信頼とは、しようとしてするものではなく、自然としているものなのです
「ところで聖夜、堕天使の手がかりは摑めそうか?」
「・・・・それ、さっきも聞かなかったか?」
「そうだったか?」
「ああ、だから言っただろ?今は、発信機を探してる状態なんだ。だから、手の尽くしようがない。ただ待ってることが、僕達の仕事だ」
「ふ~ん。んじゃ、俺、部屋戻ってるな?」
水斗はそう言うと、自分の部屋に戻って行ってしまったが、かなり驚いた顔でリビングに戻って来た。
「おっ、俺の部屋が片付いてるぞ!」
「そうか、ならよかったじゃないか。あの部屋、歩きづらくて全部捨ててやろうと思ってたほどだからな」
「そっ、それはやめろよ!で、誰か片付けてくれたのかが不思議なんだよな・・・・」
「・・・・何が不思議なんだ?」
「だってよ、聖夜は絶対そんなことしてくれなさそうだしよ、修だってありえない。だけど、二人以外は俺の部屋に行ってないんだ。だから、誰が片付けたのかなって・・・・」
「そんなことどうでもいいだろ?」
「うーん」
水斗はそう言いながら、何だか納得が行かないようで、何度も首をかしげている。そんな水斗を見ても、絶対に俺は自分が片付けたと打ち明けるつもりはなかった。
「ねぇ、食べ終わったんなら、そこ退いてくれない?片付けの邪魔だから」
「あっ、悪いな・・・・。じゃあみんな、俺の部屋に来るか?」
「狭い」
「文句言うなよ~、じゃあ、兄貴の部屋にでも行くか?」
「そうだな、お前の部屋よりは狭くないし清潔感があるしな、それがいい」
「ったく、ひっでー話だな」
水斗はそんな文句を言いながらも、自分の部屋の横にある階段を上って行く。俺達も、その後をついて行くのだが、女だけ、なんだかオロオロして動こうとしない。
「どうした?」
「あっ、えっと・・・・私のことは気にしないで!」
「ならいい」
何だか様子が変だが、気にするなと言われるのなら、これ以上聞くのはおかしいだろう。俺がそう思って階段を上ろうとすると、後ろから神羅に話しかけられる。
「気になるんですかい?」
「何がだ?」
「友美のことですよ」
「・・・・別に、気になってはいない。ただ、オロオロしてるから変だなって思っただけだ」
「へ~、その割には、俺に聞かれた時、随分驚いてたみたいじゃないですか?」
「・・・・うるさい」
「へいへい、じゃあ、違うと言うことにしておきますよ~」
神羅はそう言うと、ニヤニヤしながら俺を追い抜いていった。その様子がかなりムカつき、服でも引っ張ってやろうかと思ったが、もし、それで後ろに倒れて来たら俺が困るので、やめることにした。
「今、すっげー危ないこと考えなかったか?」
「いいや。考えてない」
「どうせ、イラついたから、服でも引っ張ってやろうと考えたんだろ?」
「・・・・」
俺は、一段上に立っていた神羅を無言で見上げた。今度ばかりは、本気でこいつは心が読めるんじゃないかと思った。
「まあまあ、細かいことは気にすんな。ほら、置いてかれるぞ!」
「お前、実は、心が読めるんじゃないのか?」
「まぁ・・・・俺は信頼してるからな、族長のこと」
「・・・・俺はわかったことないぞ?」
「うーん、じゃあ、族長は俺のことを信頼してないのかもな」
そう言われ、俺は思わず足を止める。俺は、神羅を信頼してるつもりだ。でも、本当のところは信頼してないって言うのか?
「・・・・もし、そうだったら、お前はどう思う?」
「ん?そりゃ仕方ないなって思うぜ?」
「それだけか?」
「まぁ・・・・ちょっと悲しいけどよ、仕方ないなって思うようにしてるぜ。それによ、心が読めないからって信頼してない訳でもないだろうしな」
「しかし・・・・」
「そもそも俺は、相手を信頼してるしてないと言うよりは、態度とか仕草で相手が考えてることが大体わかるからな」
その言葉を聞いて、自然と体から力が抜けて来る。神羅は信頼してくれてるのに俺は信頼してやってないなんて・・・・と思っていたが、今の話を聞くと、神羅も俺のことを信頼していないように聞こえたからだ。
「って言うことはなんだ?さっきの言葉は嘘だったのか!?」
「えっ、あっ、いや・・・・嘘じゃないぜ!絶対!!」
「『絶対』って言葉をつけるなんて、凄く怪しいな」
「嘘じゃないぞ!ほら、俺達妖怪ってさ、互いを信頼しあってると、相手の考えてることがわかったりするだろ?って言うことはよ、俺も族長も、互いのことを信頼してるってことになるじゃんかよ?」
「・・・・まぁ、確かにな」
俺がうなずくと、神羅は微笑み、俺の背中をバシバシ叩いた。その力はかなり強く、本当は、「やめろ!」って怒鳴ってやりたいぐらいだったが、何となく神羅の気持ちがわかった為、俺は、何も言わないでいた。
「まぁ、それによ、そんなに気にしなくていいんだぜ?俺は、族長の護衛だ。ある程度のことなら、我慢するしな」
「・・・・もう、護衛じゃないだろ?種族争いは終わったんだ」
「でもよ、なんか、どうも護衛と言うのが体から抜け切らなくてな・・・・」
「俺がそう言うことを気にするのは、お前をただの護衛だと思ってるんじゃなくて、仲間だと思ってるからだ。だから、いくらお前が気にしなくてもいいと言おうが、俺は絶対気に気にしてやるからな」
俺の言葉に、神羅は目を丸くしたが、嬉しそうな顔をすると、再び背中を叩いて来た為、今度こそ我慢出来なくなって、文句を言った。
「叩くな!」
「悪いな族長。でも、仲間って思ってくれてるんだな、それを聞けて嬉しかったぜ!」
「・・・・」
神羅があまりにも嬉しそうにする為、俺はなぜだか凄く恥ずかしくなって来た。何で自分がこんな気持ちになるのかわからない。でも、何となく思うのは、自分が仲間だと思うことでここまで喜んでくれる奴がこの世にいるんだなとわかって、嬉しかったのと、少し恥ずかしかったのかもしれない。
「なんだ、族長、どうした?」
「わからない。でも、なんだか変だ」
「ふむ、まぁ、族長も喜んでくれていることですし、ハッピーエンドですな」
「まぁ・・・・そうなんだろうな」
「お前等、そんなとこで話しこんで何やってんだよ!早くこっち来いよ!」
「ほら、呼んでるぜ!」
「ああ」
水斗が早く早くとうるさく急かす為、俺達は、仕方なく水斗達のいる部屋に急ぐことにした。