大切な人達
「ねぇ、これ、受け取ってくれる?」
「・・・・これ、何?」
女の子が差し出して来たのは指輪らしいんだけど、何の飾り気もなくて、ただの銀色の輪っかみたいだった。
「一応、指輪。君にもらって欲しかったんだ」
「あっ、ありがとう・・・・」
僕がお礼を言ってその指輪を受け取ると、女の子は嬉しそうに笑った。その顔を見て、受け取ってよかったなって思ったけど、どうして突然こんなものを渡して来たんだろうって言うのは不思議でたまらなかった。
「でも、どうして突然指輪なんて・・・・」
「この噴水にはね、色んな噂があるんだ。伝説って言えばいいのかな?これは、それのうちの一つ!」
「どんな伝説なの?」
「・・・・まぁ、私の場合、おまじないって形になっちゃうけど・・・・また、再び出会えますようにって!」
「え?誰が?」
僕が聞くと、その女の子はとても重いため息をついたけれど、首を振って、直ぐに笑顔に戻った。
「私、そろそろ行かなくちゃ!」
「あっ、そうだよね、もう遅いし・・・・家まで送って行こうか?」
僕が言うと、女の子の顔が急に真剣になったかと思ったら、思い切り首を振られた。
「ダメ!絶対ダメ!!」
「えっ、あっ、いや・・・・別に、そんな変なつもりで言ったんじゃないんだけど・・・・」
「あっ、うん。わかってるよ?君が変なつもりでそう言ったんじゃないってこと。でも、ダメなんだ。絶対・・・・だって・・・・」
「ん?何?」
「ううん、なんでもない。とにかく大丈夫だから、ありがとうね!」
「うっ、うん・・・・」
「あっ、あのさ!」
「何?」
「今日、君と話せた時間、すっごく楽しかった!だから、来世でも会えたらいいね!」
「あっ、うん!」
「じゃあね!」
女の子は、最後に意味深な言葉を残して走って行ってしまった。さっき、女の子は、再び会えるといいねって言ってた。それなのに、来世でも会えたらいいねって・・・・最初の時に説明し忘れてしまったのかもしれない。
でも、正直言うと、そう言うおまじないとかの類は信じないのが僕なんだ。でも・・・・。
僕は、女の子から渡された指輪を見る。何だか、信じてみたいなって思ってしまう自分がいた。叶わないかもしれないけど、信じてみたいなって思ったんだ。
「あっ、湯たんぽ・・・・」
僕は、湯たんぽを返し忘れたことを思い出して、女の子が走って行った方向に向かって走って行く。すると、まだそこまで遠くに行っていないらしく、女の子の姿が見えたので、その後を追いかけて行くけれど、僕の声が聞こえないみたいでそのままある家の中に入って行ってしまった。その為、僕は、女の子が入って行った家のインターホンを押す。
しばらくすると、ガタガタッと言う音が聞こえた後、瞼の腫れた女の人が出て来た。
「あの・・・・どちら様?」
「あっ、えっと、これを返しに来ました」
僕がそう言って湯たんぽを差し出すと、その女の人は、なぜか急に泣き出して、僕は慌てるばかりだった。その声に気づいた男の人も出て来て、僕はどうしようかと思ったけれど、男の人は怒らないで僕のことを家に入れてくれた為、少しだけホッとした。
でも、家の中に入って、信じられない光景を見ることになった。
だって・・・・今さっき僕と話していたあの女の子が、まるで死んでしまったかのような形でこの家にいたからだ。
「・・・・あの、これ・・・・」
「信じられないかもしれないけど、これは本当なんだよ」
「でっ、でも、僕、この子に命を救ってもらって湯たんぽまでもらって、肉まんも・・・・」
僕は信じられなかった。まさか、あの子が死んでいたなんて・・・・。あんなに楽しく話せた子が、実は死んでしまっていたなんて・・・・。
「どっ、どうして亡くなったんですか?」
「もともと心臓が弱い部分があってね・・・・ショック死と言えばいいのだろうか・・・・。すまない、今の私には、先生に言われたことを説明することすら辛くて出来ないよ・・・・」
「あっ、あの、すみません・・・・」
僕は、酷いことを聞いてしまったなと思って、慌てて謝る。確かに、こんなに泣いていたら説明なんて出来ないよね・・・・。
