善良な人と自分で言う人ほど善良ではありません
「遅いぞ、二人とも」
「悪いな・・・・ちょっと話しこんじまって・・・・」
「別にいいけどよ、もう少ししたら兄貴帰ってきちまうかもしれないし、それまでの間だけだからさ」
「もう直ぐ帰って来るのか!?」
「ああ、そうだぜ?」
「・・・・帰って来れないように、今から、玄関に落とし穴仕掛けて来る」
「おっ、おい!そんなことするな、俺が怒られる!」
凄く危ないことを実行しようとする聖夜を水斗が必死に押さえ込んでいる。あの様子だと、水斗の兄貴は、落し穴に落ちずに済むだろう。
聖夜は、自分の思い通りにならないと、強引にでも思い通りに変えようとするところがある。そこは、あいつの悪いところだと思う。
「そんなの関係ない!僕は、お前の部屋になんか行きたくない!」
「なんでだよ!そんな風に言うなよ!」
「うるさい!」
聖夜がそう怒鳴った途端、突如、水斗の足元に丸い穴が空き、水斗がその下に落ちて行く。
「全く、こうもうるさいと疲れる」
「聖夜、あんまり水斗のことをいじめないでやってくれよ?」
「・・・・僕はいじめてない。知った風なことを言うな!」
「でもよぉ、見てる限り、水斗が可哀相だぜ?」
「ふむ・・・・でも、僕は嫌だぞ!あいつの部屋に行くなんて!!」
「・・・・族長、どうにかしてやって下さいよ?聖夜、族長の言うことしか聞かないんですから・・・・」
「そんなことはないだろ?」
「とりあえず、説得してやって下さい!」
「そうそう。俺からも頼むぜ!」
そう小声で言って来たのは、さっき、聖夜に落とされた水斗だ。普段は、こいつの態度が物凄く気に食わないが、今回だけは、ちょっと・・・・ほんのちょっとだけ不憫に思った為、聖夜が俺の言うことを聞くかわからないが、一応、言ってみることにした。
「聖夜、あんまりわがまま言っちゃダメだぞ」
「・・・・別に、わがままを言ったつもりはないぞ」
「それでも、人を困らせてるってことは、わがままを言ったってことと一緒になるんだ。お前はそれでいいのか?」
「・・・・まぁ、確かにそうかもな。うむ、仕方ない。今日のところは見逃してやろう」
「そうか、助かったぜ!」
「僕は善良な人だからな、人を困らせることはしたくない」
聖夜のその言葉に、水斗と神羅は吹き出したけれど、聖夜に睨まれ、お互い顔を見合わせると、小声でコソコソ話し始めた。
「全く・・・・無礼な奴らだ」
「まぁ、あいつらは仕方ない。ああ言う奴等だからな」
「・・・・気分悪いな」
「なんか、悪いな・・・・」
「そう思うんなら、昨日の続きをやるぞ!」
「続き?」
「昨日、ゲームの途中だったじゃないか。それの続きだ!」
「まぁ・・・・いいか」
「うん。ほら、お前らやるぞ!」
「ん?何??」
「トランプ!」
「おっ、おう!」
水斗は、何だか訳がわからなさそうだが、とりあえず、トランプを取りに行った。
「な?族長の言うことなら聞くって言っただろ?」
「まぁ・・・・な」
「だから言ったじゃないですか。聖夜は、族長の言うことなら聞くって!」
「何回も言わなくていい!」
「へいへい。それにしても凄い懐きようだな、見ててびっくりするぐらいだぜ」
「はぁ・・・・」
俺は、いつまでもしつこく言ってくる神羅から離れると、聖夜の近くに座る。
確かに、俺もちょっとはそう思った。でも、あそこまでしつこく言われると、嫌になる。何事も、しつこいのは嫌いだからな。
「持って来たぞ!」
「よしっ、じゃあやろう」
「そうは言っても、何をやるんだよ?」
「うん・・・・ここは七並べがいいと思う」
「じゃあ、そうするか。神羅もやるか?」
「うーん、よく知らないから、俺は見てることにするぜ」
「そうか。んじゃ、配るな」
そう言って水斗がトランプを箱から出した瞬間、聖夜が慌てた様子で水斗からトランプを奪うと、自分で配り始めた。どうやら、俺と同じ性質の人間らしい。
「お前も自分で配らないと気が済まないんだな」
「いや、そこまでって訳じゃない。ただ、水斗がイカサマをしないようにな」
「そっ、それって・・・・酷くないか!?」
「さ、始めるぞ」
「ちぇっ、なんだよ・・・・」
水斗はぶつくさ言いながら、配られたカードを持ち、七がないかと探している。俺も、配られたカードを見て七がないか探すが、一枚もない為、そのまま二人が七を出すのを待つ。
「なあなあ族長、七並べって、どんなルールなんだよ?」
「まずは、七を先に出して、次に出せる数字をどんどん置いて行くんだ。例えば、七の次に出せるのは、八と六。五の次は四。こんな風に、みんながどんどんカードを置いて行けばいいんだ」
「もし、出せるカードがなくなったらどうするんだよ?」
「パスを使う。そうしたら、一ターンだけカードを出さないで終われるが、パスは三回までだから、三回パスを使った後カードが出せなくなったら、そいつの負けだ」
「ほうほう、なるほどな・・・・うーん」
神羅はそんな風なことをブツブツ言いながら、俺の持ってるカードをじっと見て来る為、俺は、神羅に見せないようにする。別に見られてもいいのだが、こいつの場合、俺の持ってるカードを言いそうだから、それを阻止する為にも、絶対に見せたくなかったんだ。