まさに天才ですね
《少しだけ待っててくれないか?今から、水斗にどの道を通って撒けと指示をするから、それが終わったら、お前達にもどの道を通って帰れとかって地図を転送するから》
「わかった」
わざわざそこまでする必要もないとは思うが、一番最初に水斗に気づいてこちらにやって来た女は、多分、俺の顔を見てるかもしれない。だから、聖夜みたいに疑ってかかる方がいいのかもしれないと思った。
「族長・・・・なんか、大変なことになりましたね?」
「お前、いつの間にここにいたのか?」
「ええ。こんな騒ぎの中じゃ、堕天使も外に出られないでしょうし、ちょっとぐらいいいかなって思いまして」
「まあいい。聖夜からちゃんと伝わってるんだよな?」
「おう、わかってるぜ!変装すんだろ?一体どんな風に変装するのか楽しみだぜ~」
「・・・・はぁ」
俺がため息をついて下を向いていると、突然神羅がハイテンションの状態で話しかけて来た。
「おいおい、これ、凄いぞ!」
「は?何がだ?」
「これな、俺達の目の動きを感知するものみたいでな、俺が目動かすと、勝手にページが開けたりするんだ!」
「ふーん、凄いな」
「それだけじゃないぜ!その機能に気づいて、色々ページを開いてると、このヘッドセットマイクがどれだけ高性能かわかるぜ!例えば、モニターが出てる状態で、レンズって部分に目をやるとよ、モニターの部分が切り替わって、今度はカメラみたいになったかと思ったら、ズームとか出来るんだぜ!ほら、あんなに遠くを歩いてる人も見えるぞ!」
神羅があまりにもハイテンションで言う為、俺も、言われた通りに操作をして、そのズームとやらを見てみる。そして、神羅ほどテンションは上がらないものの、少しだけテンションが上がる。
聖夜は、このヘッドセットマイクは普通じゃないと言っていた。そのことを、俺は改めて感じた。ズーム出来る倍率が半端ないのだ。神羅の言っていた人物の姿も見える。普通ならありえないはずだ。
だって、かなり距離が遠いのだ。道路だって、見えるか見えないか本当にギリギリのところで、普通のカメラなら、絶対人間なんか見えっこない。それなのに、その道路を歩いている人の姿がはっきりと見えるのだ。どんな形の服を着てるのかとか、どんな顔なのかまではっきり見える。
ふと、右下にせわしなく変わる何かを発見し、チラッとだけ見て、それがズームの倍率だと気がつくのに、俺は一分程度かかった。なぜなら、2500倍と表示されていたのだ。これは、まさに顕微鏡の域じゃないかと思った。
「な?凄いだろ!」
「ああ、そうだな。さすがにびっくりしたぞ」
「それにな、ズームした状態で写真も取れるみたいでよ、ほら!」
神羅がそう言った直後、一端画面が暗くなったかと思うと、神羅が送って来た写真が表示された。その右下には、どう言う意味かわからないが、レイアウトと言う文字があった為、自然とそちらに目を向ける。すると、星形とかハート形とか、とにかく、色んな種類の何かが表示された。
「・・・・なんだ?これ??」
「うーん、それ、プリクラとかって言うものと似たような機能かもな」
「は?なんだ、そのプリ・・・・クラって言うのは?」
「俺もよく知らねーけどよ、なんか態々金払って写真とって、それをデコレーションするのがプリクラって言うらしいんだけど・・・・まさにそんな感じじゃないかって思ってよ」
「・・・・こんな機能、必要だったかと思うか?」
俺が真顔で聞くと、神羅は困ったような顔をした後、肩を竦めて首をふった。その反応に、俺もうなずくと、レイアウト画面を閉じた。
「聖夜はマイクの説明しかしていなかったが、もしかしたら、このヘッドセットマイク、もっと凄い機能が沢山備わってるのかもしれないな」
「うーん、一端家に帰った時、聞いてみるか。レイアウトの件も」
俺達がそんな会話をしていると、突然、ファイル受信と画面になったかと思ったら、突然地図が表示された。その地図には、展望台から水斗の家までの道順に、赤い線が引いてあった為、これが聖夜の提示した道だとわかる。
「あいつ、生意気だけど、ある意味天才なのかもしれないな?」
「・・・・そうだな。こんなもの、俺だって作れない」
「あっ、族長がそんなこと言うなんて珍し~」
「そうか?」
「いえいえ」
神羅はそう言って首を振ると、後ろに人がいないことを確認し、前にいる野次馬達に気づかれないように走り出す。
《あの・・・・ツンデレ君?》
「なんだ?」
《あの・・・・すみませんでした!どうか怒らないで下さい!》
「無理だな」
《じゃっ、じゃあ、せめて蹴るのは・・・・》
「お前の言動次第ではやめてやる」
《それなら!》
「じゃあ、俺、一回お前の家に戻らなきゃいけないから、切るぞ」
《あっ、待って!》
俺は、水斗の言葉を無視してマイクを切ると、二番のボリュームをミュートにした。二番は、水斗のヘッドセットマイクの番号で、それの音量だけを下げると、水斗の声は聞こえないが、聖夜や神羅の声は聞こえるままなのだ。
俺は、改めて、聖夜は凄いものを作ったなと思いながら、俺の方をチラチラ振り返る神羅の後を追って水斗の家に向かった。