でも、許して欲しい。あの子のお父さんお母さんも気が動転してるかもしれないけど、僕も、気が動転してるんだ。だって、さっきまで仲良く話していた女の子が、実は死んでたんだよ?魔界にいた時ですら、そんな経験したことがないよ・・・・。
「謝らなくていい。君も、気が動転してるんだと思うよ。さっきまで話していた子が実は死んでいたなんてね・・・・」
「でも、どうしてあの子は、毎日僕に毛布やら何やらを届けてくれてたんですか?」
「・・・・あの子は多分、自分と年が近い男の子に家がないことを知って、助けになりたいと思い、君に色んなものを届けていたんだろう。でも、あの子は飽きっぽい子だから、直ぐにやめてしまうんだろうなと私達は思っていた。だから、注意をしなかったんだ。
けれどあの子は、一日も忘れることなく君に物を届け続けるから、逆に、何か理由があるのかもしれないと思い、問いただしてみたら、毎日届け続けるうちに、どうやら、君のことが好きになってしまったらしく・・・・。どうりで続く訳だなと思った。しかし、私はそんなあの子のことを怒ってしまったんだ。『そんな奴、好きになってはダメだ!』って。
それから私は、君に物を届けることを禁止したんだ。これ以上、君への思いが大きくならないうちに、君のことを忘れさせようと思って。
あの子は、何度も私に頼んで来たよ。君のもとに行かせてくれって。でも、私は、がんとして許さなかった。
その時は、娘にとって、それが一番いいことだと思っていたんだ。しかし、今考えると、あんなことを言わないで、素直に応援してあげればよかったと思うんだ。彼女は、私がそう言ってから一週間経った時に死んでしまったのだから・・・・。
あんなことになるなら、君に物を届けることを禁止しなければよかった。あんな風にあの子の気持ちを消そうとなんてしなければよかった・・・・。ほんとに、今更後悔したって遅いだろうけど、沢山のことが悔やまれて仕方ないよ・・・・」
そう言って泣いてしまう男の人に、僕は、どうしたらいいのかわからなかった。
僕が無言でうつむいていた時、ふと、女の人が僕に話しかけて来た。
「その指輪・・・・」
「あっ、あの・・・・これ、お返しします!さっき彼女からもらったんですけど・・・・」
僕がそう言っているのが聞こえているのかいないのかわからないけど、女の人は席を立ち上がると、部屋の奥にある女の子の入っているお棺の蓋を開けて、息を止めた。
僕はどうしたのかと凄く気になったけど、聞く気にもなれないので、ずっと黙って女の人の方を見ていた。すると、女の人がゆっくりと振り返ると、静かに首を振った。
「返さなくていいわ。それは、あなたのもの。だから、あなたが持っていて」
「そっ、そうなんですか?」
「・・・・ええ。それを渡された場所はどこ?」
「えっと、噴水広場ですけど・・・・」
「なら、尚更あなたが持っていて。本当は私達も欲しいけど、彼女があなたにって渡したんだから・・・・。どうか、その指輪をなくさずに持っていて下さらないかしら?」
「・・・・わかりました」
「ありがとう。それを持っていれば、きっと、来世で再び会えると思うから・・・・」
そう言って、女の子のお棺を優しげな目で見つめている女の人を見て、僕は、あのおまじないを信じようと思った。叶いっこないなんて思わない。そうやって初めから考えるから、叶わないんだって・・・・。
僕は、ふと我に返って、ポケットからあの時もらった指輪を取り出す。と言っても、指輪とは言えないかもしれない。だって、あの指輪にチェーンを通してネックレスみたいにしてるからだ。
このチェーンをくれたのは、実は修さんで、僕がその話しをすると、チェーンをくれたんだ。そっちの方が無くし難いだろうって。
だから僕は、この指輪をとても大切にしてる。人間界にいる友達からもらった大事なものだから・・・・。
そう思ってボーッとしていた時、突然目の前に影が出来た為、僕は、急いで前を向くと、可愛らしいクマさんの着ぐるみが、僕に向かって手を振ってるのだ。その姿があまりにも面白くて、僕が笑うと、そのクマさんはとても喜んで、どこかに走って行ってしまった。
それにはびっくりして、何が起こったのか正直よくわからなかったけど、あのクマさんのおかげで元気が出たのは事実なので、そのクマさんにお礼を言いながら、再び凛君探しに戻ることにした。