恋する女の子は、今日も元気です
「あっ、あの・・・・大丈夫なんですかね?伊織君」
「ん?ああ、きっと大丈夫だろうよ、あんたに怒られて、いじけてるだけだろうし」
「いじけてない!」
「な?いじけてるだろ?」
「あの、伊織君、ごめんね、怒らせちゃったなら謝るよ」
私がそう言って伊織君に近付くと、フイッと顔を背けられて、かなり傷つく。あの時はつい怒ってしまったけど、今は、伊織君に嫌われないかと言うことが心配だ。
「なんか・・・・悪いな、俺のせいで」
「いえ、そんなことないですよ。私が怒ったのが悪いんですし・・・・」
「まぁ、修はいつもあんな感じなんだ。許してやってくれよ」
「痛くないんですか?」
「うーん、痛くないって言ったら嘘になるけどよ、そこまで本気でもないから、そこまで痛くないぜ?」
「そうなんですか・・・・でも、指が折れるって言ってたので・・・・」
「まぁ、それぐらい、大したことないしな」
神羅さんにそう返されて、私は、思わず目を瞑ってしまった。別に、目を瞑るようなことはなかったけど、足の骨が折れちゃうことを想像したら、自然とそんな反応をしちゃったんだ。
「まぁ、とりあえず、いじけてる修はほっとくに限るんだ。ほっとこうぜ?」
「あっ、はい・・・・」
私は、嫌われないかととても心配だったけれど、あんまりしつこく話しかけるのもいけないかなと思って、神羅さんに従う。
「あれ?修、何やってんだ?」
「いじけてんだよ」
「いじけてない!」
「ふーん、なるほどな、理解した」
「そう言えば、聖夜はどうしたんだ?」
「聖夜なら、地下室に連れてった。もう直ぐ玲菜が飯持って来るって言っても聞かないから、仕方なくおいて来たんだ」
「そうか・・・・」
私は、神羅さんと有澤君のやりとりを無言で見ていた。面白い訳じゃないんだけど、何だか、見てしまうんだ。
そんなことを思いながら二人のやり取りを見ていた時、玄関の扉が開いた。さっきの女の子だろうと思っていたのだけれど、入って来たのは、私と同じ年くらいの女の子で、ちょっと驚く。
「あれ?篠崎さん?」
「あっ・・・・」
篠崎さんも驚いたみたいで、私の方を見て立ち止まってしまっている。
どうして私がこの子の名前を知ってるのか。それは、この子が同じクラスで、しかも、かなりの美少女だからだ。きっと、学校でも知らない人はいないだろうって言うぐらい。伊織君や有澤君の女の子バージョンって感じなのかな?それに、スタイルもよくて、それになにより・・・・。
そこで私は、篠崎さんの胸を見た。うん、大きい。いつも見てるけど・・・・って、変な意味じゃないけど、大きい。
そこで私はため息をついた。私も、別に小さい訳じゃないけど、篠崎さんほど大きくもない。中途半端なんだ・・・・。
噂では、Fカップあるらしいみたいなことが流れてるけど、実際のところ、どうなんだろうな・・・・それ以上って言われたらうなずけるし、それ以下と言われてもうなずける・・・・。
「何?」
「えっ、あっ、ごっ、ごめんね!」
私があまりにもずっと篠崎さんの胸を見てるから、少し嫌な気にさせてしまったみたいだ。でも、仕方ないじゃない!これは、男の子じゃなくても、見ちゃうよ・・・・。
それにしても、どうして篠崎さんが有澤君の家に来たんだろうか・・・・。篠崎さんは私服だから、学校の用事って訳でもなさそうだし・・・・。
「おおっ、花恋!玲菜はどうしたんだよ?」
「玲菜なら、もう遅いから寝かせたわよ」
「なっ・・・・それじゃ可哀相だろ?クリスマスなんだから、もう少し長く起きててもいいじゃんかよ!」
