誰でも苦労してるものですね
「あの・・・・篠崎さん、何か手伝おうか?」
「いいわ」
「でも・・・・結構な食器の量だからさ。ね?手伝わせてよ」
「・・・・じゃあ、私が洗ったお皿を拭いて、テーブルの上に置いてくれる?」
「うん、わかった!」
「お皿を拭くタオルは、そこにかかってるやつね」
私は、篠崎さんの指差したタオルを取ると、どんどん洗われて行く食器を急いで拭いて行く。こうやって手伝っていると、篠崎さんの手際のよさがよくわかる。さっき、料理を並べてる時とかもそう感じてたんだけど、凄く手際がよくて、とても高校生には思えない。
「篠崎さん、家事が凄く上手だね」
「家事が上手って・・・・何?」
「うーん、えっと、手際がいいって言うのかな?動きに隙がなくて凄いなって思ったんだ。よく、お母さんのことを手伝ったりとかしてるの?」
私が聞くと、今までずっと手を止めなかった篠崎さんが手を止めて、ため息をついた。その行動を見て、自然と、聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして慌てて話しを変えようとしたけど、それよりも早くに篠崎さんが口を開いて、私の言葉はかき消される。
「両親は、六年前に交通事故で死んだわ」
「・・・・」
「その当時、私は十歳で玲菜は四歳だったから、私達は、自分達と同じような境遇の子がいる施設に連れて行かれたの。そこで、私は高校生になるまで育ててもらったんだ」
「・・・・と言うことは、結構最近までその施設にいたんだね?」
「そう。本当は、十八歳になるまで面倒を見てくれるところだったんだけど、そこの人達には凄くお世話になったから、これ以上迷惑をかけたくなくて、高校生になると同時に、私と玲菜はその施設を出て来たの」
「そうだったんだ・・・・なんか、聞いちゃってごめんね?」
「別にいいわ。家事全般私がやってるから、石村さんには手際のいいように見えたのかもね」
「そうなんだ・・・・それじゃあさ、お金はどうしてるの?」
「バイトしてるの。だけど、それだけじゃやっぱり辛くて、前にいた施設から少しだけもらってるの」
「そうなんだ・・・・それでも、篠崎さんは凄いよ!学校だってあるのに、家事とバイトまでこなして・・・・しかも、凄く頭もいいよね?ほんと、凄く尊敬しちゃう!」
「そんなことない・・・・」
篠崎さんはそう首を振るけど、私は凄いと思う。私だったら、とてもじゃないけど、そんなハードな生活を続けることは出来ない。本当に凄いと思うよ。
「私も、お姉ちゃんは凄いと思うよ!」
「ね、玲菜ちゃんも思うよね?」
「うん!」
「まぁ・・・・ありがとう。でも、もうこの話は終わりにしましょ」
「うん。わかった」
私はうなずき、今度は何の話をしようかなと思った時、玲菜ちゃんが、どうしてあんな行動をしたのかと言うことを思い出して、聞いてみることにした。
「あのさ、玲菜ちゃん。ちょっと聞いていい?」
「なんですか?」
「あのね、さっきご飯食べてる時、聖夜君が玲菜ちゃんの隣に座った途端、逃げるように距離を置いたでしょ?どうしてかなって思って・・・・」
「えっ!?」
私の言葉に驚いたのか、玲菜ちゃんがバランスを崩し、椅子ごと床に倒れる。私が慌てて助け起こすと、玲菜ちゃんは力ない笑顔を浮かべた。きっと、凄く痛いんだろう。でも、私に心配をかけないように無理に笑ってるみたいだ。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっとバランスを崩しちゃっただけだから!」
「そう?凄い音がしたけど・・・・」
「うーん」
「ちょっと見せて」
私達の会話を聞いていた篠崎さんが、手を拭きながら近寄って来る。そして、打ち付けた背中を見る。
「大丈夫だとは思うけど・・・・一応湿布張る?」
「ううん、いいや。そんなに痛くないし。よいしょっと」
「なんか、ごめんね?」
「お姉ちゃんは気にしなくていいのに・・・・。私が勝手に転んじゃっただけだから!」
「そっか、そう言ってくれると助かるよ。それでなんだけどね、もしかして、さっきの話、聞いちゃいけないことだったのかな?」
「・・・・そっ、そんなことないけど、ちょっとびっくりしちゃっただけ。私、そんなにあからさまだった?」
「あからさまってほどじゃないけど・・・・結構あからさまかな?」
「・・・・ついて来て」
玲菜ちゃんはそう言うと、なんだかショボンとした様子で椅子から立ち上がると、どこかに向かって歩いて行く為、私はどうしようかと篠崎さんの方を向いた。でも、篠崎さんは首を振ってくれたから、私は、篠崎さんに謝ってから、玲菜ちゃんの後をついて行くことにした。