんで、召使じゃないんですけど・・・・」
俺は、そんな神羅の言葉を無視すると、聖夜とリビングにある椅子に座った。あくまで、神羅を無視してだ。
「・・・・ちぇっ」
神羅が舌打ちするのが聞こえるが、それも無視。そして俺は、神羅と話していて不思議に思った、あの「レイアウト」と言うものの件について聖夜に聞いてみることにした。
「なぁ、ちょっといいか?」
「ん?なんだ?」
「このヘッドセットマイクについているカメラの機能あるだろ?」
「うん。そうだな。って言うか、よく見つけたな。あの機能、遊びでつけたから、結構奥の方にしまってあったのに・・・・」
その言葉を聞いて、俺は一瞬黙り込んだ。遊びでつけたと言う割りには、かなりの懲り様だった。ズームの倍率とか、いろんな種類のフレームとかもあって、ある意味、下手なカメラよりも高性能かもしれないと思ったほどだ。それなのに、あれは遊びでつけたものだったなんて・・・・。
「まぁ、あれを見つけたのは神羅だ。で、まぁ、俺が聞きたいのは、レイアウトって項目だ。あれ、一体なんなんだ?」
「なんなんだと言われても・・・・あれは、遊びと言う領域でもなく、その時のノリでつけた機能のようなものだからな、正直よく覚えてないな・・・・」
「ほら、これで満足だろ!」
神羅はそう言ったかと思うと、ドンッとテーブルにコーヒーの入ったコップを置いた。
「悪いな」
「そう思うなら、俺にやらせないで下さいよ~」
「じゃあ、そう思わない」
「そうじゃなくて!」
「・・・・」
俺達がそんなやり取りをしている間、聖夜はずっとコーヒーを睨んでいた。そんな聖夜に俺が気づいて、ジッと聖夜の方を見ていると、俺の視線に気づいたのか、聖夜は慌ててコーヒーを睨むのをやめると、笑った。
「なっ、なんだ。どうした?」
「コーヒーなんか睨んでどうしたんだ?」
「いや・・・・、うむ。なんでもない。いただくぞ」
「ん、ありがたく飲めよ!」
神羅に言われ、聖夜はそっぽを向いたが、神羅は怒らなかった。と言うか、もう、怒る余力すらなくなってしまっているのかもしれない。