要は、気持ちの問題ですよね?
「来てやったぞ!」
「ああ。どうだった?堕天使の手がかりは摑めそうか?」
「うむ・・・・もう少し時間がかかるみたいだから、後はほっとけばいい」
聖夜君はそう言うと、玲菜ちゃんの隣に座った。本人は、それに意味はないらしいけど、玲菜ちゃんはなぜか物凄く驚くと、慌てて椅子から立ち上がり、有澤君に話しかける。
「あのね、お兄ちゃん」
「ん?どうした?」
「お兄ちゃんの膝の上に座ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
有澤君が言うと、玲菜ちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべて、有澤君の膝の上に座る。こうやって見てると凄く仲がよくて、羨ましいぐらい。
でも、それと同時に、どうして急に有澤君の膝になんか座りたいって言い出したのかが気になった。今までは、普通に椅子に座ってたのに、聖夜君が隣に座った途端、離れるかのように有澤君の膝に座ったんだ。
なんでそんなことをするんだろうなと不思議に思う。玲菜ちゃんと聖夜君は同い年ぐらいだろうけど、聞いてないから本当のところはわからないし、知り合いでもなさそうだ。お互い、知らんぷりしてるし。
「全く、急に走り出すなよ・・・・」
「修、遅いぞ!僕はとっくに食べている」
「嘘付け~お前、さっき来たばっかじゃんよ」
「うるさい!」
「いてっ!蹴るなってば・・・・全く、暴力的なんだからよ」
「それが嫌なら、僕の前に座るな!」
「仕方ないだろ?修が真ん中座ってるんだし、それに、もともとお前がそこに座ったんだろ?」
「僕は悪くない!」
「お前等、今は食事中だろ?静かにしろ」
喧嘩をしていた神羅さんと聖夜君は、伊織君の言葉にシュンとなって黙り込む。それを見てため息をつきながら、伊織君が私の隣に座る。
私は、そう思った途端、何だか凄くドキドキして来て、伊織君の方を見れなくなって来た。だって、授業中だって隣の席だけど、今よりも、距離が遠い。でも、今は、私との距離、約三十センチ。過去最大の近距離だ。
「おい、お前、どうして僕が隣に座ったら、逃げるように水斗の方に行ったんだよ?」
「・・・・」
「無視をするな!僕の言葉が聞こえないのか!」
聖夜君がそう怒ると、玲菜ちゃんはやっと聖夜君の方を向いたかと思ったら、ベーっと舌を出した。それに聖夜君が怒って、玲菜ちゃんの方に歩いて行こうとするけれど、立ち上がれないようで、必死にもがいてる。もしかしたら、机の下で、伊織君が抑えてるのかもしれない。
「なんで、僕の邪魔をするんだ!」
「イラつく気持ちもわかるが、ちゃんと飯は食っておいた方がいいぞ?」
「そんなこと言ったって、修はちゃんと食ってないじゃないか」
聖夜君がそう言うと、伊織君は顔をしかめて、仕方なさそうに食べ始める。それを見て、聖夜君も、嫌そうに食べ始める。
「ねぇあなた達、そんなに嫌なら食べなくていいのよ?」
ついに痺れを切らしたように篠崎さんが言った。これを作ったのが誰だかわからないけど、もし篠崎さんであるなら、二人はとても失礼なことをしてると思う。しかし、二人は、そんな篠崎さんの言葉を無視して食べ続ける。
「・・・・なんなのよ、全く」
「大丈夫だ、花恋。お前の料理はまずくないって!毎日食ってる俺が保障してやるって!」
「別に、まずいってことを心配してる訳じゃないわ。美味しいってことは自分でもわかってるもの」
有澤君の言葉に、篠崎さんは少し冷たい態度で答えた。それを見ると、有澤君が言っていた、嫌われてるんじゃないかって言う言葉もうなずける気がする。
「そっ、そっか・・・・」
「お姉ちゃん、せっかくお兄ちゃんが褒めてくれたのに、その言い方はないんじゃないの?」
「私は別に、酷いことを言った覚えはないわ」
「・・・・」
何だか気まずい雰囲気になって、喧嘩が起こりそうになった時、今まで黙って食べ続けていた伊織君が箸を置いて、篠崎さんの方を見て言った。
「俺の表情が気に食わなかったみたいだが、俺は別に、お前の料理を食うことが嫌だったんじゃない。腹が減ってないのに食うのは嫌だったんだ」
「・・・・でも、結構食べてるじゃない?」
篠崎さんに言われて、伊織君が黙り込む。必死に何かを考えてるみたいだけど・・・・、何を言いたいんだろう?