有澤君の言葉に篠崎さんは怒ったようで、ため息をつくと、お盆を置いて、有澤君の家から出て行ってしまった。
「あの・・・・今のって、篠崎花恋さんだよね?随分と仲がよかったみたいだけど、知り合いなの?」
「ん?花恋は、俺の幼馴染だよ。でもよ~、あいつ、最近凄く冷たくなっちまって、嫌われてんのかな?って」
「うーん、嫌ってはないと思うけどな」
もし、有澤君が言うように、篠崎さんが有澤君のことを嫌っていたのなら、こうやってご飯を持って来てくれることもないだろうし・・・・それに、篠崎さんの性格なら、話さないぐらいかもしれない。
あっ、篠崎さんはね、クールって言うのかな?決して冷たい訳じゃないんだけど、ちょっと愛想がないから、女の子からは反感を買ってるんだよね。それに、好き嫌いが凄く別れてる子だから、嫌いな子とは口を利かないみたいだ。それを考えると、有澤君のことを嫌ってはいないかな?とは思うんだけど・・・・。
私がそんなことを思っていると、再び扉が開いて、怒った顔の篠崎さんと、笑顔の玲菜ちゃんが入って来た。
「これでいいでしょ?」
「お兄ちゃん、ありがとう!私、本当はね、まだ眠たくなかったの。でも、お姉ちゃんが無理矢理寝ろって言うから・・・・」
「ちょっ、玲菜!」
「花恋、玲菜のことが心配なのもわかるけど、あんまり強引に寝かせようとするのはよくないぞ」
今までニコニコしていた有澤君が真顔でそう言ったからか、篠崎さんは一瞬悲しそうな顔をしたけど、直ぐに後ろを向いて家から出て行こうとした。でも、有澤君が腕を摑んで引き止める。
「どうせなら、花恋もここにいろよ。わざわざ帰る必要もないだろ?」
有澤君に手を摑まれてるからかわからないけど、篠崎さんの顔が赤くなってるのが見える。それを見て、私は確信した。篠崎さんは、有澤君のことが好きなんだって。
でも、篠崎さんは、摑まれた手を慌てて振り解くと、ため息をついた。
「別に、私が帰ったっていいでしょ?玲菜を連れて来たんだから」
「別に、玲菜が来たからって、お前が帰る必要はないじゃんかよ」
有澤君が篠崎さんのことを真剣な目でじっと見ている。この顔を見てると、篠崎さんが有澤君を好きになった理由がわかる気がする。
篠崎さんも、じっと有澤君のことを見てたけど、急にハッとした表情をして、慌てて視線を逸らした。
「わっ、わかったわよ。ここにいる!それでいいでしょ!!」
「ん、それでいい。じゃ、玲菜、食おうか」
「うん!」
玲菜ちゃんは嬉しそうにうなずくと、有澤君の隣に座った。私は、それを見て、自然と篠崎さんの方を向いた。すると、やっぱり、複雑そうな顔をしていた。
「・・・・篠崎さん」
「何?」
「よかったら、ここ・・・・座る?」
「なんで?」
そう問われて、私は思い切り悩んでしまう。だって、「なんで?」って聞かれるとは思ってなかったから・・・・。
でも、とりあえず、適当な言い訳を作る。
「私ね、こっちの席の方がいいからさ、ここを篠崎さんにと思って・・・・」
「どこの席に座ったって、みんな一緒だけど?」
「あっ、えっと・・・・。とにかく、私はこっちがいいの!だから、篠崎さんはここに座って!」
最後には、強引に篠崎さんを有澤君の近くに座らせると、その隣に私は座った。そこは、伊織君の隣の席なんだ。だから、ここに座りたかったのは本当なんだ。
「・・・・ありがとう」
「ううん、気にしないで。私も嬉しいから」
「え?」
「ううん!」
私は、慌てて首を振ると、少しだけ心を開いてくれた篠崎さんに微笑んだ。今までは、結構冷たい雰囲気の女の子でしかなかったけど、今の私には、篠崎さんが恋する女の子に見えた。