たまになら、過去を思い出すこともいいでしょう
「ふぅ・・・・」
「さすがに疲れたか?」
「はい・・・・でも、何とか寝てくれてよかったです・・・・」
「うんうん。俺も、明日夏がいい奴でよかったって心底思ってるぜ?」
「えっ、なんでですか?」
「普通なら怒るけど、お前は怒らないでくれただろ?だから、よかったなって」
「はっ、はぁ・・・・いい人のつもりはないんですけど・・・・」
「そう思っても、素直に受け止めて置けって!」
「はっ、はい!ありがとうございます・・・・。ところで、凛君はどうしちゃったんでしょうか?」
「そうだよな・・・・もうそろそろ帰って来てもいい頃なんだろうけどな・・・・」
「そうですよね、買い物に出かけてからしばらく経ちましたし・・・・それに何より、結構寒い格好で出かけていたので、風邪をひいてないといいんですけど・・・・」
それだけが心配だった。僕は今まで、真冬の中を家もなしに過ごして来たから寒さには大分強いけど、凛君はそんなことないだろうし・・・・しかも、雪まで降ってるんだ。
「悪いけど、凛を迎えに行ってくれないか?噴水広場にいると思うからよ」
「噴水広場ですか?」
「ああ。まぁ・・・・訳は聞かないでやってくれ。とりあえず、頼まれてくれるか?」
「はい、わかりました!」
「俺は、凛の分の飯作ってるからよ、出来るだけ早く帰って来てくれよな!」
「了解です!」
竜さんに急いでと言われたので、僕は、玄関の近くにおいてあった自分のコートとマフラー、そして手袋を持って靴を履くと、走りながらコートやマフラーをつけた。そして、噴水広場に向かって走る。
噴水広場までの距離はそこまで遠くないから、走って行けば五分程度で間に合うだろうけど、凛君を見つけられる自信がない。なんだかんだ、凛君を探しに行ったけれど、修さんに呼ばれたりして凛君を見つけることは出来なかったし・・・・今回も、凛君が見つからない気がしてならないんだ。
そんなことを思いながらも、今更「見つかる気がしません」って言って家に戻るのも何だか悪い為、出来る限りは尽くそうと思う。
でも、その出来る限りも結構削られてるからな・・・・。今の僕の体力は、全体を十と見ると、二、三ぐらいしか残っていない。
そこまで僕の体力が減ったのは、遼汰君と遊んでいたことが原因だ。ただでさえ子供と遊んだことがないのに、子犬のコロまで一緒に遊んでたから、家の中を走り回り過ぎて、とても疲れてしまったんだ。
そんな遼汰君と子犬のコロは、走り回って疲れたのか、二人揃って眠ってしまっている。だから、僕はああやって休めたのだ。でも、二人が起きている頃は、ずっと走りっぱなしで、トレーニングをした後のような疲れだった。
僕は、何とか噴水広場まで走って来たけれど、正直、かなりキツかった。普通の人より運動能力が高いとは言え、最近はずっと運動をしてなかったから、体力とか色んなものが衰えちゃってたのかもしれない。
たまには運動もしなくちゃいけないなって思いながら、凛君らしき人物を探すけれど、今日はクリスマスだ。当然、カップルも多い訳で、噴水広場にあるベンチの至るところにカップルが座っている為、どこに凛君がいるのか凄く見つけにくい。
だから、少しだけ、噴水広場じゃないところに集って欲しいなって思ったけど、僕に、カップル達のことを邪魔する権利はないよねって思って、何とかその考えを追いやる。
それに多分、噴水広場にカップルが集る理由って言うのは、イルミネーションが関係してるんだと思う。
僕はあんまり興味がなかったからよく覚えてないけど、何時間おきかに噴水広場のイルミネーションが点くんだ。そのイルミネーションが点いている時間は役一分間だけなんだけど、その一分間の間に、女の子から相手の男の子へペアの指輪をプレゼントすると、ずっと一緒にいられると言う噂があるのだ。
でもまぁ、あくまでも噂だから、これ以外にも沢山あるんだよね。だけど、どれもみんな恋愛に関することだから、多分、みんな、それを待ち構えているんだと思う。
僕は、ふと、噴水広場から裏路地へ続く道をちらりと見た。
魔界にいた頃の僕は、そう言う噂とかおまじないとかは絶対信じる性質じゃなかった。非現実的で、叶う訳ないのにって思ってた。だから、例えば、流れ星に願い事をすると叶うって言うことも信じてなかった。
でも、人間界に来てから、段々と考え方が変わって来たんだ。そうなるきっかけは、多分、あの出来事からだろうな・・・・。
「寒いなぁ・・・・」
僕は、出来るだけ自分の体温を逃さないように自分の体を擦る。でも、そんなことでは、当然、寒さが紛れるはずもなく、体中が氷のように冷たくなってしまっている。
「全く・・・・ため息が出るよ。子供だって言うのに、家がないんだからさ」
独り言のようにつぶやいて、身を丸める。しかし、気温はかなり低く、マイナスに達しているかもしれない。しかも、雪まで降って来ている。
でも僕は、毎年毎年、この寒さを乗り越えて来たのだ。だから、今年も大丈夫だと思っていた。
・・・・でも、今年はなぜか、凄く変な感じだった。前年なら、体が冷たくて痛いほどだったのに、あまり痛みを感じない。それに、何だかよくわからないけど、凄く眠くなって来る。
ここで寝ちゃいけないのはわかってる。学校でも習ったことで、こう言う時に寝たら命はないと思えってさんざん言われた。
だからいつも、小説だったり漫画だったり。映画だったり、まぁなんでもいいんだけど、そう言うので寒さに耐えるシーンがあって、途中で眠っちゃって死んじゃう人を見て、僕は馬鹿だなと思ってた。寝ちゃいけないってわかっていて、どうして寝ちゃうんだろうって。
でも、実際自分がその立場に立ってみると、そう言う人達に対して謝罪しなきゃいけないなと思った。だって、堪えようのない睡魔なんだ。寝ちゃいけないってわかってるけど、まるで、死神に腕を引かれているかのように、瞼が重い。しかも、眠気を追い払おうと必死になるから、自らを励ますことも出来なくて、嫌なことしか考えられない。
僕は、今までに感じたことのない恐怖を覚えた。目を瞑ったら最後。睡魔に腕を引かれて、そのまま帰らぬ人になってしまう。
そう考えると、とても怖くて泣きたいほどだった。痛みも感じないで死んじゃうなんて、自分が生きているのか死んでいるのかもわからないなんて、それほど苦しいことはない。
僕は、そんなふうに苦しくなりたくなかった。だけど、心の片隅では、いっそ目を瞑って眠ってしまった方が楽なのではないかと考えるところもある。そんな風に、別々なことを考えてしまう自身の心が怖かった。
本当は、もう少し生きて、もっと色んなことを体験したいと思っている。でも、その半分には、今楽に死んだ方が、後々苦しんで死ぬよりはいいんじゃないかってものが混ざってる。
自分でも自分がわからなくなって、自分自身ですら僕は怖くなった。それは、一番いけないと言われていたことなのに・・・・。
先生は言ってた。「自身を信じれなくなった時。それは、お前にとって死を導く事になるだろう」って。だから、「自分だけは絶対に信じていろ。そうすれば、なんとかなる」って先生は言ってた。
僕は、今まで、一生懸命自分を信じて来たよ。希望も見えない中で。だから、去年までは、こんな寒さの中でも耐えてこれた。
・・・・でも、今年は、自身を疑ってしまった。だから、こんな風になっちゃったんだろうね・・・・。