「・・・・お前の料理が思ったよりも美味かった。だから、腹が減ってなくても沢山食えた。自分でもここまで食べたことにびっくりしてる。・・・・そう言うことだ」
「・・・・へぇ」
「僕も、修の言葉に同意だ。最初は、どんな不味い物を食わされるかと思ったけど、食べてみたら、物凄く美味くてな、言葉をしゃべるのも面倒だった」
「・・・・あっ、そう。ならいいわよ」
篠崎さんはそう言ってそっぽを向く。私の方からだと篠崎さんの顔は見えないから、本当のところはよくわからないけど、もしかしたら、照れてるのかもしれない。
それにしても・・・・、伊織君にここまで褒めてもらえるなんて羨ましいなぁ・・・・。
そう思いながら、私も料理を口に運んでみて、その美味しさにびっくりする。それは、今まで食べた事もないようなものだった。
私だって料理は苦手じゃないけど、ここまで美味しくは作れない。・・・・もし、あの女の子が私よりも料理がうまかったら・・・・。
そう考えて、慌てて首を振る。どうも、あの女の子のことが頭から離れない。伊織君にあの女の子のことを聞いてみるのもいいかなとは思ってるんだけど、何だか聞けない。だから、こうやってモヤモヤしてるんだ。
「・・・・なんだよ?」
「え?」
「あんまりジロジロ見るな」
「あっ、ごめん」
私は、慌てて伊織君から目を逸らすと、ため息をついた。絶対に、あの電話の相手の女の子のことなんか聞けっこない・・・・。
私がオロオロしていると、いつの間にか後ろに立っていた神羅さんに、小声で話しかけられる。
「俺から聞いてやろうか?」
「えっ?」
「俺は、お前が気に入ったぜ。だから、協力してやるよ」
「えっ?何をですか?」
「まぁ、色々だな。で、族長に何を聞きたいんだ?」
「族長・・・・?」
「ああ、気にすんな!で、何を聞きたんだよ?」
「あっ、えっと・・・・伊織君と仲がよさそうな女の子のことなんですけど・・・・」
私がそう言うと、神羅さんは思いあたる子がいるみたいで、うなずきながら答えてくれた。
「多分、そいつは栞奈だな」
「栞奈ちゃんって言うんだ・・・・」
「ああ。栞奈は、修の幼馴染で、長年の付き合いらしいな。でも、修の方は、長年一緒にいるあまり、意識はしてないみたいだな。栞奈の方は気があるみたいだけどよ」
「そうなんですか!?」
「ああ。だからよ、取られないように頑張れよ、俺は、お前の方を応援してるからな!」
「え?」
私はそう聞き返すけれど、神羅さんはニコニコしながら席に戻って行ってしまった為、もう一度聞きかえすことは出来なくなってしまったけど、神羅さんは確かに、私を応援してくれると言った。その言葉がとてもありがたかった。
私は、自然と笑う口を押さえながら、篠崎さんに話しかける。神羅さんも応援してくれてるんだ。私も頑張ろう!
「あの・・・・篠崎さん」
「なに?」
「もしよかったらね、料理・・・・教えてくれないかな?」
「料理?」
「うん、私もね、篠崎さんみたいに上手になりたいの」
「・・・・いいわ」
「ありがとう!」
私は、篠崎さんに精一杯のお礼を言うと、再び料理を食べ始めた。