魔界の国宝 冥道編 決意
あれ・・・・。何だか、揺れが納まったような気がする・・・・。
目を開けると、確かにさっきまで揺れていたはずの洞窟が、しーんと静まり返っている。これは、嵐の前の静けさと言うものなのかな?
《犬神よ、自らの手を見てみるがいい》
「あっ、さっきの古びた剣がなくなってる!」
《犬神よ、今からでもまだ間に合うんだぞ。我を侮辱したことを謝れ。さすれば、許してやらんこともない》
「そんなこと言ったってさ・・・・さっきの古びた剣と、このツルピカの剣じゃ・・・・」
《なぜ我の髪が少ないことを知っている!?》
「・・・・あっ、ごめん。でもさ、僕、忙しいの知ってるでしょ?だから、用がないなら行くよ」
《待て、汝は我を知らないのか?この天華乱爪を》
「そんなの知らないよ。何?一緒に連れてって欲しいの?いいけど、これから冥道霊閃の暴走を止めに行くんだからね」
《とにかく、我がついて行ってやろう。お前の勇気と覚悟はわかった。だから・・・・》
「そう、ありがとう。じゃあ、許してもらえたんだ」
僕は早めに話を切り上げると、天華乱爪とか言う剣を持って洞窟を出る。この剣は、最初はブツブツ言っていたくせに、認めたとかなんとかになったらペラペラ話し出すし。出来るだけ黙っててもらいたいんだけどな。
そのまま何事もなく歩いて行くと、再び、さっきと同じような洞窟が見つかった。今度は、そこから嫌な予感がする。もう無駄な戦いはしたくないから避けようと思い、何もない片方の道を歩いて行く。それに、ここからだと地球がどうなっているのかわからないし、余計な時間は経たせたくなかった。
しかし、その考えを読まれていたのか、目の前に人が立ちふさがった。ああ、もう、時間がないのに!
「そこの者、しばし待たれよ」
「何?あんたも僕の邪魔をするの?早く行かないと人間界が壊れちゃうんだよ、お願いだから退いて!」
「それは出来ぬ。我は、第二の関門を守る者。我が認め限り、そなたを通す訳にはいかぬ」
僕は、それを聞いて、顔から血の気が引いて行くのがわかった。あの人のことを思い出してしまったんだ。その件は、それだけ響いたらしい。
僕の様子を見てか、そいつは言った。
「安心するがよい、我と戦うのは体ではない。ココだ」
そいつが指を指したところは、頭だ。
それを見て、自然と「敗北」と言う文字が頭に浮かぶ。
でっ、でも、戦う前から負けることを考えてちゃダメだよね!・・・・でも、負けるかも。頭固くないし。
「僕、頭固くないから無理です」
「違う、頭脳で勝負をするのだ。これなら、どちらも共に怪我することなどないはずだ」
「何で冥道の奥に行く為に頭脳対決なんか・・・・」
「問答無用!男なら素直に対決を望むものであろう。では、第一問!」
「ええぇ~!!」
「『シダイ』に熱くなる」
「しっ、シダイ?」
しだいと言う言葉は知ってる。でも、そんな漢字なんか習ったかな?と迷う。最近のことだったら覚えているけど・・・・。
「どうした?中学校卒業レベルの問題だぞ?そなたは中学三年ではないのか?」
「中学三年生だよ!でも・・・・」
その時、ふと頭の中に漢字が浮かんで来た。次第・・・・。これは、亜修羅が教えてくれたんだ。他にも色々と教えてもらったな。使い方を教えてくれる時、必ず僕を貶す使い方を教えるんだけど。
例えば、次第だったら、「凛みたいに、次第に頭が悪くなること」とか・・・・。
「次第!」
「正解。では第二問。これも中学卒業レベルだ。『ギョウセキ』」
「わからない」
それには即答で答えた。これは、教えてもらってない。きっと、僕のいじめ方がわからなかったんだろう。だから、教えてくれなかったんだ。
「では、レベルが少し上がるぞ。高校在学レベルだ。『トロ』」
「大トロ!」
「なぜマグロになる」
「だって、意味がわからないんだもん」
「ふむ・・・・。『苦しい胸中をトロする』」
どっち道わからないよぉ・・・・第一、僕、中学生だし。高校生の問題なんかわかる訳ないし。トロ・・・・とろ・・・・何だか大トロとか中トロぐらいしか頭に浮かんで来ない。
「わからぬか。仕方ない。答えは・・・・」
「わかった!吐露だ!!」
「正解だ」
僕は、あてずっぽうで言ったことが正解になっていて、助かった。本当に助かった。
これは、確か、亜修羅がノートに書いていたような気がしたんだよね。意味はわからなかったけど。それを思い出して、とっさに答えたんだ。
「言い忘れていたが、質問は十問出す。そのうちの八問正解でここを通す。だから、後一問間違えると、後には引けぬ。それをよく考えることだな」
「でも・・・・わからないって言う答えは間違えることになるの?」
「本当のところはそうなのだが、今回は特別になしにする。だから、わからなかったら、わからないと言っていいのだ。何回でも」
僕はそれを聞いてかなり気持ちが楽になったけど、それと同じくらい不思議に思った。やけに易しいと思う。でも、あえて突っ込みを入れなかった。条件を厳しくされて困るのは僕だしね。
それから、僕はわからないを連呼しながらも誠心誠意をかけて、死ぬ気で頑張って答えた。間違えたと思い、冷や冷やしながらも、何とか「正解」と言う言葉を言われると嬉しかった。
「残り一問正解すればお前を通すことが出来る。逆に、間違えたらそなたはここを通れない。我は、最初に十問と言ったが・・・・早、百問超えか」
「ごめん、人間君」
「我は人間君などではない。海楼だ」
「海楼君、色んなところで助けてくれるよね?何で?」
「我はそなたを助けた覚えは決してない」
いや、あるんだよ、それが・・・・。僕はさっき、誠心誠意死ぬ気で頑張ったと言ったけど、ほとんど海楼の動きに助けられてる。何かこの人、本当はいい人なんじゃないかなって思ったんだ。
「でも・・・・」
「とにかく、次の問題に行くぞ。植物の発芽に必要な物はなんだ?」
僕は、もう迷わずに答えることにしたこれ以上わかわらないと言って逃げるのはダメだ。正解か不正解。どちらかになればいい。
「水、空気、光!」
「不正解」
「あっ・・・・」
やっぱりダメだった。つい勢いで言ったけど、三つ目に必要なのは適当な温度。光と言うよりも、日光と肥料は植物をより成長させるもの。それとごっちゃになってたんだ。
何で答えてから思い出すのかは不思議だけど、いつもそうなんだ。間違えてから、本当の答えが浮かんで来る。まるで、自分自身で首を絞めているようなものだよね。
ダメだった、ごめん。僕が調子に乗って答えるから。
「そなたは、なぜ冥道の奥に行くことを望む?奥に待っているのは、死のみなのだぞ?」
「奥に、冥道霊閃の妖力を全て出し尽くそうとしている奴がいる。そいつを止める為に行く」
「冥道の奥に行けば行く程、魂は肉体から嫌が応でも離れていくのだぞ?それは、強烈な痛みを請け負うことになるのだぞ?」
「承知してるよ、そんなこと。でないと、冥道になんか自ら入って来る訳ないじゃん」
僕は、内心驚いて震えが走ったけど、その素振りは全く見せなかった。それくらいの覚悟は、冥道に入る時から出来ている。
「そうか。なら、今回のみ通らせてやろう」
「本当!?」
「あっ・・・・」
「?」
僕が叫んだとたんに、海楼が不自然なところで言葉を切ったと思ったら、バタッと前に倒れた。その後ろには、海楼よりも小さな子供がいる。その子の手には刀が握られていて、その刀からは、大量の血が滴り落ちている。海楼の血だ。
その子供は、その小柄な体にしては大き過ぎる刀を軽々と振ると、冥道の道に海楼の血を吹き飛ばした。その横には、倒れて動かない海楼がいた。
「何で!?」
「負けた奴に用はない。ましてや、掟まで破ったのだ。死刑実行だ」
そいつはそう言い捨てると、自らの仲間を置き去りにし、そのまま歩いて行った。
「待て!お前は海楼の仲間じゃないのか?」
「死人に仲間などいない。それに、俺をその弱者と一緒にするな」
「何でそんなに無慈悲に人が殺せるんだよ!」
「価値のないゴミは、平気で斬って捨てられる。そう言うことだ。最後の関門は、俺がお前の相手だ。その間に死なないようにしろよ。俺のことを憎く思うならな。その時相手をしてやる」
そいつは、そう言うと消えた。ワープをしたように、その場から消えた。残ったのは、僕と血だらけになった海楼だけ。まだ生きているのかわからないけど、生きていても、きっともう直ぐに死んでしまうだろう。
「何で・・・・」
僕は、頭が真っ白になりながら、倒れている海楼を見た。今度は、殺そうとなんかしていない。でも、海楼は殺された。
何で?僕に負けたから?そうかもしれない。でも、一番の原因は・・・・僕?
そう思って落胆していると、動かなかった海桜の目がゆっくりと開いたかと思うと、かすれた声で話しだした。
「犬神よ、そう落ち込むな。我は望んでそなたに道を譲った。これは承知の上なのだ。我も感じていた。冥道の奥から発せられる強大な力を。だから、止めてもらいたい。第四関門には、さっきの奴がいる。そいつは悪魔だ。どんなに残酷なことをしても、悪いとなんて思わない。だから、そなたのことも痛めつけて喜ぶだろう。でも、頑張ってくれ。そいつを抜いたら冥道の奥だ。そなたに、魔光霊命様のご加護があらんことを・・・・」
「海楼!」
海楼は、最後に僕の幸福を望んで死んで行った。魔光霊命様とは、魔界で言われる神様のことだ。
・・・僕は、どうしたらいいんだろう。何だかわからなくなって来たよ。望んでもいない死が二回も来るなんてさ。
でも、ここで立ち止まる訳には行かない。人間界に、桜っちや亜修羅。冥道で死んで行ったあの人と海楼の為にも、絶対に止めてみせる。
僕は、沸々と静かな怒りがこみ上げて来るのがわかった。あの子供は、なんとも思わずに海楼を殺した。それは許されることじゃない。だから、海楼の願いからも、絶対に、冥道霊閃の暴走を止めないと。
《犬神よ、こやつを天国へ向かわせてやれ》
「わかってる・・・・」
僕は、涙を振り払うように踊り続けた。ただ、海楼に無事天国に行ってもらいたいが為に、必死に踊った。
《海楼の死は、貴様のせいではない。安心しろ》
「・・・・行こうか、みんなの為に。もう、何だか自分の気持ちを隠すのにも疲れて来たよ。これからは、思ったことは全て行動に移す」
僕はかすれた声で言うと、海楼にお辞儀をしてから冥道の道を歩き出した。